Nicotto Town



七夕

おやっさんと駅近くの焼き鳥屋でハイボールを飲んでいた。二人とも明日は週休日だ。消防士は、24時間勤務の当番日、翌日が24時間の非番、そして、週に1、2回の週休日がある。非番の時は呼び出しがあるかもしれないので、週休日にしか、お酒をお飲むことができない。

おやっさんは、深酒にならないように焼酎を控えめに飲んでいる。おやっさんは、幼馴染の慶子の父親だ。慶子の家に遊びに行くと、おやっさんは、腕立て伏せや腹筋をして、いつも身体を鍛えていた。

角刈りで、日に焼けて、逞しい身体は、男らしくて恰好良かった。たまに、消防署に遊びに行くと、はしご車やポンプ車に乗せてくれた。おやっさんに憧れて、高校を卒業すると消防士になった。

「貴弘は、慶子と上手く行っているのか?」
「振られたんだと思います。最近は返事も来なくなりました。」

「仕事中もコソコソ隠れて、まめにラインを送っていたのにだめになったのか?」
「もう、一年くらい、やりとりしてないっすよ。」

「東京と熊本は、遠かったか。織姫や彦星のように、一年に一度に会うだけは、満足はできんな。まあ、飲め。」

ハイボールをあおった。慶子は高校を出ると東京の大学に進学した。貴弘は週休日が重なると、慶子に東京に会いに行っていた。就職したばかりで、給料も少なく、3か月に一度がやっとだったが、慶子に会うことが楽しみで、どんなにきつい訓練も仕事も耐えることができた。

4月14日21時26分、その時も東京で慶子に会っていた。慶子の部屋で夕飯を食べ終え、テレビを見ていたら、緊急地震速報のアラームがけたたましく鳴り、数分後熊本地方で震度7とテロップが流れた。

母に電話をかけ、無事を確認し、職場に東京にいることを連絡し、翌朝までNHKのニュースを見ていた。始発の新幹線で熊本に向かったが、博多から先の公共交通機関が止まっていた。福岡にいる同級生に連絡し車を借りて熊本に戻った。

高速も止まり、混雑した下道を走り、消防署に着いたのは翌日の日付が変わるころだった。戦場のようになっている消防署に入り、呆然としていたら、おやっさんに怒鳴られ、そして、よく戻ってきたと言われて、現場出動の指示をもらった。

週休日で県外への外出の許可も受けていた。その後、本震も発生し、不眠不休の活動が続き、誰も責める署員はいなかったが、地震発生時にいなかった引け目は、心に刺さった棘のように、いつまでも抜けることがなかった。それから、週休日に県外に出ることがなくなり、慶子への連絡も途切れがちになった。

「貴弘、俺の家で飲み直すか。」とおやっさんに言われ、雨が降っていたので、タクシーでおやっさんの家に向かった。


おやっさんの奥さんが、やまうに豆腐と辛子蓮根を運んできてくれて、三人で飲み始めた。
「貴弘君、慶子と別れたんだって、知ってたか。」
「慶子から聞いていたわ。全然、会いに来てくれなくなった。他に好きな人が出来たんじゃないかって言っていたわ。そうなの?」

僕は、仕事が忙しくなって、なかなか東京に行くことができなくなったんですと言った。奥さんに、ずっと仲良かったのにねと言われた。

「そうそう、あなたに言っておかないと、いけないことがあったわ。慶子に子供が出来たのよ。」
おやっさんは、口から焼酎を噴き出した。
「おいおい、聞いてないぞ。」
「だって、今、初めて言ったんだもの、当たり前でしょ。」

「まだ、慶子は大学4年だろ。大学はどうするんだ。相手は、貴弘、お前か?」
「僕じゃないですよ、もう、一年、会ってないですよ。」

奥さんは、辛し蓮根をつまみながら、話し始めた。
「相手は、俳優志望のフリーターだって。すごい、イケメンらしいわよ。大学は休学するって言っていたわ。」
「こっちに、帰って生むのか。」

「東京で産むって言っていたわ。彼がフリーターでお金もないし、熊本に帰ってきたら、なかなか会えなくなるから、いやなんだったって。」
「どうするんだ、これから。ちゃんと育てられるのか。」

