幻影
- カテゴリ:小説/詩
- 2017/04/13 11:25:50
もう春が来ている
寒かった地面の土にも
光があたり始めて
花が咲く準備をしている
うららかな春の日射しを浴びて
凍てついていた雪の大地も
溶けて川になっているだろう
その勢いは激しく
まるで静かさまで奪って行くようで
春だけを地面に残していく
あの時あなたと来た雪国は
何もかもが白く包まれて
時も凍ってしまったようで
こんな風景が初めてで
何の言葉も出なかった
雪は溶けた
あなたはいない
何処に春はあるの
探しに来ても見つからない
あの場所が分からない
何故逝ってしまったの
私一人を残して
あなたを愛していた
でも送りにいけなかった
誰も私の存在を知らなかった
もう一度会いたい
何度思ったことだろう
この手のぬくもりはまだ残っていて
涙を誘うけど
もう会えないなんて苦しい
写真を持ってきたの
あの日に二人で写した写真
この花たちが見えるかしら
もう春が来たのよ
だからあなたも戻ってきて
叶わぬ願いを抱いたまま
そっと都会に帰っていく
もう触れることのないあなたの頬に
私の手をかざして
幻影を見つめながら
一人佇む君が見えた
遠くを眺める君が見えた
そんな君をみつけた僕は
北からの風で
命をもらった
君に笑顔が戻ればと
君と過ごした日々
白い世界の中で
凍っていた君の心は
少しずつ暖かさを取り戻して
そして春になった今
僕は戻っていく
「もう だいじょうぶだね」