Nicotto Town



歩きスマホ

神保町にある雑居ビルの建て替え工事が進めらていた。春雄は、そのビルの現場で日雇いの交通誘導員をしていた。工事現場の出入り口で一時停車した工事車両の運転手に出発の合図を送っていた。

2か月前に健康食品を販売する会社を辞めた。オクラパウダーが入ったグミやお茶の通信販売をしていた。全国各地で健康相談会を開いて、集まった老人に勧めて月契約をとる。オクラパウダーやビタミンCなどのサプリが入っていて、健康に効くかどうかは分からないが、少なくとも身体に悪いことはなかったはずだ。

1年位前から会社がおかしくなった。健康相談会を開いたときに健康器具も売るようになった。ヘルスメーターやマッサージ器。特別、高額ではなく、量販店で売っている価格と同じだが、中身がバッタもんだった。バッタもんを売るようになってから、会社にその筋の人間もよりつくようになり、春雄は高校を出てから5年勤めた会社を辞めた。

桃子は、神保町の靖国通り沿いの古本屋で店員をしていた。他の古本屋と同じで、6畳一間くらいのスペースしかない店で、通りにも本を出していた。日本史、特に、鎌倉から江戸までを扱った本を扱っていた。

店員は桃子しかいなかった。店頭での売り上げはほとんどなく、売り上げのほとんどは、カタログ販売だった。顧客に、今月、このような本を入手したとリストを送付して、注文をとったり、顧客からこの本を探して欲しいと頼まれて、古本市や同業者にあたって探す。経営を成り立たせているのは、そんな上質な顧客からの売り上げだった。店舗の役割は、新しい顧客を開拓するためだった。

桃子は店舗の管理と顧客に発送する古書リストに添えている歴史のエピソードを記した便りを書くことだった。桃子は歴史が好きで、その便りを書くことが楽しかった。

朝の出勤時間に春雄が交通誘導をしていた時だった。歩行者がいないことを確認して工事車両に発車の合図をしたが、車道を自転車がすごい勢いで走ってきた。春雄は自転車を停めるのは危険だと判断して、動き始めていた工事車両に停止の合図をした。

自転車は、出入り口の前をスピードを出したまま通り過ぎた。視線を戻したら、歩道に飛び出して止まっているトラックに向かって、小柄な女性がスマホを覗き込みながら、まっすぐトラックに向かって歩いていた。

春雄は、とっさに手を伸ばして女性の腕をつかんだ。女性は春雄を睨みつけながら手を払ったが、春雄の作業服と目の前のトラックを見て状況を理解し、スマホをポケットに入れると歩いていった。

桃子はいきなり腕を掴まれて驚いた。普段はスマホのながら歩きをしないが、たまたま、奈良で開かれている古本市に出かけている店主から送られてきた、店内にあるはずの本を探して欲しいというラインを見ていた。

ラインを見ていた自分も悪いが、ぶつかりそうになる前に停めるが交通誘導員の仕事でしょと思いながら、桃子は、急いで古本屋に向かった。

※作者が眠たくなったので中略。春雄は、毎日、目の前を通り過ぎてゆく桃子が気になっていゆく。しかし、仕事中であり声をかけることはできない。桃子もお礼を言わなかったことが気になり、毎日、春雄の前を通り過ぎるときに、胸に痛みを覚えている。

3月なのに冷たい雨が降っていた。一日、雨に打たれながら交通誘導をすると肉体だけでなく心にも疲労がたまる。午後6時になり現場の工事も終わった。片付け後に現場の外に出る工事車両があり、春雄はもう1時間、交通誘導をしなければいけない。

後、1時間働けば、明日は休みだと思っていたら、歩道を歩いていた女性の傘が身体にあたった。何事もなかったように女性は通り過ぎていく。この前、トラックにぶつりかけた小柄な女性だった。誰も交通誘導員のことを気にしていない。一日に何百人も目の前を通り過ぎていくが、振り向く人間はいなかった。

桃子は、春雄に傘がぶつかったのに気づいた。そのまま、歩き去ってしまって、また、胸が苦しくなった。一言、ごめんなさいと言えれば良かったけど、内気な性格で、一日中、話すことのほとんどない店員をしていて、咄嗟に声を出すことができなかった。

