神保町(後編)
- カテゴリ:自作小説
- 2019/05/18 14:11:11
テーブルに焼き餃子と水餃子が運ばれてきた。焼き餃子は、両端の縁が開いていて、焼いていると、そこから野菜の美味さを含んだひき肉の油が鉄板に流れ出す。その油が餃子の皮の焦げた部分に吸収されて、皮がとても美味しい。
ナツは、そのまま焼き餃子をほおばると、「美味しい、泰樹さん、ビール頼んでいいですか。今日は仕事でなくて、プライベートでお手伝いをしているから、いいですよね。泰樹さんもどうですか。」と言った。
泰樹は、「僕は、ビールを飲むと、電信柱にぶつかって、眼鏡のフレームが曲ってしまうので、お茶でいいです。ライスを頼みます。」と答えた。
「泰樹さん、どうして餃子なんですか。横浜や亀戸だったら分かるんですけど。」
「明治時代、中国からの留学生が数千人も神保町で学んでいたんです。故郷の味が一番ですから、神保町は中華料理店がたくさんできたんです。東京の中華街です。周恩来が通っていた『漢陽楼』も小川町にありますよ。」
ナツは、水餃子を口いっぱいに頬張ると、ビールでぐいっと流し込んだ。
「でも、江戸という感じではないですね。一番に江戸前の寿司が浮かびます。」
「そうですね、関西の押し寿司やバラ寿司と違って、握りずしは江戸発祥ですね。」
「どうして、江戸で握りずしが流行ったんですか。」
「豊富で新鮮な魚介類が採れたということも一つですが、明暦の大火までは江戸に食事を出す店がなかったんです。大火後、復興のため多くの人が江戸が集まりました。集まったのは、ほとんどが男だったので、江戸の町はやもめの男だらけになったんです。当時の家事は時間がかかったので、やもめの男は外で食べるようになり、屋台や食事を出す店が増えて行ったんです。江戸前寿司は屋台で出されるファストフードでした。」
ナツは、肉まんを頬張ると、ビールでぐいっと流し込んだ。
「私も江戸時代に生まれていたら、モテモテでしたね。三大料理は、中華、フレンチ、トルコ料理ですよね。トルコ料理より和食の方が有名だと思うんですけど。」
「世界的には、まだ、和食よりベトナム料理やタイ料理の方が人気かもしれません。」
ナツは、ビールのお替りを頼んだ。
「和食の特徴は、出汁ですね。飲みすぎたときは、シジミ汁がいいですよね。」
「『うまみ』は世界で通じる国際語です。うま味の成分の一つにグルタミン酸がありますが化学成分自体はドイツ人のハインリヒ・リットハウゼンが発見しました。味にはなんのコメントもなく、他のドイツ人の科学者は不味いと書いていました。味音痴ですね。うま味の成分だと気づいたのは池田菊苗博士です。」
ナツは、メニューを見ると、日本酒のひやを頼んだ。
「和食の特徴は、出汁なんですね。ひくっ。」
「味だけではないと思うんです。品数が豊富。一つの小鉢にも多くの食材が入っています。日本のスーパーには、葉物が30種くらい置かれていますが、アメリカのスーパーに行くと5種類くらいしか置いていません。」
「同じものだけ飲んでいたら飽きちゃいます。最初はビールが美味しいですけど、日本酒や焼酎を飲みたくなりますよね。」
「それに、季節感を大事にしますね。今だと、筍を食べたくなります。旬の素材の美味しさを引き出すのが和食です。フレンチにも中華にも季節感はありません。」
ナツは、もう一合だけとひやを追加した。
「泰樹さんは、酢だけで餃子を食べるんですね。私と一緒です。」
「美味しい餃子だと、酢だけのほうがいいです。」
泰樹は、綺麗に箸を使って、茶碗についた飯粒を一粒残さず食べようとしていた。ナツは、泰樹の柔らかく動く長い指を見ながら、その指で触られたら気持ちいいだろうと思った。
「泰樹さん、特集の食材は寿司か天ぷらにしましょう。和食といったら、寿司か天ぷらです。すき焼きもいいけど、季節が合いません。」
「確かに、寿司も天ぷらも旬の素材を扱ってます。筍の天ぷらを食べたくなりました。」
「天ぷらには、塩ですか。」
「恥ずかしいんですが、家で食べるならウスターソースです。さつま芋もカボチャもソースが一番だと思います。」
「泰樹さんもソースで食べるんですか。私も、ゴボウやインゲンの天ぷらは塩よりソース派です。天ぷら屋さんだと、天つゆや塩で食べなきゃいけないので、ちょっと物足りないんです。」