「あなたの了解をもらったら、入籍するって言っていたわ。大学を卒業したら、東京で就職して慶子が稼ぐんだって。」
「子育て、どうするんだ。」

職業柄、深酒をすることは、滅多にないが、おやっさんの焼酎がどんどん進み、僕は、水割りを何度も作った。奥さんは、五木屋のやまうに豆腐は焼酎に合うわねと言って、焼酎をロックで飲んでいる。

「私が東京に行って、子育てを手伝うのよ。あなたと結婚してから、九州から出たことがないわ。休みの日も日帰り温泉ばっかり。ディズニーランドにも、ずっと行きたかったわ。」
「俺は、どうなるんだ。」

「保育園に預けられるようになったら、新婚さんの邪魔をしないように帰ってくるわよ。」
「俺は、どうなるんだ。」

「一年に、一度くらいは、帰ってくるわよ。織姫さんみたいにね。あなたも、たまには、東京に来たらいいのよ。可愛い赤ちゃんに会いたいでしょ。おじいちゃん。」
「貴弘君、今夜は徹底的に飲もう。そもそも、君が慶子をほったらかしにするから、こんなことになったんじゃないのか。」

外は雨が降り続いている。彦星は、濁流に呑まれる覚悟で、織姫に会いに行った方がいい。女性は一年も会わずにいると、待っていてはくれない。

アバター
2019/07/13 12:29
mさん
七夕は旧暦じゃないと、月も上弦にならないし、天の川も天中に昇りませんね。何より、梅雨の真っただ中だと、天の川は洪水中なので、可愛そう。8月の方がいいですね。
アバター
2019/07/13 10:12
私の所は旧暦の七夕で「新暦・7月7日の七夕飾り」を・・・商業施設では

旧暦の8月の七夕まで~~~飾ったまま~~~
アバター
2019/07/13 09:19
あずささん
お隣の隣のオランダにも王室があるので、KLMにもお立ち寄りください。ベルギーは2020年に公共交通機関が無料になるんですねとネットを見ていたら、エマニュエル王子13歳、手を付けるのが早いかも。。。
アバター
2019/07/13 08:26
丁寧なお返事(人''▽`)ありがとう☆ございます
本の中みたいにうまくいくといいんですけど(;^ω^)
シンデレラストーリーそのものだけど
羽田のFNNAIRのそばにいたらルクセンブルクに帰る王子様が
「君かわいいね、一緒に帰る?」なんてならないかなぁって
思いながら寝ました昨日♡
アバター
2019/07/12 21:58
あずささん
コイツやだ~という人には、やだ~ということをさりげなく示すんですね。だいたい、脈がないなと思ったら諦めると思います。自分がいいと思う人は、遠くにいても想いを伝えるのがいいかと。遠く離れて、上手くいかなくても、それはそれで、いい経験になるのではないでしょうか。いいと思う人には、積極的になればいいと思います。たくさん、恋をすることが大事だと思います。

僕には、恋愛を語る資質も経験もないので、その根拠は、統計学です。
表面上は違いはないが、実はいい男、普通の男、ダメな男の3人がいる。出会う順番は分からない。
①恋愛は神聖なものであり、最初に好きになった人と添い遂げる。
②付き合ってみなきゃ男なんて分からないし、男の良さなんて比べてみなきゃ分からない。とりあえず最初の男と付き合って別れる。次の男が最初の男より良かったら、その男に決める。だめだったら、仕方がないので、残った男にする。

