Nicotto Town



ばーちゃん拾った(前編)

善福寺川は杉並区を流れ神田川に流れ込む小さな川。川沿いに緑地が整備され、川面にはカモやサギがいて、木立にはオオタカも巣作りをしている。いつものように、川沿いの散策路をジョギングしていた。

川沿いのベンチに、お婆ちゃんが座っていた。お婆ちゃんの隣にはスーツケースとボストンバックが置かれていた。切り株に座りギターを弾いているお爺ちゃんや、ベンチに座って本を読んでいる人もいるので、その時は、休憩しているのかなと気にならなかった。

翌日の日曜に川沿いを走っていると、まだ、お婆ちゃんがベンチに座っていた。通り過ぎようとしたら、お婆ちゃんに、突然声をかけられた。
「ほら、カワセミがいるわ。」

お婆ちゃんが指さした方を見ると、スズメ位の大きさの小鳥が飛び立ち、青い翼をはばたかせながら川面を滑るよう飛んでいった。
「都会なのに、カワセミがいるのね。」

僕は、走るのを止めて、お婆ちゃんの隣に座った。
「お婆ちゃん、昨日からずっとここにいたの?」
「夜も暖かかったし、大丈夫。気にせず、ジョギング続けて。」

お婆ちゃんは、よそ行きのこざっぱりした服に、薄めのコートを羽織っていた。70歳くらい、生きていれば自分の母と同じくらいの年齢だろう。公園ではぐっすり眠れなかったのか表情は疲れていた。公園を随分歩いたのだろう、靴には泥がついていた。

「お婆ちゃん、行く当てがなくて困っているんだったら、俺んちで休んでいく?すぐそこだから。」
お婆ちゃんは、しばらく渋っていたが、納得してくれた。ジョギングだと10分くらいの距離だけど、お婆ちゃんの足取りに合わせてゆっくりと歩いた。

住んでいる社宅についた。お婆ちゃんに部屋に入ってもらって、使っていない和室に入ってもらった。事情を聴いて、おばあちゃんの家族か警察に連絡をしようと思っていたけど、おばあちゃんは、横になりたいと言った。

クッションとタオルケットを持ってきて、お婆ちゃんに渡すと、子猫が丸まるように身体を縮めてすやすやと眠り始めた。

母一人子一人の家庭で育った。その母は5年前に亡くなった。サウジアラビアに赴任していた時に母が入院したが、結局一度しか見舞いに行けず、死に目にも会うことができなかった。母が心を許せるのは自分しかいなかったのに、何もできなかった。その負い目をずっと感じていた。

まだ、朝の10時だけど、お婆ちゃんが目覚めたら、お風呂に入ってもらおうと掃除をしてお湯をはった。お婆ちゃんは、お昼過ぎに目覚めた。しばらく、遠慮をしていたけど、おばあちゃんちょっと匂うよと言ったら、素直に入ってくれた。

お婆ちゃんが寝ている間に、向かいのコンビニでサンドイッチとジュースを買い、テーブルに置き待っていた。お風呂からあがったお婆ちゃんは、さっきまで着ていた服とは違って、普段着のようなさっぱりした感じの服を着て、向かいに座った。

サンドイッチを勧めたが、お婆ちゃんは手を付けずに、携帯をバックからとり出した。
「あなたも心配でしょうから家族に連絡します。」というと、ボタンを押しはじめた。

「もしもし、和子さん。あなたのことだから、心配はしていないと思うけど、しばらく、お友達のところにごやっかいになるから、孝彦にそう言っておいて。ごきげんよう。」

お婆ちゃんによると、孝彦は息子、和子さんはお嫁さん。おばあちゃんが買って冷蔵庫に入れてあったなすびを、お嫁さんが料理に使ってしまって、大げんかになり家を飛び出してきたらしい。

それだけの問題ではないと思うけど、そんなことでとお婆ちゃん言ったら、怒られた。冷蔵庫の中は、神聖な場所で土足で上がっていいところではない。どんな料理を作ろうか考えて、食材を買ってきたのに、それを勝手に使うなんて、同性として許せないということだった。

僕は、お嫁さんとの喧嘩の理由より、しばらく友達のところにご厄介になるということの方が気になっていた。

続く

アバター
2019/05/24 21:16
みゅうさん
困った人がいたら、助けてあげたいですね。石垣島で財布を無くした高校生に6万円を貸してあげた埼玉のお医者さんもいましたね。僕の財布には、6万円も入っていないので、お金を貸してあげることはできませんが、部屋は余っているので、貸してあげられます。
アバター
2019/05/24 21:13
沖人さんまるで映画の一場面のような気がします
人ってこんなに優しく慣れるのですね物騒な世の中に
お風呂まで心が温まります
通分お友達の家で過ごすと言えるおばあちゃん余程沖人さんを信用できる人と判断したのでしょう
後半楽しみにしています



