土曜日に泊まった札幌のホテルはススキノの近くだった。ネオンが眩しい。自分は、頼まれたら、嫌と言えない性格だ。客引きのお兄さんに、「遊んでいかないですか～」と誘われたら、「はいは～い」とついていくのは間違いない。

先週も、赤坂を歩いていたら、客引きのお兄さんに「人生に疲れていませんか。美味しいお酒ありますよ。」と立ち飲み屋さんに誘われた。その心を打つ言葉に、お酒が飲めないのに、同僚に「寄ってっか」と言ってしまった。

しかし、明日は、論文の発表だ。誘惑に負けるわけにはいかない。ホテルにこもって、二コタをすることにした。

この軽薄な性格のせいで恥ずかしい思いをすることになった。3年前に、ある学会がシンポジウムを開くことになり、パネラーを頼まれた。その学会に入っていないのに、いいよと安請け合いをしてしまった。

数人のパネラーが15分ずつ話し、そのあと、テーマに沿って意見交換。そこまでは淡々と進んでいき、最後に会場からの質問の時間になった。とっぱじめの質問が「沖人さんにはがっかりした。その程度しか考えていないのですか。」という意見だった。

奥さんに「がっかり」と言われたら、旦那さんはきっと心に傷を負うだろう。それが、立ち見もいる300人を前に名指しでがっかりしたと言われてしまった。プライドは全くないのだが、沖人君は落ち込んだ。

しかし、武士は名誉を傷つけられたら、討ち死に覚悟で仇討に挑まねばならない。男は殴られたら、殴り返すものだ。学会に入会し、論文を投稿した。学会は日曜日から火曜日まで開催される。260本余りの論文が発表される規模が大きいものだ。

オープニングセレモニーや記念公演があるので、初日は各会場1セッション7名しか発表しない。260人以上が発表するのに、なぜか論文No1。大講堂のトップバッターだ。セクハラ講習での経験が幸いし、それほど緊張は感じなかったが、平常心ではなかったのだろう、マウスを演台に忘れてきた。

合間にそのセッションをコーディネートした教授がやってきて、「沖人さん、会社員だから、発表を日曜日にしておきました。」と言われたが、引き立て役にしたかったのだろう。

同じセッションの7名の中には、NHKのニュース9や去年までTBSのあさチャンでお天気キャスターをしていた女性もいた。男性も女性もスーツ姿の中、清楚で上品ながら目を引く服装で、その容姿や語り口は舞台を見ているようだった。沖人君のぶっきらぼうな語り口はいい引き立て役になっただろう。

今回もその程度しか考えていないのかと思われたかもしれないが、まあ、いいだろう。何を発表したのかと言われたら、専門分野のアニメについてである。