Nicotto Town


まぷこのぶろぐ・・・か?


「契約の龍」(116)

 「…長期戦になったら、アレク一人では、心許ない、かと。…卒業を控えた身、でもあるし」
 再び父親の方に向き直る。
 「私はもともと学院の卒業には拘っておりませんが…アレクはそうではありませんもの。成績評価の出る時期に、つき合わせることはできませんわ」
 「……だがな、先ほどから、捨てられた仔犬のような目で、そなたの方を見ておるぞ」
 捨てられた仔犬、って…そんな風に見えるのか?
 クリスが再びこちらを見上げる。
 「ごめんね。アレクの卒業まで待ってはいられないみたい。…そうでしょう?お父様」
 クリスがそっと父親の手をとる。健康であれば、薄桃色をしているはずの爪が、白い。
 「一度や二度、ではありませんよね?いつからですの?」
 「…わからんな。事によったら、最初からずっと、かもしれん。…魔力の対価なのだろう?これは」
 「…ですが…これでは、正当な報酬とはいえないでしょう?対価を支払うばかりで魔力を提供されていないじゃありませんか」
 「どうだろうな。今までの分をまとめて支払う時期が来ただけ、かもしれんぞ?最後に請求されるのが、お前になるのか、レイになるのか、判らないがな」
 怖い事を言わないでほしい。
 「そういうお考えで、今まで放置されてきたんですの?「金瞳」が一人もいなくなった後の事は、お考えにならなかった、と?」
 「…いや、単なる思い付きだ。たった今の、な。…どうも具合が悪いと、弱気になっていかんな」
 国王が、自嘲的な笑みを浮かべる。
 「…まだ、やるべき事があるのに」
 「まだ、とかおっしゃらないでください。…そんな、いまにも儚くなるような…」
 クリスの声が湿り気を帯びる。
 「そなたの見立てではどうなのだ?少なくとも、今日、明日、という事はあるまい?」
 「あれが…どれくらいの頻度でやって来るか判らないのですもの。判断のしようがありません。ですが…あと数回、あれに晒されたら…気候のいい時期ならともかく」
 「ふむ…「龍」の御機嫌次第、という訳か」
 「ですから、できる限り早く…」
 「まあ待て。祖母君に来てもらえるとしても、「今」はまずい。目立ちすぎる」
 …まるで、都合がつきさえすれば、明日にもここへ来られそうな口ぶりだが?「国境の向こう」にいるんじゃなかったか?
 「…では、いつならよろしいの?祖母がうちを空けるには、一日二日の準備期間がいると思うのですけど…」
 「そうだな…年明け…冬至祭が終わった後ならば、人目も少なかろう」
 「…そこまで…もちますか?」
 「クリスティーナ。いくらなんでも、そう頻繁にあるわけではないぞ?次が来るまで、半月やそこらは、まだ余裕があるだろう。…今までの例からすると」
 娘に向けて、安心させるような微笑みを向ける。が、傍から見ると、無理をしている感じは否めない。
 「…でも、明日には来ない、という保証は、ありません。今の時期は、ただでさえ心臓にはよくないのに」
 「それはない、と言ったろう?根拠を聞きたいか?」
 「お聞きしたいのは、山々ですが…換気したら、部屋が寒くなってきました。暖かい場所へ移ってからにしましょう」
 「…そうか?そんな感じはしないが」
 「それは、私がそうしているから、ですわ。私の方は、寒くてかないません。…換気を頼むときに、温度が変わらないように、と頼むのを忘れてしまいました」
 そういえば、いつの間にやら、シルフの姿がない。
 「そうか、気付かなくて済まんな。…アレックス?」
 …不意に、ずいぶんと懐かしい呼ばれ方をしたので、反応が遅れた。
 「…あ、すみません…何か?」
 「あと少しなのでな、手伝ってもらえんか?」
 そう言って、体を起こそうとする。
 「立ち上がっても…大丈夫なのですか?」
 「「龍」が手を引いているから、とりあえずは、大丈夫。完全に復調するには、今少しの休息と、補給が必要かもしれないけれど」
 クリスがそう答えながら、こちらを見上げる。
 「運ぶのを、手伝って、もらえる?」
 「引き受けた事は、ちゃんと実行しますよ。えーと…運ぶ、というと、自力で歩くのは、大変そう、という事でしょうか?」
 「二人がかりで、両側から支えて、時間をかければ踏破できなくもない、というところでしょうか。でも、それは消耗が大きすぎます」
 「踏破、とは、大げさな」
 「…いえ、クリスの方に、その余力がないんです。化粧のせいで、顔色が判りにくいですが…大分消耗しています」
 控室でうずくまってしまったときに、気付いていたのに。
 そのあとの様子で、すっかり失念してしまっていた。
 「…でも、私は、自力でちゃんと歩けるから」
 「…うん、わかってる」
 クリスの手を取って、立ち上がらせる。
 「でも、消耗してるから、ほら、こんなに手が冷たい」
 そのついでに、ちょっとばかり「力」を注ぎ込んでおく。手を温めるだけ、を装って。
 「…では、陛下、少々失礼致します」

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