【人と妖と硲者】第一部 第一章 第壱話
- カテゴリ:自作小説
- 2017/04/08 10:17:21
山奥に街にある物よりも少し大きめな家がある。
屋根に草は生え、壁に苔が付いているが庭はきちんと手入れの行き届いたこの家に私達は住んでいる。
人の寄り付かないそして、妖の活動場所からも離れたちょうど中間地点。
ここに家がある事の理由は一つ。
私達が人間でも無く妖でもない中途半端な生き物だからだ。
妖である空狐の母と陰陽師である父の間に生まれたのが私、狐華三葉。
私達のような中途半端な生き物は妖からも人間からも硲者と呼ばれている。
硲者は本人が言わない限り妖の中にも人間の中にも交じることが出来、硲者にしか相手が同じ生き物なのだと判断出来ない。
でも、私は街で暮らそうとも妖と暮らそうとも思わない。
妖は種族によっては共食いだってする。
それで食べられたりなどはごめんだ。
そして、人間は嫌いだ。
妖と言うだけで殺そうとしてくる。
だから私達の家は両方の種族のちょうど間に作ってある。
今のこの位置が一番丁度良いのだ。
少し引っかかる引き戸を開け家の中に入る。
家の中はシン…と静まり返っている。
この大きな家で暮らしているのが私ともう一人だけなのだから当たり前なのだけど。
もう一人が居るであろう部屋の戸を開けると、想像通り彼女は古い書物を読んでいた。
「ただいま、お姉ちゃん」
彼女は狐華葵。
私の双子の姉だ。
私よりも妖の血を強く引き継いだらしく、髪や目は藍色で人離れしは色白い肌をしている。
「おかえり、三葉」
書物からゆっくりと顔をあげたお姉ちゃんは私を確認するとそっと微笑む。
姉は父親の受けた呪いを引き継いでしまったのか左目には蜘蛛の巣が眼帯の用に張り付いている。
どんな方法でも取れないそれはせっかく綺麗な姉の顔を台無しにしている。
「なにか、あったんでしょう?」
妖に近い身体と呪いのせいで街に出られない姉は街であった事を聞くのが日課になっていた。
私とは違い姉は千里眼が使えるが、呪いのせいで視界が霞むのだそうだ。
ある程度の状況は解るが、詳細はわからない。そんな姉の為に私は街に降りて情報を集める。
「うん。街の海に面した所の雨が一月止まないみたい。多分、妖怪の仕業だとは思うんだけど…詳細は誰もわからないみたい」
「雨が止まない……雨女かしら…?」
姉は近くにつまれてある書物をパラパラとめくり何かを探し始める。
「千里眼じゃ見えないかな?」
街の人に聞くだけじゃわからなかったけど、お姉ちゃんの千里眼でなんとかならない?
「あぁ、そうね。少し試してみるわ」
そう言って立ち上がり部屋を出ていく。
千里眼を使う時は決まって屋根の上に登るのが姉のやり方だ。
室内であってもあまり変わらないらしいのだが、気持ちの問題なんだそうだ。
私はさっきまで姉が見ていた書物に目をやる。
相変わらずブッサイクに書かれた妖怪の絵が散りばめられたその本から雨女を見つける。
「人間の勝手な解釈を書かれた本なんであてにならないんだけど……」
この絵だって実際はこんなにおどろおどろしくなんか無いだろうと思いながらパラパラとめくてみる。
鬼、鵺、人魚…それぞれ勝手な妄想で捏造された情報ばかりだ。
「鬼……あ。」
そこで私は思い出した。
妖怪関係の情報集めをやっている仲間が居ることを。
「あいつに聞けば何かわかるかも?」
そう思い立ったら即行動。
街に出かける用の服にもう一度着替え直して、直ぐに出かけよう。
狐華三葉(こか みつば) 18歳
狐華葵 (こか あおい) 18歳