Nicotto Town


まぷこのぶろぐ・・・か?


「契約の龍」(118)

 「クリスがここで世話を焼いてたら、気になって休めないらしいな。世話を焼くのは、そういう役目の人に任せよう」
 そう言ってクリスをその場から離そうとすると、毛布の下から声が上がった。
 「…ああ、この時期は、「奥」の方の人手は会場の方に少し割いてあるからな。戸締りだけしといてくれればいい」
 …そういう訳にも。
 とりあえず、戸締りしたドアに「警報」を噛ませる。
 警備が手薄って解ってて、どうして一人で部屋に籠れるやら。体調も悪いというのに。そんなにこの部屋は安全なのだろうか?
 「…まあ、私たちがここに入ったのが判れば、警備責任者がそのうち来るだろうから、あとは頼めばいいか」
 …そういえば、期間中の着用を義務付けられている例の柊は、個人識別とか、位置探索の機能があるって説明を受けてたっけ。
 「奥」に属する区域から出ようとするところで、向こうから急いだ様子でやって来る制服の集団に出会った。正確に言えば、廊下の角を曲がると、五人ほどの制服集団が小走りでやって来るのが見えた。集団の中ほどに、国王の上着を腕に引っ掛けたナヴァル伯が見える。
 「…ああ、姫、お手数をかけて申し訳ありません。…陛下は?」
 制服集団がクリスの姿を認めて立ち止まる。
 「ええと…「仮眠部屋」でお休みです。…私は以前そう聞かされたんですけど、判りますか?」
 「仮眠…たぶん、判ると思います。陛下がずっと使ってらした部屋の事、ですよね?」
 「明け渡す機会がなかった、と言っていましたから、おそらくは」
 解りました、ありがとうございます、と言って制服の集団が、俺たちが出てきた部屋の方に向かおうとするのを、クリスが呼びとめた。
 「あの…たぶん消耗していると思うので、温かくて消化のいいものを出すよう、厨房の方に連絡していただきたいのですが」
 先頭に立った者が軽くうなずく。
 制服集団を見送りながら、「彼らから話が通っていれば、おこぼれにあずかることはできるんじゃないかな。…着替えが終わった後にでも」とクリスがつぶやいた。

 クリスを送ってから、部屋に着替えに戻ると、セシリアが戻ってきていた。ソファに凭れかかって、ぼんやりした様子で横に座らせたリンドブルムを撫でている。
 「どうした?また熱がぶり返しでもしたのか?」
 声を掛けられて、やっと気付いた、という様子でこちらを見上げる。
 「あ…うん…熱も、ちょっとある、かも。疲れてきたんで、早めに切り上げてきた。…よかったんだよね?」
 「だったら、横になった方がいいんじゃないのか?」
 セシリアの額に手を当てる。寝込むほどのものではないが、ちょっと熱があるようだ。
 「…それよりも、リンちゃんの方が心配。」
 …リンドブルムが?
 「心配、って、どんな具合なんだ?」
 「んー…なんか、すごく落ち着かない感じ、かな?」
 セシリアがぽつぽつ語るところによれば、「お仕事」中、なんだか熱が出そうな前触れがあったので、途中で切り上げて部屋に戻ってみると、リンドブルムがうろうろと落ち着きなく床を歩きまわっていたのだとか。飛ばないで歩きまわっているのもおかしいし、自分もちょっと慰めてもらいたいような体調なので、戻ってからずっとそうしていたのだ、と。
 「何か、あったの?」
 「…どうしてそう思う?」
 「おにーちゃんも、疲れた顔してるから。ふつかよいで、っていうのは、なしだよ?あたし戻って来る途中で見たんだから。四人で踊ってるとこ。酔っ払いの足取りじゃなかった」
 どこまで見られていたのか判らないが、下手にごまかすことはできない、か。
 「…陛下が倒れられた。そいつはもともとクリスの母親のものだったそうだから…陛下の異変にも反応したんだろう」
 「…大変。…だけど、それなら騒ぎになってるんじゃ?」
 「近くにいた者が隠蔽工作したからな。…つまり、俺たちの事だが」
 「隠蔽、って…」
 体調が良ければ、ここで何か言いそうなところだが、その気力がないのか、黙ってスルーした。
 「それで、クリスちゃんは?」
 「ひどく取り乱してた。……だいぶ魔法を使ってるのに、補給の事を忘れるくらいに。…今、隣で着替えてる、と思う」
 「着替え?」
 セシリアがリンドブルムを撫でる手を止める。
 「着替えて、補給して、それから、「お仕事」。…俺も同様だがな」
 「そんな状況で、「お仕事」、できるかな?」
 「できる、できないはともかく、補給はしとかないと、今度はクリスの方が倒れる。…まあ、様子を見て、休むように言おうかとは思っているが」
 おとなしく休むかどうか、わからないところが厄介だが。

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