カンパネルラ
- カテゴリ:自作小説
- 2018/11/14 23:09:37
以前、部下だった二人が研修で本店に来たので、当時、同じ課に勤めていた社員が集まって飲み会を開いた。異動が激しい会社なので、たった4年しかたっていなのに社員は一人もその課に残っていない。パートの大島さんだけが、今も同じ課で働いている。
彼女がいくつか聞いたことはないが、本人は微妙な年頃の小娘と言っているので、30代の前半だろう。高島礼子を若くして、髪形をボーイッシュにしたような感じだ。ボーイッシュなのに艶やかで、いつまでも見とれてしまうような美貌だ。
このメンバーの飲み会が再々開かれるのは、いつも彼女が参加してくれるからだろう。かといって、座の中心にいるのではなく、端っこに座って、かいがいしくみんなにお鍋を取り分けている。
彼女は、飲み会では、決まって、カシスオレンジを2杯、そして梅酒を1杯、最後はウーロン茶だ。お酒はそんなに強くないのだろう。彼女が梅酒を飲み始めた頃に隣に座ると、彼女に話しかけられた。
「日曜日に予定が入っていますか。紅葉の写真を撮りにいきたいんです。」
「暇だから予定ないよ。車をだしてというお願いですか。」
「すいません、バスも少ないし、山の中を一人で歩くのは不安ですから。」
「じゃあ、加藤と前田も誘おうか。」
彼女は、前回の飲み会のときに、ミラーレスのカメラを買って、写真を撮ることが趣味になったと話していた。普段は、お寺や公園で写真を撮っているそうだが、海の写真を撮ってみたいと言ったので、その時も加藤と前田を誘って、房総に写真を撮りに出かけた。
高校の時、四天王と呼ばれる4人の美人がいた。不思議と全員文系で理系の自分と縁がなかったが、卒業し同級生で飲むと、「俺は〇〇派だ」、「性格がいいのは〇〇だ」、「〇〇は、誰誰と付き合ってる」と、決まって同じ話題になった。
高校を卒業してから10年ほど過ぎ、東京で働いているときに、四天王の一人からメールが来た。今、劇団に入って演劇をしているが、今度、中野で公演があるから、興味があれば見に来て欲しいというものだった。チケットは当日券の発売だが、自分の名前を告げてくれれば、前売り券の価格で買えるという内容だった。
彼女とは、高校時代に一言も話したことがない。しかし、美人のお誘いには弱く、演劇を見に行った。その後、同級生と飲むと、俺のところにもメールが来たと言っていた。東京在住の同級生全員にメールを送ったみたいだった。
チケットのノルマがあったのだろうが、高校の同級生は500人から600人。半数が東京にいるとして、200人から300人。メールを送るのも、すごい労力がかかっている。彼女は、その後、フジテレビの深夜番組の準レギュラーになった。
飲み会が終わり、ビルの外に出ると、皆はカラオケに行くという。行ってらっしゃいと見送ったが、女子社員の田中さんも帰るらしいので、駅まで一緒に歩いた。
飲み会で、彼女は趣味で演劇をしていると言っていたが、あまり自分から話さないので、話題は、すぐに痛風に変わってしまった。大人しくて、引っ込みじあん。飲み会では、いつも、聞き役に回っている。
歩きながら、彼女と話した。
「演劇をしていたんですか。4年間、全然知らなかった。」
「職場では、言ってなかったです。もう、やめようと思うので、今日は、話しました。」
「どうして、やめるの。」
「母の体調が悪くなったので、これから、時間がとれないと思うんです。土日だけ、集まって趣味でやっている劇団です。高校、大学と演劇部だったので、ずるずると続けてましたが、いい潮時だと思います。」
今週の日曜日に、最後の舞台に立つという。チケットにノルマがあるのかと聞いたら、一人50枚のノルマがあって、まだ、20枚残っているという。日曜日まで3日しかない。一枚3,800円のチケット。残ったチケット代は自腹になるという。チケットを今持っているかと聞くと、あるという。
全部買ってあげたいけど、財布の中に、そんなにお金がない。彼女は1枚でいいと言ったが、10枚買い、それぞれの路線に別れた。
