ばーちゃん拾った(後編)
- カテゴリ:自作小説
- 2019/05/22 23:15:13
婆ちゃんは、僕の不安そうな顔を見て、「昨日は家に帰ろうか、しばらく帰らないでいようかと考えて、そのまま公園にいてしまったの。今夜はホテルに泊まるわ。」と言った。
僕が黙っていると、「お風呂のお礼に、ご飯を作らせてね。冷蔵庫を見せてもらっていいかしら。」と婆ちゃんは、冷蔵庫の扉を開けた。
婆ちゃんは、飽きれた顔をした。冷蔵庫の中には、玉子と納豆しか入っていなかった。平日はコンビニの弁当で、週末は定食屋で済ましていた。婆ちゃんに急かされるように、スーパーに一緒に買い物に行った。
婆ちゃんは、キッチンで料理を始めた。調味料が無いとぶつぶつ言っているけど、スーパーに買い物に行かされたくないのと、ジョギングをして汗をかいたままだったので、お風呂に入った。
お風呂からあがるとテーブルの上には、茄子の揚げびたし、アスパラガスの肉巻き、青ネギを散らした豆腐と揚げのみそ汁とご飯が並べられていた。婆ちゃんは、コンロが一口しかないので、作るのが大変だったわといいながらも、自慢の出来にニコニコしていた。
急いでスエットに着替えて座り、いただきますと言った。家庭的な和食を食べるのは、母が元気だった頃以来だ。おいしい~、旬のアスパラは甘く、茄子もジューシーだ。揚げびたしに添えられたシシトウも夏を感じさせてくれる。おかずが白いごはんに合う。おかわりをした。
婆ちゃんは、みそ汁とご飯を少しだけ食べ、僕の食べている姿を見てご満悦だった。だけど、婆ちゃんの顔が赤っぽい。お婆ちゃんの額に手をあてると熱かった。自分の布団を和室にひくと、婆ちゃんに寝てもらった。
体温計を渡して体温を測ってもらうと37度5分。日曜日で病院も閉まっているし、救急車を呼ぶほどではないと思ったので、ハンドタオルを濡らして、寝ている婆ちゃんの額にのせた。
朝、ガチャガチャとキッチンで鳴る音で目が覚めた。まだ、朝の6時だと思いながら、キッチンに行くと、婆ちゃんに怒られた。昨日食べた後、茶碗やお皿を流しに置きっぱなしにしていた。
「食べた後は、片付けるまでが料理なの。第一、不衛生でしょ。」
「婆ちゃん、熱は下がったの。」
「おかげさまで、すっかり良くなりました。ご飯、できているから、おあがんなさい。」
実家を離れて一人暮らしを始めてから、白いごはんとみそ汁の朝ご飯は、はじめてだった。ご飯を食べると、トーストでは感じない気力が湧いてくる気がする。
婆ちゃんには悪い気がしたけど、保険証や通帳・カードを、通勤カバンの中に入れた。「婆ちゃん、盗られて困るものは何もないから、鍵開けっ放しで出かけていいかから。」と言うと、会社に向かった。
働いている間は、婆ちゃん出て行ったのかなと気になった。勤務時間を終えると、急いで家に帰った。婆ちゃんはキッチンで料理を作っていた。こうして、婆ちゃんとの同棲生活が始まった。
婆ちゃんは、若い頃料理の研究家をしていて、何冊か本を書いたこともあるということだった。嫁の和子さんは、料理学校の教え子で、婆ちゃんが見込んで息子の嫁にして、そして、和子さんも料理研究家の道を進んだ。
婆ちゃんによると、料理の腕は婆ちゃんの方がはるかに上だけど、若くて容姿もそれなりの和子さんの方が、ちやほさされたらしい。それは、我慢できるけど、家で料理を作らせてくれないのが我慢ならないらしい。
きっと、息子の孝彦さんの胃袋を和子さんに掴まれたというか、孝彦さんとしては、お嫁さんの味方をしないといけないので、婆ちゃんは悔しかったのだろう。
同棲生活は楽しかった。婆ちゃんは、料理を食べてくれる人が出来て、若返ったみたいだ。男の家事と女性の家事は全然違った。キッチンはピカピカになり、洗濯も婆ちゃんが毎日してくれた。
何より、家に帰ると温かいごはんがあるのが嬉しかった。そんな気はなくても、これまで、だらだらと残業していたけど、温かいご飯があると思うと、定時で帰るようになった。定時で帰ろうとすると日中の集中力が増し、キビキビ動くようになり、周りから評価もされるようになった。