次の日、雨が上がった。現場が休みの春雄は、戦国時代の城の本を買おうと神保町に出かけた。ドライブがてら地方の城を訪れるのが趣味だった。静岡の三島にある山中城を訪れようと思っていた。事前に城の由来や特徴を調べて訪ねるのが面白かった。

古書店の奥で桜子は本を読みながら座っていた。客を見ようと桜子が顔を上げると、二人の視線が交わった。二人はお互いが誰だかわかった。

古書店の中は、所狭しと本が並べられていて、城巡りに適した本を探すのに手間取っていた。30分くらい、探していたら桜子が声をかけてくれた。

「どんな本をお探しですか。」
「戦国時代の城の解説をしていて、城巡りのガイドブックになるような本はありませんか。山中城に行ってみたいんです。」

「それなら、ネットで十分かもしれないですね。せっかくなら、この陸軍参謀本部編纂の『後北条氏・韮山城・山中城・小田原城・戦史』はどうでしょう。」
「専門的過ぎます。それにお城へのアクセスも載っていた方がいいんですが、その本が書かれた頃は新幹線も高速道路もないですよね。」

「お城への道ぐらいは、事前に地図で調べておけばいいじゃないですか。それに、今は、スマホでもナビ機能がついていますよ。」
「スマホを見ながら、道を調べているから、この前のようにトラックにぶつかりかけるんですよ。」

「そんなに、お城への道が気になるんだったら、私が案内しますよ。もう3回は訪ねたことがありますから。」
「分かりました。その本でお願いします。」
「えっ、はい。」

桃子は、レジを打ち、春雄に本を渡すときに、トラックにぶつかりそうな時のお礼と、傘がぶつかったときのお詫びを伝えた。春雄は、桃子の休みの日を聞いた。

二人が訪れた山中城址の空堀沿いには、ツツジが咲き誇っていた。ツツジの花言葉は「慎み」、白いツツジは「初恋」、赤いツツジは「恋の喜び」。

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2019/03/17 21:16
ゆりかちゃん
専門書を扱う古本屋に通う子供は、そうそういません。BookOffで漫画の立ち読みをしている小学生くらいです。毎日、すれ違っているときに、お互いにちらりと見ていたのでしょう。気を付けなければ、ゆりかちゃんは、店員以上に歴史の知識が豊富で、討論会になってしまう可能性があります。是非、山中城に行きたいと思っているのですが、一人で行くと、熊に襲われたら困るので、同伴者を探しているところです。
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2019/03/17 20:42
こんばんは、沖人さん。
前に読んだ時から、ほんの少し修正されていますね。

実は私も子どもの頃、仲良くなった古本屋の店主さんに、絶版になった本を探してきて貰っていました。
どこの古本屋でもやってくれる訳ではないと思うのですが、専門書を扱う古本屋さんでは一般的な商法なのでしょうか^^

桃子さんも、春雄さんのことが気になっていたようですね。
一目見て相手に気付くなんて、そんな運命的な出会いに憧れます~v
私も桃子さんのような、歴史に詳しい女性とお近づきになりたいので、春雄さんのナンパ方法を真似すべく、古本屋に通いたいと思います。
でも専門書の古本屋店員さんは、おじいちゃんが多いイメージですね。

桃子さん、春雄さんにきちんとお礼とお詫びが言えて良かったです^^
沖人さんは、恋愛は苦手分野と言いつつ、素敵な恋愛小説を書きますね。
先日は、後輩の方と韮山城跡に行かれたようですが、二人で恋愛スポットも巡って楽しめたご様子。
次はぜひ、山中城にもトライしてみてください(*^^*)
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2019/03/13 19:42
さなちゃん
スカイウォーク、ぶら下がって、ビューンと行くアトラクションが増えたね。橋渡るだけだと、1回で飽きちゃうもんね。
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2019/03/13 17:33
子供の頃はよく行ってましたが、毎年混んでるイメージしかなかったので
大人になってからは行ったことなかったかな・・・理由は忘れたけどなくなっちゃいましたね
今はスカイウォークで1年中道路が渋滞してる感じです(ノ∀`)アチャー
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2019/03/12 22:30
さなちゃん
ほんの数年前まで、市民が山中城祭りをしていて、甲冑を着て合戦をしたり、太鼓を披露したりしてたんだって。再開を希望します。

