悪魔なので邪神を育てる事にした 29話
- カテゴリ:自作小説
- 2018/11/24 17:20:37
~ 産業スパイと幽霊 ~
『おかしい・・・ この会社って、いつ出来たんだろう?』
今邪神様の会社の目の前で、腕を組み仁王立ちする女性が居た。
整ったハーフっぽい顔立ちにボブヘア、サングラスに黒のスーツとタイトスカート、しかもスーツの上からでも判る巨乳である。
一度この会社の前で仁王立ちした後、彼女は何事も無かったかのように立ち去った。
彼女は産業スパイでハニートラップからハッキング、潜入ミッションまでこなす女スパイ、有栖川レイである。
彼女は今、邪神様の会社のライバル企業からの依頼でこの会社を調べようとしているのだが、小さい頃一度着た事のある公園が、いつの間にか巨大ビルになっていて、しかも昔からある様に近所の人は言う。
しかも納税記録や仕事内容等を調べても、数か月前以前の活動記録が何処にもないのである。
ちなみに邪神様がコンビニウエィブを使った時、彼女はフランスのパリにあるシト〇エンと言う自動車会社でカル〇スゴーンの秘密を暴いていたので、影響を受けていない。
電波は直線にしか動かないから、反射でもしない限り地球の裏には届かないし、邪神様のコンビニウエィブは電離層で反射できない周波体なのだ。
『まずは、いつものダミー会社の営業として建物に入る算段をするべきね。 いきなりだと怪しまれるから、一旦ダミー会社まで戻って、アポを取りましょう』
こうして路地に無造作に止めてあった、真っ赤なポルシェ718ボクスター(オープンカー)に乗ると、彼女は目黒区に向かって走り出した。
その日の夜中、丑三つ時と言われる午前2時過ぎ・・・
この日も邪神様の会社は定時で終わり、社員は一人も残っていない。
普通は警備員とか居そうなものだが、この会社には警備員どころか監視カメラすらない。
一見ざるの様な警備だが、生物が入り込めばバアルが感知出来るのである。
ちなみに邪神様もわかるのだが、わかっても無視して遊んでいる事が多い。
そんな会社の開発部に、生命反応のない人影が現れる。
そう、幽霊だ。
元々鶯谷辺りは、正岡子規の俳句でも「妻よりも妾の多し門涼み」と書かれているほど二号さんの家が多かった場所で、現在は鶯よりカラスと鉄ヲタが多い場所でもある。
元々お妾さんの家が多く、後を継ぐ者が少なかったことや、江戸自体は花街だったことからラブホが乱立したとも言われている地域。
勿論全ての二号さん、三号さん、28号が良好な関係を築いていたわけではない。
中には恨みを抱いたまま、自殺したり殺されたりして、霊がこの地に残る場合もあるのである。
そう言う霊魂は地縛霊となって居る事が多く、その場から離れられないことが多い。
その地に何かしらのしがらみや執念が残っているから、霊となっても離れられないのだ。
そんな霊の一体が、実は邪神様の会社にはいたりする。
ただ何時も会社が定時で終わって、その後警備員すら居ないから誰も知らないだけである。
邪神様を除いて。
しかし幽霊が特に何かするわけではない。
と言うか何かしようにも誰も居ないので、幽霊活動(幽活)が出来ないのだ。
少し前までは公園だったので、ある程度は出来た幽活が、今は全くできないでいる。
人を脅かそうにも誰も居なければ幽活出来ない。
白い着物を着て、髪を長く前に垂らし、人魂と一緒に出てきても誰も居ない。
たまにポルターガイストをしても人間意外に恨みがない事もあり、人間以外へ力を入れる事が出来ないで、せいぜいボールペンを落とす程度し出来ないのだ。
それが人間であれば呪い殺す事が出来るとしても・・・
幽霊はその場でシクシクと泣くしかなかった。
翌日、女スパイ有栖川レイは、会社で使う文房具をダミー会社で一括して随時購入してほしいと言う、偽の営業で邪神様の会社を訪れた。
1階のフロアで受け付けの女性に、管理課の課長補佐にアポイントがある事を伝え、適当に本当らしい営業をし、途中でトイレに行くふりをしたり、帰りにビルの構造を把握したりしようと考えていた。
しかしこれは嬉しい誤算があった。
管理課にたまたま来ていた社長にバッタリ会い、会社自慢を聞かされながら、建物の中を一通り見学させてもらえたのだ。
因みに社長こと邪神様は、有栖川レイがスパイだと知って面白半分で案内していたのだが・・・
こうして不思議な会社がますます不思議で仕方ない、怪しすぎる会社だとレイは感じた。
最悪依頼を破棄する事すら考えたほど気味が悪い。
だが、依頼してきた会社は、超の付く大会社の上、超ブラックなのだ。
下手に断れば、次の仕事にも差支えが出るかもしれない。
だが納得いか無いのだ。
1階には一般人にも開放された社員食堂。
地下にはサウナや銭湯まで完備。
しかも銭湯には懐かしの富士山の絵が描かれていた。
だが一見富士山に見える絵は邪神様のいたずらで、南米チリのオソルノ山と言う富士山にそっくりの山である。
よく見れば飛んでいる鳥ががハチドリだったりする。
こんな大会社で、意味不明な設備があるのを、初めて会う営業にすべて見せてしまう事にレイは驚きを隠せない。
と言うか、空調の配管の位置まで説明されたので、自分がスパイだとバレているとしか思えない。
罠にかかっている。
レイはそう思いながらも今回の仕事をやり遂げたかった。
確かに依頼人は怖いし、調べている会社は不気味過ぎる。
しかしそれ以上に好奇心が勝るのだ。
『なにあの会社? 社員食堂はいいとして、何で銭湯があるの? 託児所もあったし、社長室はオモチャだらけ。 訳が分からない』
こうして有栖川レイは、罠だとわかっていても邪神様の会社に今夜潜入する事に決めたのだった。
深夜、0時を過ぎた頃レイは邪神様の会社に侵入していた。
昼間と違い、黒いレザーの全身タイトスーツに黒いタクティカルベストで身を包んでいる。
それはバアルも感知していたが、何故か邪神様に放置するように言われ、監視カメラすらない社内を魔道球を使って見ていることにした。
魔道球とは人間界で言う水晶玉の様なものだが、確実に遠くにあるものが見える魔石
なのである。
レイは入り口の電子ロックをハッキングで開錠し、中に侵入する。
『おかしいわ、セキュリティーが甘すぎる。 外部からのハッキングで簡単に開く扉に監視カメラ寝ない。 どうし考えても罠ね』
そう思いながらも社内で重要なデータを探して移動し続ける。
しかしどれだけ探しても通常業務のデータばかり、しかもおかしなところはない。
後調べて居ないのは開発部だけ。
ここだけは流石に二重の電子ロックが掛かっている。
と言ってもカード式と暗証番号の組み合わせだ。
カード部分の磁力キーを読み取り、同時に暗証番号も調べるだけで開けるのはたやすい。
ある意味電子式のピッキング作業だ。
他の場所から見回っていた事から、ここまで来るのに時間がかかり、既に深夜2時を回っていた。
ガチャリ
開発部のドアを開けると、そこに白い着物姿に天冠を付け黒い髪を膝まで延ばし、前に垂らして顔が見えないどう見ても幽霊が居た。