【人と妖と硲者】第一部 第一章 第陸話
- カテゴリ:自作小説
- 2017/04/30 20:06:28
女は白水(しらうず)と名乗った。
姉の想像通り、彼女は雨女に間違い無く、雨が続いた原因も自分だと言っている。
「本当に申し訳なく思っております…」
項垂れるように自分の行った行為を告白する女は本人に自分が悪かったと思っているようで、表情から罪悪感を感じている事が見て取れた。
「でも、どうして雨なんか…」
私達の問題はそこにあった。
それが分からない限りはまた、彼女が雨を降らすという可能性だって出てくる。
「彼が海に連れ去られてしまった…」
「…え?」
ポツリと女が呟いた言葉は自分の想像とは全く違う答えが帰ってきた。
「それは、数日前の嵐のことだね?」
柳川は、女を殴った罪悪感など感じてい無さそうに尋ねる。
私はこいつがどういう心情で聞いているのかがとても気になる所ではある。
柳川の問に女は静かに頷いた。
「私にはわかっていました、海に出ると良くない事おこると、なのに止められなかった!あの時もっと強引に止めていれば!」
これで、柳川の言っていた予想に繋がった。
海で死んだ人の呪いではなく、死んだ人を思う人の呪いだということ。
「でも、何それが雨を降らす原因に?」
最もな質問を姉が遠慮がちに問う。
「私が雨を降らし続ければ、彼が妖になって帰って来ると…そう、聞いたので」
なんだ、その話は。
例え妖が絡んでいようとそんなことで死んだ人間が帰ってくるわけがない。
そんな事をすれば今頃この世界は人間や妖で溢れている事だろう。
現にそれをしようとし、自分が死んでしまった者もいれば、呪いを深く受けてしまった者もいる。
深く呪いを受ければその者はもう、人間ではいられなくなるだろう。
「わかっています。冷静になれた今、そんな事をしても帰っては来ないと…」
「聞いたって、誰に?」
柳川にしては珍しく食い込み気味に問う。何故か、焦っている様なそんな感じがする。
しかし、女は表情を曇らせ首を横にふる。
「分かりません…覚えていないのです」
覚えていない……
あれだけ、混乱していたのだ。覚えていなくて当然と言えば当然か。
そんなふうに思う私とは違い柳川の表情は眉間に皺が寄り滅多に見せない険しい顔をしていた。
滅多に見せない表情にさすがの私も戸惑う。
「あの、もしよろしければ透視をさせていただけませんか?」
口を開いたのは姉だった。
遠慮がちに、それでも相手が断りづらいような表情でそう言った。
「え、透視?」
女は困ったうな表情をするが姉の神経な顔に負けたのか、ゆっくりと頷く。
「お願い、します」
本当はあまり、知られたくなんか無いだろう自分の心の中など。
だが、姉の真剣な顔と柳川のただならぬ雰囲気に押されたのだろう。
「それでは、失礼します」
姉はそう言い、静かに目を閉じ、再びゆっくり目を開ける。
藍色の瞳が真珠のように白く、光の加減によって虹色に輝く。
蜘蛛の巣に覆われている瞳の奥も同様に光っている。
それを見て、改めて綺麗だと思う。
私にとっては姉が全てだ。
きっと、この妖が失った者は私の姉と同じように大切な存在だったのだろう。
姉が居なくなれば私も同じように力を暴走させるのだろうか。
考えただけでぞっとする。
暫く耳が痛くなるほどの沈黙があり、ふっと小さく姉が息を吐く音が聞こえた。
「…難しいですね」
そう、姉は頬から汗を流しながら静かに言った。-
- Hiya
- 2017/04/30 21:33
- いいね機能を今更ながら知った阿呆ですこんばんは:)
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