【人と妖と硲者】第一部 第一章 第弐話
- カテゴリ:自作小説
- 2017/04/13 08:47:15
辿り着いたのは町外れにあるボロい家。
妖怪がよく出るという噂が飛び交い今では周りに誰も住んでいないここで一人居座り続ける強者が私達の知り合いだ。
「ふふ、久しぶりに屋敷から出たかも」
ここに来る時だけ、姉は外に出る。
山道を通れば街の人に見られる心配が無いから安心して出かけられるのだ。
「お姉ちゃん、ここに来るだけならそれ、外しなよ」
呪いは見えないようにと姉が選んだのは狐のお面。
目元だけなのに何故顔全体を隠すのか不明だが、姉はよくこれを付けている。
あからさま過ぎるとは思っているが、姉はこれがお気に入りらしい。
「念のためよ」
ささ、入りましょ。
と、戸に手をかけながら言う。
久しぶりの外で気分が上がっているだけだろうがこんなに嬉しそうな姉を見るとこれから会う奴に嫉妬するなと言う方が無理って言うものだ。
「お邪魔するよ〜」
中は暗い。
まだ、帰ってきてない?
「はい?どちら様で……なんだ、君たちか」
出てきた男は柳川作久真。
私達よりも歳上だが、硲者になったのはつい数年前。
人間を辞めたいという気狂いな理由で自分の右腕と鬼の右腕を取り替えるという奇行に走った男である。
鬼の影響か、赤茶色になった髪は軽く伸ばし、平均的な体型と優しい性格で街の娘からはよく噂される程好かれているらしい。
「妖について、情報が欲しい」
好かれているらしいが、私にとってはどうでも良いこと。
コイツは表では、飴屋を経営し、裏では妖や陰陽師関係の情報を集めている言わば情報屋をやっている。
陰陽師や妖からは対価を受け取っているらしいが、私達のような硲者は無料でその情報を教えてくれる。
理由は不明だが、普通の人間には絶対に売らないらしいろ言うのは余談だ。
私は要件だけ伝え、遠慮なく家の中に入り込む。
「いいけど、相変わらず遠慮が無いね」
困ったように笑って見せるが、それだけ。
人間を辞めたい等と言っていた様には見えない好青年と言えよう。
「雨が止まないらしい。早くしないと作物の根が腐ってしまう」
だから、早くしろ。
と、急かす。
そんな中姉もちゃっかりと私の隣に座る。
「ああ、噂には聞いていたよ。そろそろ君たちが食いつくかなっと思っていた所なんだ」
食いつくって…他に言い方があるでしょ、と私は思う。
「何か知っている事はありませんか?」
私に代わり姉が話し出す。
「そうだね。まだ、詳しくは調べてないんだけど原因は多分、ひと月前の嵐が原因かなっと思っているんだ」
「は?嵐?」
そんなのあった?と姉と顔を見合わせる。
「街じゃないよ。海でね、これも妖の悪戯だと思うけど船が3隻程沈められたんだ」
「では、殺された人の恨み…?」
心配そうに言う姉に少し疑問がわく。
本当に殺された人の恨みだろうか。
「逆…じゃない?」
ふと、思った事を口に出すと柳川はニッコリと微笑む。
「そう、殺された方じゃなくて。殺された人と親しかった人の恨み…だと僕は考えているんだ」
殺された方より、大事な人が殺された方が恨みは強くなるだろ?と私達を見て微笑む。
「そう、ね」
こいつの意味深な笑顔はどうしても苦手だった私は俯いて答えるしかできなかった。
「えっと、どうしたら雨を止ませられると思いますか?」
姉の問に柳川がこちらに顔を向ける
「それが分からないんだ。だかさら、」
私と姉の顔を交互に見たあとニッコリと作られた笑顔で笑う。
「今から調べて見ようと思って!」
あぁ、やっぱり。
コイツの笑顔は嫌いだ。
柳川作久真 やなぎがわ さくま