地下鉄の中から、大島さんと加藤、前田にLINEを送った。
「日曜に予定が入ったので、ごめん。加藤、代わりに車出してね。お土産は、信玄餅でいいよ。」
日曜日に、高円寺の小劇場に行った。「銀河鉄道の夜」で、彼女はジョバンニ役だった。
先生に天の川の質問をされるが、ジョバンニはもじもじして、上手く答えることができない。同じ職場だった頃、彼女に仕事を指示をしても、反応が少なくて、分かってもらっているのかどうか不安だった。しかし、指示した資料は、しっかりと出来上がってきた。先生の気分になり、演劇を見始めた。
もじもじと話し、ジョバンニは、老婆に牛乳をもらえない。ザネリ達にからかわれる。普段の彼女と重なり、頑張れと心の中で応援する。
銀河鉄道に乗った頃から、彼女が変わりはじめる。徐々に、声に張りがではじめ、動きがいききとしてくる。舞台を駆け出すだびに、彼女を観客の目線が追いかける。スポットライトが彼女を照らし、彼女が夜空に向かって「カンパネルラ」と叫んだ時には、観客は彼女の演技に引き込まれていた。
舞台を見終えて、家に向かい歩いている間、反省していた。俺は何を見ていたんだろう。大島さんは美しいが、舞台の田中も輝いていた。もっと、輝いていた。人間の美しさ、内面の美しさ、感動させる力が溢れていた。人を見る目があると思っていたが、まだまだ、ということを彼女が教えてくれた。
僕を例にすると、僕の内面には疑問符が付くことになります。
さなちゃん
美人どころか、女子はいないと書いたつぶやきを確認しよう。
a01さん
主人公はきっと、職場で配ったんじゃないでしょうか。
ゆりかさん
柴咲コウ似の職場の方にお会いしたいなんて、これっぽっちも思ってません。
Yona
う~ん、ちっとも進んでないか、後ろ向きに走っているような気がする今日この頃です。
たまちゃん
芸術に造詣が深いのに、人間に関心がないなんて。それでは、フランス映画を楽しめません。
Cherryさん
主人公の魅力が不足しているので、続編のエピソードがないのです。作者も悩んでいます。
みーぴこさん
誰にもでも愛される人を好きになるより、自分だけが素敵なところを知っている人を愛した方が幸せなような気がします
素敵なお話ですね。
沖人さんの粋な対応に・・・
舞台の上の田中さんの輝きに・・・
それを見つけてくれた沖人さんに・・・
心が温かくなりました。
ただ・・・
高島礼子似の美貌の彼女は 沖人さんとドライブ出来なくなって
残念でしたでしょうね・・・可哀そう~
いいお話ですね。
次々と登場する女性、続きはあるのかなぁと気になりました。
知らないつもりでいたけど、意外とその人の本音をいつも読めていたり、
ふとしたきっかけで見方が変わったり、おもしろいですよね。
私は基本的に他人に無関心なので(ぁ
たいていは初耳のことが多いです(笑)
内面の美しい人は、後半スパートする
内外ともに美しい人は、ただただ、わたしのはるか前方をかけていて、うしろすがたにため息をつくばかり。
沖人さんも、よく走っていますね。
とても素敵な文章を読ませていただきました。
ありがとうございます。
本当にプロの小説家さんが書いたかのような素敵な文章でした(*^^*)
どこまでフィクション?ノンフィクション??気になりますね。高島礼子似の美人さんがいたら職場が華やいで良いですね。うちには柴崎コウ似の美人がいますv
四天王って何だか強そうな美人ですね。理系なのですか?こんなに文章が上手なのに。
私も一度、演劇をやってる先輩に誘われて見に行きましたが、なるほど、チケットのノルマがあったのですね。でもお世話になった先輩なのでご恩返しが出来て良かった^^
後半は新たに素敵な女性が登場ですね。10枚も買ってあげる沖人さんが本当だったら凄いなぁ。理想の上司!内面から輝く田中さんも美人さんなのですね。
今回もとても楽しませて頂きました♪
3800円のチケットを10枚ポンと買うあたりすごい( ゚Д゚)
残り9枚はどうしたんですか? 配ったとか?
沖人さんのまわりは美人が多いんですねーウラヤマシイww
外見にもあらわれるような気がします^^