Nicotto Town



すいか割り

終業式を目前に控えたホームルームで、クラス担任の七宮が「中学最後の夏休みだし、クラスで海水浴にいかないか。」と提案をした。すると、教室に微妙な空気が流れた。

七宮はクラス全員に視線を送った後、「高橋どうだ。」と聞いた。高橋は、「先生、海水浴に行きたいですけど、夏休み中に最後の大会があって、練習を休めません。」と答えた。

男子の多くが運動部に入っていて、夏休み中の大会を最後に引退する。文化部も秋の文化祭に向けて夏休み中に作品を作り引退する。海水浴に行きたいけど、タイミングが悪いという感じだった。

七宮は、寂しそうに教室を出て行った。七宮は、20代でハンサムだった。女子の間には熱狂的なファンもいる。その中の一人の六車が部活に入っていない帰宅部の生徒に「先生が可愛そうじゃない。〇〇ちゃんは大丈夫よね。」と声をかけて回っている。

女子には帰宅部が多く、そこそこの人数が集まったようだ。女子の間には、七宮先生はゲイ説が流布している。そのきっかけは、新人教師のイケメン武田先生と七宮先生の二人が週末にドライブに行ったという話を聞いたときからだ。

男子は、七宮先生から、「ほんとは行きたくなかった教育学部に進むことになったが、女子が多くて合コン大魔神になり、かなり活躍した。」と直接聞いていたので、ゲイなわけがないと女子にも話したが、女子は信用しなかった。

ジュリアス・シーザーの名言「人間はみな自分の見たいものしか見ようとしない」のとおりで、腐女子連中は職員室で七宮と高橋が話しているのを見かけると、「やっぱり二人はそうよ~」と言い合っていた。

六車に、「桃田、あんたも帰宅部でしょ。海水浴行くよね。」と誘われたけど断った。バスケ部を辞めて帰宅部になっていたけど、クラスが一緒だというだけで、親しくもないのに、仲のいいふりをするのは恰好悪いとひねくれていた。

すると、クラスで一番のアイドルの瞳ちゃんがやってきた。「桃田君も海水浴に行くよね?泳ぎ、得意だったもんね。」と誘われて、「行くよ。」と答えた。大きな瞳で見つめられて、断ることができる男子はいないだろう。

夏休みに入った最初の日曜日に海水浴に出かけた。引率の七宮先生と男子5人、女子12人だった。男子は運動部に入っている生徒が多く、人数が少なくなった。男子と女子は人数だけでなく、存在でもバランスが悪かった。

帰宅部の男子は、運動が苦手でクラスでも目立たない存在が多かった。参加した女子は六車のようなクラスのリーダーや瞳ちゃんのようなアイドルのように、輝いた存在が多かった。しかし、女子は、七宮先生が目的で、帰宅部の男子は眼中になく問題なかった。

電車に2時間乗り、田子の浦の海水浴場に着いた。海の家もなく、白い砂浜と松林が広がるひなびた海水浴場だった。着替えて、海に入ったが、男女ともスクール水着で体育の授業のような光景だった。

しばらく、遊んだ後、すいか割りをすることになった。じゃんけんでトップバッターになった。目隠しをして、誘導を聞きながらスイカに近づいていく。ルールで、スイカの近くではみんな黙り静かになった。

スイカの置かれているイメージが二つ浮かんだ。どちらか決めきれなくて、その真ん中に向かって、棒を振りおろした。ザクっと砂を叩いた。悔いが残る結果になった。失敗してもどちらかに決めておけばよかった。

防波堤に座って、いびつな形のスイカを食べていると、隣に瞳ちゃんが座った。
「桃田君って、好きな子いるの。」
「いないよ。」
こういう場面では、いてもいないよと答えるのが鉄則だ。

「ふ~ん。夏休みに勉強を教えてくれない。そろそろ高校受験の準備したいの。」
「いいよ。」
「ありがとう。」
瞳ちゃんは、立ち上がり、水着のお尻についた砂を払うと、女子達のところに向かっていった。

真夏の太陽に照らされ、妄想が膨らんでいく。小麦色の肌で大きな瞳と長いまつ毛。柔らかそうな唇。砂浜でボール遊びをしている瞳ちゃんを見ていたら、背中をバチーンと叩かれた。

「嫌らしい目で女子を見ないでよ。変態。」
六車だった。六車の誘いを断りながら、瞳ちゃんに誘われるとひょいひょいついてきたのを、まだ、怒っているのかもしれない。

「沙織が話があるんだって。」と六車は言うと、七宮先生の方に歩いていった。
沙織は美術部でクラスでも目立たない大人しいタイプだった。眼や鼻も小づくりで顔自体も小さく、優しい顔立ち。瞳ちゃんがひまわりだとしたら、沙織はスズランのような可愛らしさだった。

