【人と妖と硲者】第二部 第一章 閑話
- カテゴリ:自作小説
- 2018/05/17 17:09:09
「どういうつもりだ」
やっと店の中へと帰って来た少女にこの店の主は閻魔面とまで言われる強面をさらに凶悪な物へと変化させ問いかけた。
「どうもないわよ、ただ、実際に会った方が分かるんじゃないかと思って」
少女は、幼い外見に似合わず大人びた口調でそう答える。
「夜の山は善悪の区別の付かない妖が活動する時間だ。万が一にでも彼女が山に入ってみろ、すぐにでも喰われる可能性だってあるんだぞ」
「君博は心配しすぎよ。それに、そんな事がある前に君博がどうにかするでしょ?」
君博と呼ばれた男は右手を額に当て深いため息をつく。
「お前は、人任せにしすぎるんだ。白羽」
少女。白羽と呼ばれた彼女は頑張っての意を込めて笑いかける。
「人を喰らう事は妖にとっては悪ではない。しかし、人にとっては悪である。では、人を守るために妖を殺すのは悪であるのかどうか。私達にとっての最大の疑問を解く絶好の機会だとは思わない?」
彼女の言葉に今日一深いため息を吐き出す君博は全てを投げ出したいと言わんばかりにゆっくりと首を横に振る。
「あくまでも俺達は中間に立つ者だ。どちらが悪でどちらが善など考えている暇はない。」
「私は、意思疎通のできない妖の半分は悪だと考えていいと思っているけどね!」
二人だけだった空間にもう一人、新しい声が交じる。
「白鳥…」
「やあ、君博さん。面白そうな事があるって噂で聞いてね。」
白鳥と呼ばれた女性は君博は嫌そうな表情をするもお構い無しに店の中へと入り込み、腰掛けを見つけると堂々とそこに腰掛ける。
「意思疎通の出来ない妖は獣と同じさ。善悪なんて考えず、自分の獲物だと思えばそいつを狩る。情報共有だってあって無いようなものだから私達への評価に変わりは対してない」
どうだい?と言いたげな表情で彼女は君博を顔色を伺う。
「相変わらず、情報が回るのが早い。というか、本当に妖を狩るのが好きなようで…」
「酷い言われ用だな。私は妖を狩るのが好きという訳では無い。悪さをしている妖を狩ることが趣味なだけだ」
「貴女のように吹っ切れた人って結構珍しいのよ?私達の中には変人が多いと言われているけど、貴女も相当ね」
ふふ、と笑いながら会話に加わる少女を横目に君博は全てが面倒くさいといいたげな表情で口を開く。
「今回は正式な依頼では無いが、少女の妖を探す事を頼まれた。無闇に妖を狩るのは禁止だ」
彼のその言葉に白鳥は明らかに不満げな表情をする。
「少女の妖と言ってもそいつが常に少女の姿であるのかも分からず、どの街に居るかも分からない。とりあえず、ここ数十年のあいだに人間の女を助けた妖を元に探してみようと思う」
「絶望的に情報が少ないわね」
「彼女も当時は幼かったのだろう。まあ、正式な依頼では無いから途中で放棄という選択肢もある」
「そんな事したくはない癖に?」
白羽は揶揄うように笑い君博を見上げる。
「できればな。だが、先程も言った通り情報が少なすぎる。他の奴にも聞いてみるが素直に情報を回してくれるかどうか」
「無理だと思うけどね!」
ケラケラと白鳥は笑いながらそう言う。
そんな彼女達を見ながら、真面目に取り組もうという精神はないのか…。と君博は早々と頭が痛くなった。