【人と妖と硲者】第二部 第一章 第一話
- カテゴリ:自作小説
- 2018/03/22 22:55:00
とある噂を聞いて私はこの街にやって来た。
私の住んでいる村から3つ程、村と山を超えたこの街にわざわざ足を運んだのには理由がある。
それは、この街に妖怪が出るという噂話だった。
私は、数年前から妖怪の話を集めるためにこうやって遠出をするようになっていた。
ここで一つ、私の自己紹介をしよう。
私は、雪代京子(ゆきしろ きょうこ)。何処にでも居るような普通の女だ。
妖怪でもなく、陰陽師でもなく、特別な力があると言うわけではない。
では、何故妖怪の噂を聞いてわざわざここまで来たのかと言えば、ある妖怪を探しているのだ。
私は幼い頃、妖怪に助けられた事がある。
幼い記憶なので詳しくは思い出せないが暗い山の中を無我夢中で走っていた私に道を教えてくれて、命を助けたれた事だけは覚えている。
その妖怪は幼い私と同じ位の背丈の女の子とだけは記憶しているが、外見を一切思い出せない。
でも、それでも一言。あの時言えなかったお礼を伝えたいのだ。
ただそれだけを目的に私は、妖怪の噂を聞くと私を助けてくれた妖怪探しをしているのだ。
街に着いた。
特にこれといって他の村と違う所は見当たらない。
人が極端に少ないわけでも多いわけでも、妖怪が一緒に暮らしているわけでもなく、ごく普通の何の変哲もない街だ。
さて、どうやって情報を集めるか……。
いきなり妖怪の事について質問をしても怪しまれるだけなのは明確で、でも、聞き込みをしない限りは妖怪の話は聞けない。
悩みに悩んだ末、とりあえず街の中を歩いてみることにした。
人もそこそこ居て街は賑わっている。
本当にこんな街で妖怪がでるのだろうか……
探索するほど私は不安になる。
今回もまた、外れか…。
殆ど諦め半分でぶらぶらと歩けば、いつの間にか村の端の方まで来てしまったようで周りの人だかりは消えていた。
「はあ、とりあえず宿探しかな……」
街を探索しただけであったが、自分の村からここまで来た疲れがどっと来てもう実家に帰る体力は残っていない。
村の街だけを見た所宿らしき物は見えなかったが、探せばあるのだろうか?
宿を見つけて、ついでにそこで妖怪の話を聞くのも良いだろう。
妖怪についてまだ、聞けずに終わっているし、ここで帰るのは少々気が引ける。
1度街の方に引き返そうとした時、サッサッと箒で掃くような音が何処からか聞こえてきた。
周りに人は見えないが、宿や妖怪について話が聞けないだろうかと期待し、音のする方向へ向かった。
行き着いた先は本当に村の隅、と思える程に人が居らずすぐ近くに山が見える所だった。
誰が掃除をしているのか…
周りを見渡せば人影が一つ。
十になるかならなか程の少女が自分の背丈よりも長い箒を持って、一所懸命に掃除をしていた。
家の前…かと思ったらそこには看板が立て掛けてあり、『古道具屋』と書かれてある。
近寄れば少女がこちらに気づきふっと、花のような笑顔を浮かべる。
「こんにちは、旅の人?」
おそらく、街の人の顔は殆ど覚えているのだろう、すぐに私が別の村から来たことを見抜かれた。
「ええ、ちょっと知りたい事があってね」
少女の身長に合わせ、しゃがみながら答える。
すると少女は首を少し傾げ、考え込むようにしばし黙った。
「君博ならなにか知ってるかもしれない」
そう呟くと私の返事を聞かずに店に駆け込む。
「君博〜!お客さん!」
お客さんじゃないんだけど!と、内心私は叫んだ。
子供は考える事をあまりせずに言葉にすることが多いから仕方だ無い事だろうと、店の主人に対する言い訳を考えながら店に入る。
「あの、すみません。客じゃないんですけど…」
ゆっくり入って、すぐに足を止める。
「いらっしゃい」
店の中にはあからさまに不機嫌です、と言いたげな強面の主が無愛想に返事をした。
「で、用件は?」
殺意が篭っているのではないかと思える声に私は冷や汗をかきながら恐る恐る返事をする。
「この街について知りたい事があるんです」