【人と妖と硲者】第一部 第一章 第参話
- カテゴリ:自作小説
- 2017/04/16 18:50:25
「噂通り、随分前から雨が降っているみたいね」
そう言いながら水かさの増した川を見下ろす。
私達はあの後すぐに噂をされている所に行こうとなり、今、ここに居る。
地面はぬかるみ、1部軽く土砂崩れのようにもなっている。
何日も振り続けていた事を物語るように木の葉は落ち、地面の草木も変色している。
大雨という程ではないがそれでも、傘をさしても足元は既に湿ってきているような具合だ。
「正確にはこの橋を渡った向こうだけどね」
柳川は私の呟きに訂正を入れながら橋の向こうを見る。
雨が降っているからか、寒いからなのか、霧がかかったように向こう側は白く霞んでいる。
「あの霧…妖気が少し混じっている…」
隣にいた姉が呟いた。
本当は家に帰らせたかったのだけど、本人が行くと言い張るので呪いを隠す為に狐面と笠を被り髪色を隠している。
「じゃあ、やっぱりこれは妖怪の仕業?」
「きっと、そうだろうね」
元々、ひと月も振り続ける雨がおかしいんだ、と柳川は言う。
「いったい、何が目的で…」
柳川はひと月前の船が沈められた事件が関係しているというが、本当だろうか。
大切な人が殺されたから雨を降らせ続けている?
その理由がわからない。
殺した犯人を呪ったりするのは理解できるが、雨を降らせ続けているのにはどんな理由があるのだろうか…。
「それが解らないからここに来たんだろう?さ、行くよ」
柳川は躊躇いもなく橋を渡り始める。
「ちょっと!少しは警戒しなさいよ!」
慌てて柳川の着物の裾を引くが当の本人は薄く笑っているだけだ。
警戒心という物が、凄く足りていないんじゃないか。
「心配無いよ。妖力は少ないし、実際被害は雨が止まないだけ。僕も君だって戦闘向けな妖力を持っているんだ」
死ぬ事は無いさ。
と、とても余裕のある笑顔で言う。
確かに私と柳川は戦闘向けな力を身につけているが、相手がどんな者なのか調べもせずに突っ込んで行くのは流石に無謀過ぎる。
もし、不意打ちの攻撃を仕掛けられたりする場合を考えて欲しいものだ。
私の思っている事が伝わったのか柳川はクスリと笑う。
「そんなに心配なら、葵ちゃんに見てもらったら?」
多分この霧のせいであまり見えないだろうけどね。
自信ありげに笑いそう言う。
「よく、わかりましたね。実はもう千里眼は試したのです」
あなたの言う通り、視界は霞んで良く見えませんでしたよ。
姉はひどく落ち着いた様子で言う。
「え、なんで?」
もしかして呪いが悪化している?
不安になって私は姉に近寄る。
「別に呪いが悪化しているわけじゃ無いの。ただね、この霧に妖気が含まれているからよく見えなくなっているだけ」
「きっと、相手も人間だけじゃなくて妖や陰陽師からも目隠しをしたい状況なんだろうね」
そこまで徹底する理由は解らないけど。
そう言って、また何食わぬ顔で橋を渡り始める。
まだ、少し不安の残る私に気がついたのか、姉が私の着物の裾を引っ張る。
「大丈夫よ、三葉ちゃん。あまり強い妖気は感じないわ」
それに、三葉ちゃんが私を守ってくれるんでしょ?
と。お面をしていても微笑んでいるのが解る程に優しい雰囲気のある声で言う。
そこまで言われてしまったら、もう行くしかない。
既に橋の中間地点まで行っている柳川を追いかけるように急ぎ足で追った 。
面白そう!
続き待ってます!
小説頑張って下さい!