はりせんぼん
- カテゴリ:自作小説
- 2018/12/18 00:13:24
珊瑚に囲まれたちっぽけな穴の中で、夢を見ていた。夢の中の僕は、キラキラと輝く水面の近くを泳いでいた。ウミガメが僕を追い越していく。海の底に降りていくと、好物の貝が転がっていた。貝を食べようとしているとサメがやってきた。サメに飲み込まれようとしたときに目が覚めた。
いつもの珊瑚の穴倉の中にいた。長い間、穴倉から出ていなかった。穴倉から出なくても、エビやカニが迷い込んできて、生きていくことができた。
まだ、小さかった頃、クマノミやスズメダイにぶかっこうな形だ、泳ぐの下手だとからかわれた。そのたびに、真ん丸に膨れて針をたてると、それが面白いらしく毎日のようにからかわれた。いっそう、泳ぎが下手になってしまうのが、面白いらしかった。
いつもからかわれて、ふくれっ面をしているうちに、元に戻れなくなった。ちょうちんのような姿になり、潮に流されてしまいそうになった。偶然みつけた珊瑚の穴倉の中に入ると、流れがなく、膨れたままでも大丈夫だった。それ以来、穴倉から出ていない。
穴倉の中は一人ぼっちだったけど、寂しくはなかった。珊瑚の近くには、クマノミやチョウチョウオでにぎやかだった。たまに、イトマキエイやウミガメがやってきた。僕は穴の中で、チョウチョウオやウミガメの話を聞いていた。
輝く水面の向こうには空があること。夜はキラキラ光る星があること。深い海の底には雪が降ること。僕は穴倉の中にいても、いろんなことを知ることができた。
あるとき、可愛らしいハリセンボンの女の子がやってきた。僕は、久しぶりに仲間と会うことができて、彼女に話しかけた。彼女は最初は、いつも、ふくれっ面をしている僕を怖がったが、いろんなことを話しているうちに、仲良くなった。
いつの間には、僕は彼女のことを好きになっていた。彼女に近づこうとしたら、僕の針が彼女を傷つけた。僕を守るための針が、大切な人を傷つけてしまう。僕は、また、穴倉に戻った。
穴倉の中から、彼女に語り続けていたけど、他の魚から聞いた話でなく、自分で見たことを彼女に伝えたくなった。穴倉から出て、海の中を泳ぎ始めた。久しぶりで上手く泳げない。潮に流され、いつの間にか波に運ばれ、砂浜に打ち上げられてしまった。
星空が見えた。僕が彼女に語っていたより、ずっと美しかった。星が瞬くのを初めて知った。星が流れ落ちていくことも知らなかった。この星空の美しさを彼女に伝えたかった。
星空を見ていると、力が抜けてきた。いつも膨らんでいた体が、元の姿に戻った。息ができなくなり、眠たくなってきた。でも、後悔はしていない。穴倉の中では見ることができない星空を見ることができたから。
素敵なお話しに癒されました。
たとえ傷ついても、魔法の治療薬、時間が癒してくれます。そして、傷つくほど、優しく強くなれるでしょう。適度な距離感、それは、私にとっては、べったりです。高校生の頃に聞いていた曲を送りましょう。
傷つき 打ちのめされてもはいあがる力が欲しい~ 人は皆弱虫を 背負って生きている にがい涙を かじってもほほえむ優しさが欲しい 君が愛にしがみつくより 先ずは 君が強くなれ Hold Your Last Chance
小手先ではがれ落ちる美しさより Hold Your Last Chance
https://www.youtube.com/watch?v=ikE9_yOLexw
自らの経験からは、寂しい話しか書けないのでお許しください。明るい話になるように心掛けます。
ありす☆☆さん
南の島を訪ねた経験があれば、もう少し生き生きと書けるのかもしれませんが、伊豆大島しか分かりません。
さなちゃん
ありがとう。ちなみに、沖縄でははりせんぼんがみそ汁の具になってたよ。
ゆりかさん
マリンスノーを見に行きましょう。深海2000をどうすればJAMSTECから借りることができるか考えます。
yonaさん
はりせんぼんのように、僕も長生きをしたいとは思っていません。なすべきことをして、干からびます。
環謝さん
シザーハンズ面白いですよね。よくある話ですが、ジョニーデップの人気が出る前に、こいつはいいと思ってました。
たまちゃん
ハリセンボン君とハリセンボンちゃんがそういうプレーが好きだといいんですが、喧嘩になるような気がします。
僕を擁護するために、彼女にアドバイスしておきます。
僕の針が痛かったら、自分も針を出してペアルック(←死語か?)にして
お互いに針でつつきあってイチャイチャしとけばいいんです。
あ、でもそしたら結末がきれいじゃなくなっちゃう?!
愛する人を傷つけてしまうから 近付けない…抱きしめられない…切ないですね
何となく映画のシザーハンズを思い出しましたよ♪
物語はリアルを超える。
はりせんぼんさんは、よい人生(はりせんぼん生?)をすごしたとおもいます。
はりせんぼん視点でも小説を書けるとは、沖人さんは万能ですね(^^♪
深い海の底に雪が降るって何だろう?と思って調べたら、マリンスノーという現象があるのですね。私も見てみたいです。
はりせんぼん君もそれを知ってしまったら、まだ見たことがない美しい景色を見たくなってしまいますよね。大好きな彼女の喜ぶ顔も見たかったのでしょう。
でも、悲しい結末になってしまいましたね。彼女ははりせんぼん君のことをどう思っていたのでしょう。素敵な星空の話も聞きたかったでしょうが、ただ一緒にお話するのが楽しかったのかもしれませんね。
童話みたいに心に残る素敵な物語でした(*^^*)
情景が描けるものね(o^―^o)ニコ
出来ればハッピーエンドが
いいなぁ・・・。