『おまえ』拒絶の背景を妄想す。
- カテゴリ:日記
- 2019/07/07 12:06:24
うーむ。テレビ見ていて物凄く、鳩尾の辺りにワダカマリが溜まってしまった。
現代、『おまえ』という二人称を使うのは蔑視の代表であり、
特に若い女性は『おまえ』と呼ばれたらキレて当然だという。フムフム。
『おまえ』は、男から親密な女性に対する呼称として許容範囲だろうという、
第二次大戦前の男尊女卑・旧弊な価値観と文化で育った世代なので、
違和感が壮絶なのだが、現代は二十一世紀だ。世情に従うのは当然であります。
現代、『おまえ』が相手を社会階梯において『劣ったもの』とみなした、
蔑視的呼称だとする一般の受け取り方にも文句を言うべきではないですな。
すでにそうなってしまったのだ。川の流れは絶えずしてしかも元の水にあらず。
後輩や部下、親しい女性や子供に対し『おまえ』というのも論外なんじゃろう。
ロクに報告相談もせず何度も独断でミスをやらかす現場の若僧を、
「おまえなぁ!」などと罵ったらパワハラ必至である。怖い。気をつけよう。
本題はここから始まります。旧世代の方でも同感するかは微妙なラインだ。
現代のアカントコの一つとしてワタクシ度々『肥大しすぎた自意識』を挙げる。
認知・承認欲求ありき、義務の前に権利ありき。具体的に言うとですな。
ありのままの自分を十全に肯定し認知するよう求めるのが『当然の権利』だ。
自己内面に投影された理想の自分が本質であり、周囲はそれを読み取れ。
我の権利を侵害するな、生来の自由権を尊重しろ。……こんな感じかしら?
うーむ。うーむ。こうした『健全な』現代思想に抵抗を覚えるのです。
「人間は社会的存在である」ってセリフがありますよね。
個人の価値ってのは、他者との比較で定まるに過ぎんと思うんだけど。
自分が呼ばれたい名称で呼んでもらうことを要求するのは、
爺世代のワタクシには『傲慢』きわまりない愚行に感じられるんすよ。
価値は他者からの評価で定まる。呼称というのもその一つだと確信している。
「おまえ」と呼ばれたとしよう。腹が立つことはないわけでして。
相手にとって自分が「おまえ」にすぎないことが判明したに過ぎません。
相手が自然と呼称を改めてくれるよう、自ら努力する以外の方策はないんすよ。
「あなた」「きみ」「〇〇さん」と呼ばれればご満足なんすかねー?
仕事じゃ、箸にも棒にもかからぬ役立たずにも敬称をつけて呼びますけどね、
それでご満悦という脆弱な精神の所有者は、滅んでも宜しいと思いますな。
ふー、若い世代から大反発を受けるだろうけど、半分は胸のつかえがおりた。
あとの半分は芸術・文学的な違和感なのです。刷り込みにすぎないけど。
ワタクシは『おまえ』が限りない愛とともに語られた作品を知ってるわけで。
明治以降の新体詩にはそこら中に出てくると思うんですよ。
自然を、人を、抽象物を『おまえ』と呼んでる例は枚挙に暇なし。
こういうものに憧れて育ったから『おまえ』への忌避感が薄いのかもね。
童話にも多い。主人公を見守る存在はだいたい彼や彼女を『おまえ』と呼ぶ。
これらの旧弊な文学作品から疎遠になっている若い世代には、
『おまえ』の美しさ(と言い切ってしまう)はお分かりいただけまい。
あとロック屋の『おまえ』の使い方も好きですなー。
世情に敢然と逆らって、好きな『おまえ』の出てくる曲を挙げてみよう。
二十世紀とはそういう時代だったのかもしれませんな。
・『あっち、おまえ』:不失者(初期の灰野は『おまえ』が多いっすね)
・『記憶は遠い』『The Last One』:裸のラリーズ(ラリーズも多い)
・『空へ』『AGE』:カルメンマキ&OZ Ⅲ (マキの『おまえ』は愛である)
・『なやむことは』:TENSAW ファースト (気合の入る『おまえ』だ)
・『メシ喰うな!』:INU (昔の町蔵は好きだなー)
なお、これらの『おまえ』のニュアンスは演歌での用法と大差ないわけです。
おわかりでしょう。二十世紀のロックの歌詞≒演歌という関係が。
前時代的な『おまえ』は今後、演歌からも消滅するんでしょう。しみじみ。
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ご無沙汰しております。コメントありがとうございます。
お父様に「反抗するときしか」お使いにならないというのは、
ワタクシ世代にも共感できる部分です。
少々脱線します。最近は古い童話が新訳で刊行されているそうで、
シンデレラなども、彼女の一人称で書き直されているものがあると聞き、
けっこう興味を持っています。
さて、魔法使いのおばあさんはシンデレラを「おまえ」と呼んでいたと思うんですが、
これが「あなた」「おじょうさん」に変更されてるとしますと、
ずいぶん印象が変わる気がするのです。魔法使いの威厳が低下する……とでもいいますか。
『幸福な王子』で王子はツバメを「おまえ」と呼んでたはずだし、
『人魚姫』の魔法使いも人魚を「おまえ」と呼んでた覚えがあるのです。
「おまえ」が一掃されると、童話の印象もずいぶん変化するんだと考えております。
すごい丁寧語だったんですが、
それも失礼をされる時代になってしまったんですね・・・
私は年下には君を使うことがありますが、大抵は○○さんですね。
女性から男性にあなたは抵抗感がある、と昔、同級生(男)にいわれたので。
おまえはいまんところ、父にしか使ったことがないですが、
本人からは『お父様でしょ』とかえってきます。
抵抗感があるんですかね?
ちなみに、反抗する時にしか使いません。
普段は『お父さん』です。