婆ちゃんは、時々、用事を済ませに家に帰っている。孝彦さんと和子さんも菓子折りを持って訪ねてきた。会うまでは孝彦さんは同い年くらいかと思っていたけど、孝彦さんの方が10歳年上だった。それでも、会った時には、孝彦さんはとても恐縮をしていた。
美人だけどちょっと気の強そうな和子さんは、最初は不審そうな目をしていたけど、孝彦さんに渡した名刺を見ると安心したようだった。
息子夫婦公認の同棲生活になったけど、長くは続かなかった。2か月後に転勤になると上司に伝えられた。家に帰り、婆ちゃんにそのことを伝えた。
「婆ちゃんがいいなら、向こうでも一緒に住んでいいよ。」
婆ちゃんからの返事はなかった。
婆ちゃんが家に帰った。いつも日帰りで、戻ってきて夕飯を作ってくれていたけど、夜になっても帰ってこなかった。次の日も帰ってこなかった。また、コンビニ弁当の生活に戻った。一人で食べる夕飯は、こんなにつまらなかったのかと思った。
一週間が過ぎ、婆ちゃんは、若い娘さんを連れて帰ってきた。婆ちゃんは、僕と娘さんをテーブルに向かい合って座らせた。
「孫の芳子。今年、30になるのかしら。高校を出てから家事手伝いだけど、手伝ったことはないわ。私と和子さんが料理で喧嘩をするのを見て育ったから、料理や家事が嫌いになっちゃったの。芳子は、光男さんのことはもう話したから知っているわね。後は、二人とも聞きたいことがあったら聞きなさい。」
婆ちゃんは、見合いをさせているらしいが、そもそも、二人に選択肢や拒否権を与えているような感じがしない。
「芳子さんの趣味は何ですか。」
「本を読むのが好きです。」
「本たって、芳子が読んでいるのは漫画よ。恥ずかしがらなくていいの。これから一緒に住んだら、秘密になんてできないんだから。」
芳子さんは、貝のように黙ってしまった。向かい合っていたら息が詰まるので、善福寺川沿いを散歩することにした。
切り株に座って、今日もお爺ちゃんがギターを弾いている。芳子さんに、スナフキンと勝手にあだ名をつけているんですと話した。
芳子さんは、川面を見ながら黙って歩いていたが、僕の方を向いて話しかけてきた。
「光男さんは、いきなり知らない人と一緒に住むのは怖くないんですか。」
「怖いです。でも、スナフキンは『怖いかどうかは、自分で体験してみないと分からない』と言っています。婆ちゃんと一緒に住んで、怖いどころか、とても楽しかったです。一人でいいやと思っていたんですけど変わりました。」
「私、12年、引きこもっているんですよ。」
「僕は、25年、引きもこもっています。婆ちゃんには気づかれていないけど、漫画もアニメも大好きです。」
「あっ、カワセミ。」
「婆ちゃんと一緒ですね。」
今、長崎で三人で住んでいる。婆ちゃんは、こんな坂の多い街に来るんじゃなかったと時々不平を言っている。芳子さんは、容姿は母親から受け継いだが、料理上手のDNAは祖母からも母からも引き継がなかったらしい。
そのおかげで、婆ちゃんは生き生きとして、大好きな料理を作っている。少しだけ反省をしているのか、週末は芳子さんに料理を任せている。僕は、芳子さんの料理を、婆ちゃんも美味しいけど、婆ちゃんより美味しいと言って食べている。
(完)
八十八か所参りに行かれたことがあるのですね。伊豆大島でマラソンを走ったときには、沿道でお婆ちゃんが手を振ったり、声をかけてくれたり、ところどころの休憩所では水を出してくれました。どこにでも、そんな優しさい人がいるだと思います。みゅうさん、小説だから、僕は、そんなにいい人ではありません。
やっぱり四国の人だと私達夫婦四国八十八か所巡りした折
四国の人たちにお接待沢山して頂きました
その気質が沖人さんにも自然に身についているのですね
素晴らしい事をされましたね。。。きっと徳が訪れると思います
