今年は、クーラーなしで一夏を過ごした。体温と同じくらい気温が上がったときには、水のシャワーを浴びて身体を冷やしたが、クーラーを使っていたときより心地よく過ごせたような気がする。そよ風が気持ちいいのだ。

熱がこもるので、一日中、窓を開けっぱなしにしていた。泥棒に入られてもいいように、大事になものは、ここなら見つかるまいというところに隠していた。そもそも、高価なものは何もない。

会社に入ってから、14回転勤している。引っ越しを繰り返しているので、持ち物は極力増やさないないようにしている。春に東京に転勤してきたのだが、3年前にも東京にいて、その頃に住んでいた千代田区の社宅に、僕が設置したクーラーを後輩が使っている。7年前に住んでいた葛飾区にも僕が設置したクーラーがある。板橋区と世田谷区のクーラーがどうなったかは不明である。

なんで、俺はクーラーを東京に設置し続けているんだと杉並区への設置はやめて、我慢することにした。夏から窓を開けっぱなしたままずるずるときた。一昨日、どうして、寒さに震えながら二コタをしているのだろうと、素朴な疑問がわいたが、皆さんからは、どうして、変な人なのかしら、乾布摩擦頑張れと暖かいご意見をいただいた。

北海道の室蘭の営業所で勤務していたとき、一冬、暖房を使わずに過ごしたことがある。室蘭は北海道の南の方だが、故郷の四国よりは北にあり、ちょっとだけ寒い。寒いのが好きなのではなく、立派なストーブが備え付けられていたが、灯油の頼み方がわからず、頼むのが面倒だった。

ある日のこと、喫煙ルームで部下に話かけられた。
「かちょ～、彼女に結婚するんだったら煙草やめてと言われたんです。一人だと、禁煙続けられないんです。かちょ～も禁煙に付き合ってもらえますか。」

なんで、俺が部下の結婚のために禁煙しないといけないのか、不満は残るが頼まれると断れないたちだ。真面目に禁煙を続けた。

3か月ほど過ぎた頃、部下が自席にやってきた。ちょっとお話を聞いて欲しいと言われ、深刻そうな顔をしていたので、個室を探したが空いていなかったので、喫煙ルームに向かった。

部下は、しばらく黙っていた。沈黙が続いたのち、部下はポケットから煙草を取り出し、僕にわたし、どうぞと火をつけた。すると、部下は話し始めた。

「かちょ～、彼女のお父さんから結婚の許可をもらいました。春に結婚することになりました。できれば、春に異動したくなくて、この課に残りたいので、よろしくお願いします。」
「それは良かったな。人事のことは頭に入れておく。」

「ありがとうございます。ところでかちょ～、さっき煙草をすいましたね。」
「君がくれたんじゃないか。」

「かちょ～、禁煙の約束をしてましたよね。先に吸った方が丸坊主にすると。僕は彼女のために、まだ、禁煙続けてますよ。」

この部下をジンバブエあたりに飛ばそうかと思ったが、男に二言はない。週末に丸坊主にした。社内では、遠くの支店まで沖人不祥事疑惑が駆け巡ったが、この丸坊主は救世主になった。

その頃の最大の悩みは、仕事が終わり帰宅し、シャワーを浴びても、氷点下近い室内では髪が乾かなかいことだった。寝ている間に髪が凍りかけているときもあった。丸坊主だと、タオルでキュッキュッと拭くとそれで終わりだ。丸坊主のおかげで、暖房無しで北海道の一冬を過ごせた。

しかし、東京の冬は北海道より厳しい。昨日は、毛布を羽織りながら二コタをしていた。丸坊主にしたくないので、今夜から窓を閉めて寝ることにする。