①の恋愛だと、いい男と結ばれる可能性は1/3、ダメ男になる可能性も1/3
②の恋愛だと、いい男と結ばれる可能性は1/2、ダメ男になる可能性は1/6

恋愛経験が多いほど、いい男を見極められるということかな。しかし、ほどほどのところで決断しないと、夢を見続けるシンデレラになってしまいます。
アバター
2019/07/12 17:57
あの、自分がいいと思う人は遠くにいて、もぅコイツやだ~って奴に
ちょっかいかけられるのはどうしたらいいですか?
って七夕ってブログなのに人生相談みたいにしちゃってすみません
これで最後にするから、読者のみなさんもどうかお許しくださいm(__)m
アバター
2019/07/12 01:19
あずささん
偉そうなことを書きましたが、信用しすぎたらいけません。しかし、本を読んだり、絵を見たり心を豊かにすることは間違ってないと思いますので、身も心も美しい女性になってください。
アバター
2019/07/11 21:55
(人''▽`)ありがとう☆ございます
何度も読み返しました
ずっと心に留めておこうと思います
今与えられていることを頑張ります それが将来の自分の引き出しになるのなら
「好き」より「尊敬できる」に惹かれているのかもしれませんが
同年代の男子にはぜんぜん魅力を感じません
アバター
2019/07/11 21:15
リンゴさん
やまうに豆腐は、平氏の落人が厳しい暮らしの中で生み出した保存食。豆腐を味噌で漬けこんだものです(HPの受け売り)。豆腐はたんぱく質が豊富な貴重な栄養源。天候の影響を受けやすく、昔は高価なものだったようです。うにを思わせるとろりとした食感のようです。五木村の道の駅だっかをたずねた時に売っていて、珍しいなと思いました。
https://itsukiyahonpo.co.jp/hp/itemlist.html

あずささん
美人や可愛い子の方が確実にもてます。しかし、容姿は年齢とともに衰えます。付き合って10年たって、自分の若い頃と同じ程度の容姿の女性が現れたら、そちらの女性の方に魅力を感じるでしょう。好き嫌いが合う、感性が合う、人間性に惹かれるということは、年齢を経ても色あせません。そちらの方も磨いた方がいいと思います。好き嫌いは仕方ないけど、人間性は教養に裏打ちされると思います。それといい男を見極めるには、見極める目を持たないといけないと思います。1g単位ではかろうと思えば1gを測れる秤。もっと、詳しく測るためには、0.1gを測ることができる秤が必要になります。なんて思います。
アバター
2019/07/11 18:07
模範解答みたいなお返事ども、ですぅ
でもでも 勉強できて普通の子と 勉強ちょい苦手だけど綺麗な子と
勉強ぜんぜんダメだけどめちゃセクシーな子がいたら
どの子と付き合いますか?
アバター
2019/07/11 12:17
1年も逢わないとどうなるんでしょう。
距離的に可能ならば逢いに行っちゃうのかな、でも放置されたら嫌ですよね::
(やまうに豆腐が気になりました)
アバター
2019/07/11 07:43
あずささん
勉強をしたことは、絶対に無駄にはならない。しなくても困らなかったという人も多いかもしれないけど、しておいた方が、もっと豊かな人生になったと思う。高校生の頃、古文の勉強なんて無駄だと思ったけど、今、和歌を見ても現代択を見ないと全く理解できない。英語なんて使わないと思っていたけど、今ではしゃべれなくて、恥ずかしいと思う場面も増えてきた。ネットで知識は入るけど表面的な。自分で考えるためには道具が必要になる。学校の勉強は知識を得るためだけでなく、思考の仕方なども得るためのものだと思う。今、学生の頃に、勉強しなかったことを後悔しています。
アバター
2019/07/10 20:34
んにゃ 結局は結婚なのかな
そだったら勉強なんかより、お化粧とかオシャレに時間使ったほうが
いいんじゃないかなってわたしゃ最近思うんだよ(まる子の声で)
アバター
2019/07/09 21:40
mさん
鉄は、熱い内に打ての作戦もいいのではないでしょうか。長く付き合うと、嫌な点に気づいてしまうまもしれないので、電撃作戦で考える暇を与えさせない作戦で行きましょう。

環謝さん
1年も会えないのは、寂しいのじゃないでしょうか。織姫と彦星の距離は15光年。光ファイバーで結ばれていても、返事が返ってくるまで、往復30年。よっぽど、気が長くないとだめですね。

さなちゃん
だから心の棘が抜けていなんだ。ひねくれた性格になったのもそのせいかもしれない。フィンランドにムーミンを捕まえにいくんじゃなかった。

蓮さん
恋愛も仕事も同じですね。電話だけだと喧嘩になってしまうこともあります。会って話すと、なんともないのに、メールでやりとりをしていると簡単な話もややこしくなってしまいます。