アバター
2019/05/24 20:37
Candyさん
まとめて読もうと思ったら、いつまでたっても続きが書かれないかもしれません。賞味期限が切れる前に、お早めにお読みください。

ゆりかちゃん
夏はなすびです。なすびは煮ても焼いても揚げても美味しい優れものです。漬物にもなります。一番大好きな食べ方は辛子漬けです。塩漬けをしてから、塩抜きします。そのあと、薄口醤油、和辛子、酢、砂糖で漬けるとできあがりです。これがあれば、何もいりません。

みーぴこさん
今回は、前編、後編です。婆ちゃんとのデートとかを入れたら中編が書けるかもしれませんが危険です。婆ちゃんが蕎麦派で僕がうどん派だったら、同棲生活が決裂をしてしまいます。

たまちゃん
解決策があります。冷蔵をもう一個買えばいいのです。今は、学生や単身用の素敵な冷蔵庫がたくさんあります。タピオカミルクティーもカットフルーツもシマリスのように溜め込むことができます。

さなちゃん
明日、ジョギングしたときに、婆ちゃんを探して拾ってくるようにしよう。そうしたら、ノンフィクションになるかもしれないが、婆ちゃんに警察に通報される気がする。

環謝さん
主人公の名前は、次回に登場するでしょう。しかし、なんて名前だったか覚えていない。一度しか登場しなかった。婆ちゃんの名前が一度も登場しなかった気がします。

Cherryさん
お婆ちゃん孝行は婆ちゃんの料理を食べる以外は何もしていませんね。婆ちゃんに掃除も洗濯もしてもらってますし、いけませんね。婆ちゃんとスーパーに買い物デートをしているのでしょうか。

ウサピョンさん
僕ではありません。名前を忘れてしまいましたが、部屋に泊めてあげたのは主人公です。しかし、自分の部屋も余っているので、喜んで泊めてあげます。
アバター
2019/05/23 06:45
沖人さんは凄く優しいんですね~
通りすがりの人をお家に招いてお風呂まで・・・
あまりできないことだと思いますが、声を掛けて助けられたんですね~

私も喧嘩の理由がそんな事で~?という思いになりましたが、
考え方が違うと、そんな事でも大げんかになるんですね~
”お友達”は沖人さんの事かな?^^?
アバター
2019/05/22 22:59
こんばんは~。
お婆ちゃんとのお話、どういう展開になるか楽しみです♪
親孝行するのかな?
アバター
2019/05/22 22:24
おばあちゃんにお友達認定されてしまったのね(笑)
しばらくお世話してあげて下さいね!

あれ?主人公は沖人さんですよね??
名前もないし、てっきりそうだと思ってるんですけど(・ω・)
アバター
2019/05/22 21:53
フィクションですか?
沖人さんならあり得そうな展開・・・w
アバター
2019/05/22 21:25
今度は今までと違う路線ですよね。
お婆ちゃんか~これからどんな行動に出るのかしら。
そうそう、台所は神聖じゃないですか。
だから自宅の台所で私が突然乱入して何かやりだしたら、
両親(うちは父も昔から家事をやる)が困ると思うのですよ。
神聖な場所を汚さないように、私も気を遣っているのです(^O^)
アバター
2019/05/22 20:47
沖人さん、こんばんは✿

わぁ^^
ワクワクするお話ですね^^  ただ・・・「前編」というのが残念です
沢山続くと楽しそうなのに♪
後編も楽しみにしています(✿◡‿◡。)ペコリ❤
アバター
2019/05/22 17:28
こんにちは、沖人さん。

困っているお婆ちゃんに声をかけてあげるとは、心優しい主人公ですね。
作者様のお心を反映しているのでしょうか。
沖人さんも、同じ場面に遭遇したら、同じように声をかけたんじゃないかな、と思えてきます。

家で休ませてお風呂までとは^^
亡きお母様へ孝行をしたかった気持ちの表れなのかな。

胸がじんわり温かくなるようなお話かと思えば、喧嘩の原因が…まさかのなすび!
料理は、作って貰えたらそれだけで嬉しいので、私なら土足でどんどんウェルカムですけどね~。
きっとそれ以上に深い事情があるのでしょう。

友達の所に厄介とは、まさかのお婆ちゃんとのドキドキ同居生活の始まり?!
美味しいなすび料理が食べれると良いですねv

次回もとっても楽しみにしてます(*^-^*)
アバター
2019/05/22 11:35
本当ならば最後の『完』を見てから読むことのしていたはずなのに題名にそそられて開いてしまった!気になる!




Copyright © 2024 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.