【人と妖と硲者】第一部 第一章 第肆話
- カテゴリ:自作小説
- 2017/04/25 06:18:12
一向に止む気配のない雨の中原因と考えられる妖を探し回ることはや一時間。
妖気が霧の中に混じっていて妖気をたどることもできず、霧や雨のせいで視界も悪い。
民家もほとんど無く、村の人に聞こうにも人1人すら見かけない。
簡単に考えすぎていたが、この妖怪探しは想像以上に困難なのかもしれない。
「これは体力よりも気力勝負だね」
困ったように笑いながらも嫌そうな雰囲気を隠そうともせずに柳川はそういう。
「すみません、こういう時役に立てないで…」
申し訳なさそうに姉が言うが、感知出来ないのは私達も同じなのだ。
別に姉だけが悪い訳では無い。
「まあ、仕方ないよ。僕らも感知出来ないんだし君だけが悪い訳では無いよ」
私の思っていたことは柳川も思っているようで、こちらも申し訳無さそうにしている。
私はというと、雨に髪や下駄が濡れている事に嫌気がさし、一刻も早く帰りたく思っている。
しばらくすると、霧の隙間からうっすらと陸の終わりが見えた。
どうやら街の外れまできてしまったようだ
「ここが街の端みたいね」
そう言って崖の先端に立ち下を見下ろす。
下は海になっていて雨が降り続いているせいか少し荒れているようにも見える。
「ここまできて未だに収穫は無し、か」
やれやれと言いたげに柳川はつぶやく。
しかしその時、本能的に何かを感じ瞬時に後ろを振り向く。
驚いたような姉と柳川、背景は霧で真っ白だが、何かが確実に近くにいる。
意識を集中させた。
2人に被害が出ないように細心の注意をはらって。
私は妖術をたっぷり込めた燐火と呼ばれる狐火であたりを燃やした。
力の入れ方によっては燃やす所、燃やさない所を分けることが出来るこの燐火は回しの霧をすべて蒸発させた。
見晴らしの良くなった景色に1人、女の妖が居た。
女は傘をさしているにも関わらず、しっとりと髪は濡れ、しかし、着ている濃緑の着物は濡れていないという、不思議な格好だった。
「相変わらず凄いね。その野生の本能も燐火も」
女を見ながら先程の感想をいう柳川だが、女に対して警戒しているようで感情がいまいちのっていない。
一方、妖の方は私達に気づいてないのか、それとも興味が無いだけなのか。虚ろな目でふらふらと歩いてる。
「ごめんなさい、ごめんなさい、私のせいで…ごめんなさい……」
ぼそぼそと呟く声はとても悲しそうに響いていた。
ただ、相手は混乱状態にあるのか私達に気づいてすらない様子。
「とても話を聞いてくれそうな状況では無いですね」
姉の言葉に何を思ったか、ツカツカと何の躊躇いもなく柳川は女の妖の方へと近ずいた。
「ちょっと、柳川!?」
ードス。
右腕を人型から鬼へと変え、容赦なく女の鳩尾へと拳をめり込ませた。
「ななな、何やってんの!」
理解不能な行動に私は慌ててそちらへ近づく。
可哀想に、女の妖は見事に落ちている。
「ん?1回気絶させると落ち着いてくれるかなって」
人畜無害そうな笑顔でとてつもなく狂った事を言っている。
「あれ?でも、雨止みましたね」
姉が傘を閉じながらそう言った。
確かに雨は止んでいた。
「じゃあ、この人が原因なのは明らかだね」
よいせ、と言った具合に女のかつぎ上げた。
「どこ行くつもりよ」
「どこって…そこら辺の民家?」
きっと、皆避難しててここら辺の民家は全部もぬけの殻だよぉ。
さも当然のように言ってのける柳川に呆れ顔しかできない。
街の娘に言いふらしてやりたい。
こいつは、とんでもなく狂った奴なんだと。