Nicotto Town



不世出のバンド『FREE』を絶賛す


エレキギターメーカーの雄、ギブソン倒産の報を聞いてから、
脳内がロックにシフトして、古いロックを聴きまくっております。
今回はブリティッシュ最高の不世出のバンド『FREE』を絶賛しまくろう。

全部で7枚のレコードを出してます。未発表曲もほぼ出尽くしてますね。
ボーカルにギタートリオという誠にシンプルな編成でございまして、
60年代後半、アレクシス・コーナーの元に集まった若僧どもでした。

ボーカルはポールロジャース、イギリス最高の男性ボーカルっす。
根っこはホワイトブルース、それ以外の要素は皆無かもしれませんな。
ロッドスチュワートやクリスファーロウと聴き比べると分かるでしょう。

ギターは我が生涯で不動のNo.1、ポールコゾフ様です。泣きのビブラート。
中期まではレスポール、後期はストラト弾いてます。スタイルが明確に変わる。
上手い、とか情感タップリ、とかいった評価は不要。真の天才に過ぎません。

ベースはこれまた空前絶後のスタイリスト、アンディフレーザー。
ジャックブルースに似たスタイルですが、ロックに関しては完全に上回ってる。
音色、ビート、音を選ぶセンス……こんなヤツ見たことがない。

一音入魂の後ノリドラマー、サイモンカークを評価する人が少なすぎる。
ロックにおけるドラムの最高の形の一つ。技術を超えたグルーブは実在する。
打ち込み、シーケンス、デジタル機材の対極にある本物のロックドラム。

どれから聴くべきか? ファーストアルバム『Tons of Sobs』にしなさい。
録音時ロジャースとカークが19、コゾフ17、フレーザー16くらい。
お分かりですね。高校生バンドに毛が生えた程度の年齢なんでっせ。

このアルバム、多くのミュージシャンにとってトラウマになってます。
60年代末にギター始めてロックに憧れた連中はね、練習していれば、
ビートルズやジミは無理でも、ヴァニラファッジくらいにはなれると思ってた。

そんな時期に聞くわけですよ、このアルバムを。卒倒し、ひれ伏しますよ。
還暦まであと少しの私、未だにこのアルバムの演奏に勝てる気がしない。
ハイティーンの若僧4人が創り上げたこの音楽、生涯の宝です。

ライブでも演ってる『Moonshine』という曲が分かりやすいでしょう。
極度のスローテンポに抑え気味の単調なリフが陰鬱に響き、歌が乗る。
まことにジワジワとクレシェンドして……こんな十代がどこにいるんだ。土下座。

技巧的な話をしてみよう。ギターってクリシェ(常套句)に陥りやすい。
キーとテンポ、和声進行が決まってると、定番フレーズは山ほどあるんです。
バークレー/GIT以降のシステムハイテク化されたメソッドで顕著です。

例えば。BPM120程度で二拍あれば3オクターブ程度の上昇旋律が弾ける。
誰がやっても大して変わらない(故ホールズワースやマクラフリンは別格だが)。
ここで切り捨てられたものが何か。それこそがFREEの音楽の構成要素です。

脱線。先日、リッチーブラックモアがジョーサトリアーニへの不満を零した。
この件でブラックモアが言っていることは、私の主張と全く変わらない。
『デバイスと機械的修練による技巧は音楽の本質と無関係』だというオハナシ。

エレキギターだって楽器です。ある一音を出す時に、無数の選択がある。
どの指でどのあたりを、どの位の力で押さえ、どの程度の力で弾くか。
コゾフのプレイを聴けば、その意味が分かると思う。真の超絶技巧です。

セカンドアルバム『FREE』はブルースから見事に脱却していく。
全てにブルースの伝統があって、でもブルースじゃない、別のロック。
ブリティッシュホワイトブルースを正統に継承し、昇華させた結果がコレ。

B面2曲目の『Free Me』は『Moonshine』と同じ路線で、更に凄い。
この曲と比肩できる音楽を、私は一つしか思い出せない。
ドイツのプログレッシブバンド、CANの『You Doo Right』。

セカンドでは『Woman』もお気に入りの一曲です。四人の力量が分かる。
特にフレーザーのベースの物凄さ、しょっちゅうアタマを弾かないんですけど、
でも彼の音が『間』として鳴っている。精神的に分厚い音の壁ができている。

サード『Fire and water』は有名曲のオンパレードです。
ここからは『Oh I Wept』をオススメします。歌詞が泣ける。
絶望のあとに希望があるとしたなら、この曲みたいな心象風景なのだろう。

地味な四枚目『Highway』はアメリカ志向を感じさせる一枚です。
また意外なことに、彼らが『スタジオミュージシャン』として活動したら、
どれほど凄かったのかを明確に示す、音楽的技巧の高さを示すアルバムでもある。

『The Highway song』か『On my way』を聴くと明らかです。
はっぴぃえんどやティンパンアレイ的、と言えば分かるでしょうか。
超絶ミュージシャンが音楽を作ろうとするとこうなる、という典型例ですね。

ライブ『Free Live!』は今朝大音量で聴いてました。
一曲目、コゾフのギターシールドかアンプのジャックがトラブって、
しょっちゅう音が切れる。それを3人がフォローする。ああ。これがロック。

彼らのライブは種々の動画でぜひご覧いただきたいですな。
不法入国した中南米系の若者みたいなフレーザーのベルボトムのカッコ良さ。
ロジャースのダンス、顔面崩壊するコゾフ、下向いて一発入魂のカーク。最高。

6枚目『Free at last』はこのバンドの到達点、最高傑作だと断言いたします。
この頃のコゾフはオクスリでヒドい状態だったけど、だからこそ出る音がある。
もし私の葬式をやるなら『Guardian of the Universe』を流す予定です。

ラストアルバム『Heartbreaker』最良の一曲は、実はそこに入っていない。
同時期にコゾフの出したソロアルバムのB面2曲目『Molten Gold』に、
他のメンバーが皆参加しております。これが7枚目のベスト、フリーの白鳥の歌。

……マニア度全開で陳謝。でも好きなんだもん。これがロックなんだもん。
アラ還オヤジの脳内には、いつも十代の若僧四人の創った音楽が鳴ってます。
だから生きていられるんだと思う。それがロックの意義である。

音楽を演る/創ることに関心のある若い方には一度聴いてほしいものです。
あ、インナーホンとかやめてください。最低CD、できればレコードで、
玄関のチャイムが鳴っても気づかない程度の音量でお聴きくだされ。

アナログで、ほとんど一発録りで録られた音の奥、隙間に眠っている、
息遣いや目くばせ、汗の匂い、気配……それを大音量の隙間から感じてほしい。
生演奏を『Live』という理由は、『生』の根源に触れられるから、なんですよ。




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