ナツの色白の肌は、お酒が入り、ほのかなピンクに染まっていた。ナツは、食べ物の好みが合う人とは、長く付き合えそうだと思いながら、残っていたコップ酒をグイっと飲みほした。
続く
大トロより中トロが好きです。赤身もいいです。焼いた魚は脂がのった方が好きですが、お刺身だと淡白な魚や貝の方が好きです。高級すし店に入ったことがないからかもしれません。一度だけ、懇親会で九兵衛の出張屋台の握りを食べましたが、酔払っていたので、全く味を覚えていません。電信柱にぶつかるくらいなので仕方がありません。好きなお寿司屋さんは、クルクル回るトリトン(北海道北見)です。かけるものにこだわりがないのは、どんな人にも合わせることができると思えばいいでしょう。
これはどこまで実話なのでしょう~(苦笑)
先日、お酒を飲んで頭をぶつけた所はどうですか。
眼鏡も直っていると良いのですが^^;
へぇ~。神保町は東京の中華街でしたか。
中華街といえば横浜が思い浮かびます。
ふむふむ、そんな由来がありましたか。
江戸時代のお寿司は、今の2~4倍の大きさだったそうです。
当時の江戸っ子の味覚には、大トロは脂っぽ過ぎて捨てられていたそうで。
逆に、江戸の町は狭くて養鶏所が作れなかったため、卵は超高級食材。
今のお寿司事情とは真逆ですね^^
私もお酒弱いので、何年も飲んでませんが、ナツさんは酒豪そう。
好意の一欠片もない人に、触られたいとか長く付き合えそうとは思わないでしょうから、これは進展が期待できそうな予感?
私は食にこだわりがないので、かけるものはお任せしてます。
かかってなかったらそのまま。こういうタイプはどうしたら良いのでしょうね~。
お酒の勢いも借りて、頑張ってください(*^-^*)
赤坂の餃子屋さん『珉珉』が餃子ににんにくを入れた発祥のお店だそうですが、酢胡椒発祥の店としても有名だそうです。横浜にも美味しい餃子のお店がたくさんありそうですね。天ぷらは、蓮根、さつま芋が好きです。茄子も好きです。
私、餃子はお酢+胡椒です。
天ぷらは(基本揚げ物全般)ケチャップです。
ちなみに天ぷらは、おナスと蓮根が大好きです^^
それと・・・後編の後の完結編って、ワクワク増ですね(*^^*)
今回は、ハッピーエンドになるに違いありません。お酒の力を借りることができます。酔っぱらわせれば、こっちのものです。お酒が飲めればよかったのにと思います。
さなちゃん
もう何度も言っていますが、丸亀でなくてはなまるに行きなさい。さなちゃんが行かないから、三島冨田店は閉店をしてしまいました。讃岐うどん未来遺産プロジェクトに協力するのです。
たまちゃん
88%の人がてんぷらにソースをかける和歌山県をはじめ西日本ではソースをかける人も多いです。子供の頃、法事のお膳に天つゆが添えられていて、素麺がないのに何に使うのかと思いました。
れんげさん
両方使うなんて、手間をかけてますね。自分はお酒を飲まないのですが、気をつかって飲まれるより、気にせず、ぐいぐい飲まれるほうが気持ちいいですね。ぐいぐいいってください。
Cherryさん
また、騙されましたね。終わらそうと思ったのですが失敗しました。先日は、酔った勢いで、頭をぶつけましたが、たまには、楽しいことが起って欲しいものです。
後編で終わると思ったのに、まだ続くんですね。
ナツさん、お酒強いんですね。
酔った勢いで何かありそうな予感です。
ナツさんの呑みっぷり、最高です!
天婦羅、私は天つゆとソース両方で楽しみます♪
「こちらは塩で、、」って言われちゃうと、ちょっと切ない。。^^;
天ぷらにソースですか~~~考えたことなかった。
昔は我が家は天つゆがお決まりでしたが、
最近は親が面倒くさがって塩だけです。
私は塩が好きだからいいけど。ソースか~今度やってみよう^^
確かに食べ物の好みが似ているのは付き合っていて重要な気がします。
ずっと丸亀のてんぷらが食べたいのに全然行けずにいます(ノ∀`)アチャー
今度こそ、ハッピーエンドの方向へ進んでいっている気がしてきました!!
2人のやり取りも、大事な食事の好みの相性がいいところで和やかになってきましたね、期待してますよ♪