Nicotto Town


五月雨♪*。


【人と妖と硲者】第一部 第一章 第伍話

柳川は本当にそこら辺にあった民家に勝手に入り込み、勝手に家の物をまるで自分の家かのように使っている。

柳川の言った通り、家の中には誰も居らず、しばらく帰ってきていないのがわかった。

女の妖を適当な場所に寝かせ、目覚めるのを待つ。

「柳川さんって、時々強引よね」

女の横で姿勢正しく座る姉はポソっと、思ったことを呟いた。

「強引っていうより、滅茶苦茶なのよ」

湿った服を乾かす様に燐火を灯して居る私はあいつが居ない事を良いことに本音と吐いた。

他の妖が見たら妖力の無駄使いだと思われるだろうが、スタミナなら掃いて捨てるほどあるから問題ない。

今、柳川は「そこら辺探索してくるね〜」などと言いここにはいない。

殴っておいてそれはないだろう、と私は思う。

この妖は何者なのか、なぜ雨を降らし続けていたのか、なぜ……

疑問は尽きないが、彼女が起きない事には話が進まない。

だが、今彼女を起こす術は持ち合わせていない。

無駄な時間が刻一刻と過ぎていく。

ようやく、着物の湿気が無くなってきた頃に外から足音が聞こえた。

「残念、何にもなかった」

一瞬、構えてしまったが戸を開いたのは柳川だった。

「驚かせないで、女の妖起きないわよ」

どうするのよ、と言いたい気持ちを込めて言う。

そんな私に特に興味を見せる理由でもなく、「へぇ」と興味が無さそうにつぶやく。

「もう少ししたら起きるよきっと。そんなに強く入れてないからね」

街の娘に見せたら惚れても可笑しくないような形の整った笑顔で、無情な事を言う柳川に呆れる。

「そういえば、何も無かったとはどういう事でしょう‍?」

女の近くに居る姉は柳川の様子など気にも止めずに問う。

「そのままの意味だよ。他に妖が暴れた様な形跡も、人の死体や荒らされた後なんかも全くない」

「まあ、生きてる人間にもあえなかったんだけどさ。面白いよね。」

「そこの妖怪、ただ単に雨を降らし続けただけで、他に何もしていないんだ」

雨を降らし続けただけ。

その意味を理解するのには少し時間がかかった。

雨を降らし続けただけ‍?なんのために‍?

柳川が立てた仮説の中に海であった嵐が原因だと言うのは当っているのだろうか‍?

私の中で様々な疑問が湧く。

あぁ、早く、女の妖が起きてくれないだろうか?

この湧き出る疑問を解きたく苛立ちが募る。

雨が降り続けるという問題は解決した。

だが、この妖の意見を聞いていない。

何か複雑な理由があってのことだとしたらそれを解決しない限り雨はまた降り出すだろう。

「あんたがあんなやり方するから…」

恨めしそうに柳川を睨みつけるが本人はどこ吹く風だ。

「まあ、そのうち起きるよ」

悪ぎも反省もない声でそう言う。

こういう所だ。

普段は優男を思わせる性格にも関わらず、時々とても強引なやり方で物事を解決しようとし、さらにはそれが悪いとすら思っていない。

こういう所が私は苦手だった。

そんな時、女の妖に動きがあった。

「あ、目を覚まされたようですよ」

いち早くその様子に気がついた姉がそう言う声が聞こえ、私は慌てて近寄る。

「あの、ここは……‍?」

人ではありえないような白い肌、翡翠色の目を持った妖は、不安げな表情でそういった。




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