自作小説倶楽部1月投稿
- カテゴリ:自作小説
- 2018/01/31 22:04:25
『青いため息/厄介な依頼人』
「わたくしは殺しておりません」
俺は困惑していた。朝早くに事務所を訪れた女は上品でゆっくりした口調は崩さないが全身から怒りをみなぎらせている。テーブルの上に放り出されたままだった古新聞には「青い貴婦人」または「呪いの青い魂」と呼ばれるブルーダイヤモンドの競売結果の記事が載っている。宝石を身に着けた貴族の未亡人と宝石を競り落とした大富豪の写真が並ぶ。新しい持ち主はいわくつきの品の蒐集家だ。写真の背景の富士山の絵にはサムライの血がしみ込んでおり、大きな壺は死者とともに埋葬された品だという。
「そもそも、わたくしは遠い東洋の国で八代の王に仕えておりました。名前も『天の瞳』と呼ばれて大切にされておりました。最後の王も不慮の死を遂げたわけではありません。完全に自然死でした。わたくしが盗賊に誘拐されなければ九代目の王とともに国を繁栄させることができたでしょう」
「あなたの経歴のことは後にして、昨夜何が起こったか話してくれませんか? まだ新聞記事にはなっていないようです」
「あの成り上がり者には三人の子供がおります。長男、長女、次男。いずれも成人しているのに父親の財産に寄生しています。知性も気品も無い人種ですわ。まず、長兄は投資に失敗して成り上がり者にお金を借りようとしていました。あの日の夕方に珍しいお酒が手に入ったとやって来ました。最初からちぐはぐな会話で始まり、借金の話が持ち出されると激しい口論が始まりました。父親は息子をごくつぶしと罵り、息子は父親に守銭奴、老いぼれと罵りました。怒り狂った息子は『死んでしまえ』と怒鳴って家を飛び出していきました。長女はその後、父親をなだめて薬を飲ませました。その薬は医者が処方したものではなく、どこからか買い求めて来るものです。召使たちの噂話で知ったのですが、彼女はかつて父親に恋人との結婚を反対され、仲を裂かれたので父親をひどく恨んでいるということです。そして末っ子ですが、賭け事で借金があります。昨夜、裏口を通って、わたくしが居る部屋に忍び込み、金庫を開けようと30分ほども頑張っていました。しかし失敗して次に書斎に忍びこみました」
「そして大富豪は朝には寝室で死んでいたのですね」
「その通りです」
「犯人は?」
「わたくしの知ったところではありません。下賤の者たちが起こした忌まわしい事件ですわ。思い出したくもありません。あの男が死んだのがわたくしのせいだと三人だけでなく。召使たちも騒ぎ恐れたのです。わたくしがあなたに望むのはわたくしにふさわしい高貴な持ち主を見つけることです。たったそれだけのことです」
俺は頭を抱えた。
「天の瞳」、「青の貴婦人」、またの名を「呪いの青い魂」にとっては下賤の者がどうなろうと、自分が高貴な人間に愛されればいいのだ。しかし、俺は困る。
目の前の幼さの残る年若いメイドはうつろな表情で青い宝石を捧げ持っている。口だけが甲高い声を発する。手の中の霊力を秘めた宝石が少女を操っているのだ。操って、自らを盗み出させ、俺のところまでたどり着いた。
今頃、担当警察官は大富豪が頭を殴られ、ナイフで胸を刺され、毒を盛られた殺人事件に加えて起こった宝石の盗難事件にてんてこ舞いしていることだろう。俺の頭の中も大混乱だ。窓の外の青空を眺めて俺はため息をついた。
オリエント急行のように
容疑者全員が加害者みたいな
終わり方に見えました
オチよりも
貴婦人な宝石が面白いところです
持ち主を探す見返りに貴婦人にいろいろ協力してもらうといいかもだけど、
彼女はものすごく気位が高そうですねえ・ω・
まさにダモクレス