みーぴこさん
信用してはいけません。古本屋の商いは想像です。文学書だったら分かるけど民俗学の専門書しかおいていないお店とか、儲からないだろうなと思って書きました。

ゆりかちゃん
恋愛のことは苦手分野ですが、表面的でないところで惹かれあうのでしょう。磁石になったのは、お城巡りが好きなこと。きっと、一人で巡るより二人で巡る方が楽しいでしょう。

環謝さん
はい。眠くて雑になったので、少しでもリカバーしようと追記しました。出会いは最悪でも、きっかけが重要なのかな。それがなければ、店員さんとお客さんで終わっちゃいます。

Cerryさん
そうです春が来たのです。春は出会いの季節ですね。小学生や中学生にとっては。小学生からやり直してみようかな。

たまちゃん
神保町がいつの間にかカレーの聖地になっているし、もととも中華も多いし、グルメの街に変身しています。本好きだと一日、時間をつぶせますね。作者が気づいていないのをよく見つけました。

オレンジ先生
売り言葉で買い言葉で喧嘩になることは多いけど、それが、いい方に出ればいいですね。最初の印象が悪いだけ、いいところを見つけあうでしょう。

mさん
歴史談義と次はどこのお城に行こうかと盛り上がっているはずです。春雄君も就職活動に励んでいるはずです。
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2019/03/11 15:34
・・・この先、うまく進んでいくといいなぁ

「村上海賊の娘」を読み始めたけど地名に人名・・・いっぱい出てきて(覚えきれず)挫折寸前(-.-)
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2019/03/10 22:47
2人とも
言い合いになってしまうのかなと
思って読んでいたけれど
もともとどちらも
気になっていたのですよね^^
素直になれてよかったです~。
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2019/03/10 19:40
おぉ、今回は急展開でしたね!
内気な桃子ちゃんも、大好きな歴史が絡むとなかなか強気。
ぴったりな相手とめぐり合えましたね^^
神保町、最近降りてないなぁ。あそこもちょっと行かないと
あちこちが知らないお店にすり替わってますよね。
(さて作者に問題、途中で女性が別人にすり替わってます。どーこだ♪)
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2019/03/10 19:18
こんばんは!
春雄さんと桃子さん、春ですね〜!
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2019/03/10 14:44
あれ?夜寝られなかった時間に加筆されました??
最初に読んだとき 傘がぶつかった時の桃子側の描写や 古本屋に入った時の描写、最後レジでの二人の会話無かったような気がします

何度か出会ううちに、印象は良くなかったけど、お互いに気になる存在になっていたのかな??
そんな不思議な出会いもいいですね(^_−)−☆
ハッピーエンドなのかな?また続きがあるのかな、少し楽しみです♪
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2019/03/10 06:33
おはようございます、沖人さん。

桃子さん、素敵なお仕事してますね~。羨ましいな♪
春雄さんは、桃子さんに睨み付けられたり、傘をぶつけられたり…
良い印象ではないと思うのですが、どうして気になっちゃったのでしょう^^
城好きは、惹かれ合う運命なのでしょうか?(笑)

こんな素敵な出会いに憧れますねv
私も桃子さんと一緒に、その本を持って山中城に行ってみたいです(*^^*)
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2019/03/10 01:26
沖人さん、こんばんは✿

うふふ^^ 眠たい中お疲れ様でしたw

神保町の古本屋街仕組みはそういううものだったんですね
確かに各店ごとに専門的ですもんね 売上だって店頭だけでは取れませんよねw

もう少し 春雄さんの想いを知りたくなってきました。
それと・・・『肉体だけでなく心にも疲労がたまる』
この一文に泣きそうになりました。

いつも ありがとうございます。
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2019/03/10 00:17
ツツジって恋の花なんですね・・・花言葉は初めて知りましたw
ちょうど今日、箱根へ行って山中城付近を通りましたよー
ツツジの後は蓮のお花も綺麗ですw




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