オレンジ先生
オレンジ先生は辛抱強い印象です。何年でも待っている幸せの黄色いハンカチの倍賞千恵子のようです。手芸が趣味だからかな。

ゆりかちゃん
まめな男子も、凹むと矢文も打てなくなってしまうのでしょう。愛想をつかされるのは災害級に匹敵します。対岸だと分かっていれば泳いいけばいいですが、どっちに向かって泳げばいいのか分からないと困ってしまいますね。

aiさん
仕方ないのです。七夕らしい話にしたいけど、1年に1回しか会わずに、恋愛を続けられるのはマグロ漁師しかいません。マグロ漁師で話を作ればよかったのかな。

みーぴこさん
天の川の幅は1000光年。世界最長のつり橋は明石大橋の1991m。何本もかけないといけません。明石大橋の設計中、どうせだったら2000mにしろと天の声がありましたが、担当技術者が必然性がないと却下しました。

たまちゃん
よく気付きましたね。天空にはギリシャ神話の神々が大勢います。ゼウスに代表される彼らは、欲望のままに生きています。そんな誘惑の多い天空で、1年に1度の逢瀬で済むわけがありません。
アバター
2019/07/08 21:57
素直におもしろかったです~♪
頻繁に会っていれば、否が応でも(←おい)情が出ますもんね。
七夕伝説の織姫と彦星、本当に1年に1回だけでうまく行ってるのかな~?
伝説の手前、7月7日のイベントだけ表向きは仲良しの振りして、
それ以外はそれぞれ別の相手と暮らしてたりして♪

アバター
2019/07/08 21:54
沖人さん、こんばんは✿

貴弘君の気持ちが分かるような・・・
あははは^^;
これは逆のパターンも多々ありますよねぇ~
濁流に飲まれる覚悟をする前に 橋を架ける事を考えましょうよ~
アバター
2019/07/08 15:59
なんか、めちゃくちゃなストーリーだけど、あるかもしれないね!?

五木屋のやまうに豆腐が気になりましたw
アバター
2019/07/08 11:39
こんにちは、沖人さん。

消防士さんのお仕事は大変ですね。
貴弘くん残念!遠距離恋愛は難しそうです^-^;

慶子さんも、熊本が地震で大変なのはわかっているはずだから、もっとお仕事に理解を示してあげたら良かったのに。
でも、会いに行けないのは仕方ないとしても、連絡も途切れてしまっては愛想つかされちゃうかも。
お仕事中も、コソコソ隠れてラインを送っていたマメ男子はどこへ行った~>_<

と、歯がゆくなってしまうストーリーでした。

最後の、お母様とお父様のオチが面白いです♪
俺はどうなるんだ、に笑ってしまいました。愛されてますね、お母様vv
貴弘くんと慶子さんを、織姫と彦星に例えているとみせかけて、実はこちらが本命でしたか?

彦星には、濁流に呑まれてまで会いに来て欲しくはないですが、矢文の一本は欲しい所ですね。
沖人さんも、意中の織姫様がいらっしゃるなら連絡はお忘れなく(*^^*)
アバター
2019/07/08 08:49
最初から遠距離だったら
いいのかもしれませんが
一緒にいて
遠距離になってしまう・・のは
うまくいかないのかもしれませんね。
それでも1年会えないのは
寂しいです・・・・^^
アバター
2019/07/08 01:06
私も一度遠距離恋愛したことあります。
一年に数度しか会えず上手くはいきませんでした。
やはり近くにいないとダメですね。
アバター
2019/07/07 22:24
そういえば沖人さんも東日本大震災の時は日本にいなかったんでしたっけ?
あの後一生懸命ボランティアされてましたね・・・
っで、沖人さんは織姫様にそっぽ向かれないように頑張ってくださいww
アバター
2019/07/07 21:16
今は恋愛する気が起きないのでよく分からないなぁ〜(*´∀`*)

遠距離の経験は何度かあるので、私なら待ってそうかなって気がするだけですが、何かしら連絡は欲しいかな。
アバター
2019/07/07 20:37
先週、恋愛結婚?お見合い結婚?・・そんな話になって
➀「友人の披露宴の司会を頼まれ、新婦側の進行役と新郎側の進行役・・・
   遠距離恋愛、9か月で7回会って・・・結婚」
②「秋にお見合いして、その年中に結婚式」
 
  ↑↑
 なかなか凄い話を聞きました(゚д゚)!




Copyright © 2024 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.