お嫁さんは、簡単には見つけられないので、まずは、婆ちゃんを見つけることにします。しかし、善福寺川沿いには、ウォーキングをしている元気なお婆ちゃんが多くて、なかなか、ベンチで休んでいる人はいません。毎週末走って、回数をこなすしかないですね。
素敵なお話でした(#^.^#)
さぼってまとめてお返事をします。フィクション、ノンフィクションとありましたが、フィクションです。まだ、新高円寺に住んでいます。
土曜日にジョギングをしていたら、スーツケース2つ、大きなバック2つを持った40歳前後の女性の方ががベンチに座っていました。赤いワンピースだったと思います。荻窪で折り返して戻ってきても、女性はそのまま座っていました。
少し気になったけど、小綺麗な恰好をしているし、フリマにたくさんの持ち物を出しに行く途中で休憩していたのかもしれない、明日も座っていたら、大丈夫ですかと声をかけようと思っていました。
日曜日にジョギングにでかけると赤いワンピースの女性はいませんでした。走っていたら、銀髪の妙齢の貴婦人に、「カワセミよ」と声をかけられて、東京の街中にもすんでいるんですね~と話したので、その二つを組み合わせてのお話でした。
古い社宅ですが、3LDKに一人で住んでいますので、明日のジョギングの時には、婆ちゃんを探しながら走るようにします。読んでいただいて、また、温かいコメントをいただいてありがとうございました。しばらく、ハッピーエンドの話はないと思いますが、ご容赦願います。
素敵ですね
良いお話を読ませて頂いて良かったです
ありがとうございます沖人さんお幸せになってください(*^-^*)
うんうん^^ ほっこりしましたぁ~
同棲を始めて生き生きした婆ちゃんが 若い娘になる?!なんて・・・想像してましたが
孫娘を連れてくるなんてw 素敵ですねぇ~
幸せに終わってよかったですぅ~(*^^*)
今回も、素敵なお話しありがとうございましたw
やっぱりハッピーエンドが嬉しいですね。
婆ちゃんとお嫁さんをゲットしてハッピーエンド!
いいお話だわ~♥
ほんわかあったかい♪
引きこもりコンビが、お似合いの人に出会えたおかげで
外にどんどん飛び出して行きそう^^
ばあちゃんは福の神ですね。
お婆ちゃんのお料理、美味しそうですね^^
こんな料理上手の素敵なマダムと同棲生活なんて!
何と羨ましい主人公なのでしょうv
喧嘩の原因は、料理の主導権争いでしたか。
嫁姑問題はわかりませんが、私だったら、作って貰えるなら「どうぞどうぞ」と甘えちゃいますけどね~(笑)
やっぱり胃袋を掴むのは重要なんですね。
料理上手の沖人さんも、スイーツ大好き女子のハートを射止められるのではないでしょうか?
息子夫婦にも認められて、晴れてお婆ちゃんと結ばれるのかと思いきや。
まさかの若いお孫ちゃんにバトンタッチ!
お婆ちゃんの正体は、実は鶴じゃないかしら?と思うほど、素敵な恩返しですね^^
あれ?でもこれは結局、お婆ちゃんとお孫ちゃんのどちらが本命??
最後の一文を深く考えると、お孫ちゃんと結婚したということで良いのかな。
珍しくハッピーエンドで、すごい素敵なお話でした♪
やっぱり幸せなお話のほうが、心がほんわかしますね(*^^*)
ノンフィクション?フィクションなのかな??最近忙しくて挨拶に行けなくてすみません...
今はおばあちゃんとお孫さんの3人暮らしですか?
実際にあった話ではなく、ノンフィクション?
今は幸せに暮らしているという事ですよね~(^▽^;)
おめでとうございます^^♪
だったらすごいですね。おばあちゃんがキューピットなんですね。
その後どうなったか気になる終わりかただなぁ。
ハッピーエンドが好きな私だから良しとしましょう。。。
転勤の話でも出ているのかしら‽
これって、2人は結婚したのかな???
うちにもそんなお婆ちゃん来てくれないかなぁww
お嫁さん連れて来てくれるといいですね?( ̄▽ ̄)