「桃田君って好きな子いるの?」
「いないよ。」
本当は、沙織のことが好きだった。だけど、いないよと言ってしまった。

「本当は文化祭に出す作品の準備をしないといけなかったけど、桃田君が参加するって聞いたから来たの。桃田君、夏休みに一緒に勉強をしない?」
「いいよ。」
「ありがとう。」
そう言うと沙織は、六車の方に向かって歩いていった。

真夏の太陽に照らされて、頭の中が混乱してきた。どうして、同じタイミングなんだ。どうして、二人とも可愛いんだ。とても嬉しいことが重なったのに、帰りの電車の中では心が重かった。

六車に相談して、新しくできた図書館の自習室で勉強会をすることにした。毎日、10人くらいが集まり自習をして、分からないところが出てきたら、教え合うような感じで、夏休みの間続いた。

中学最後の夏休みが終わったが、瞳ちゃんとも沙織とも何の進展もなかった。悔いが残る結果になった。失敗してもどちらかに決めておけばよかった。

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2019/07/29 23:49
オレンジ先生
付き合っている彼女がいないのに、可愛い子から誘われて断ることができるのは、ごく一部のモテ男か、二次元世界にはまっているオタク男子しかいません。自分は後者に属していますが、断る機会がありません。

みーぴこさん
女子とスイカを一緒にできるのは、中学生しかいませんね。おっさんになると、スイカの方が大事になります。先週まで6分の1カット580円していたスイカが380円になったので、おっさんは大喜びです。

環謝さん
軍略でも兵力を分散させるのは禁じ手です。戦力集中して各個撃破を図るのが鉄則です。しかし、瞳ちゃんと沙織ちゃんのどちらを選ぶかは、キルケゴールと同じくらい悩みます。

aiさん
永世七冠を達成した羽生善治氏も決断力が重要だと言っています。若かりし頃に、角川新書の羽生さんの「決断力」、谷川浩司十七世名人の「集中力」を読みましたが、決断力も集中力もありません。

ゆりかちゃん
若者はジュリアス・シーザーや豊臣秀吉を目指さなければいけません。良きパパや良き上司で満足していてはいけないのです。天下を目指さなければいけないのです。自分は若者でないので、美味しいうどんが食べられたら満足します。

mさn
最近は、二兎どころか一兎を目指さない若者も増えていますね。昔は、異性は未知の存在でワクワク、ドキドキする感じが溢れていたと思いますが、今は、情報が溢れていて引力が減っているのかなと思っています。

cherryさん
中学生の頃は、遠い昔になりすぎて、もう思い出すことはできません。中学生の頃は、ガンプラを作ることに夢中になっていて、女子どころではなかったように思います。

たまちゃん
欲張りですね。おそらく、先週もスヌーピーパンとウッドストックパンの両方を買われたのでしょう。ひょっとしたら、ガレットも食べられたのでしょうか。一人じゃ満足できないから、三人組のIL VOLOなのでしょうか。
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2019/07/29 22:03
いろんなことわざが頭に浮かんじゃいますね~(笑)
でもどっちもいい場合、そう簡単に決められませんよね。
大人になった私は、そういうときは両方ともゲットすることにしています。
青もいいし、黒もいい。じゃあ2つとも買っちゃえ。
あ、買い物の話じゃなかったですね。でも悔いは残らないのでいいですよ♪
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2019/07/29 20:59
中学生日記、一気に若くなりましたね。
なぜに中学生のお話なのか気になります。
思い出話でしょうか?!
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2019/07/29 18:51
両手に花、二股を目指すのも~OKよ---(^_^)v
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2019/07/29 12:01
こんにちは、沖人さん。

先生と海水浴に行けたら、良い思い出になりそうですね^^
私は、博物館に連れて行って貰った記憶があります。
この小説は、どこまで実話なのでしょう?

クラスのアイドル瞳ちゃんと、小さくて可愛い沙織ちゃん。
同時にアプローチされるなんて、少年漫画の主人公によくある出来事です。やっぱり実話かなv
沙織ちゃんとは、言動から明らかに両想いなのに~!勿体ない。
スイカで悔いたのなら、それを活かして、一途になるべきでしたね。

もしくは、名言のジュリアス・シーザーのように、
器の大きい男性を目指してはどうでしょう?
妻の他に多数の愛人がいても、誰からも恨まれず、皆仲良くモテモテ人生。

微妙に残念なオチですが、いつもと違った展開で、とても面白かったです(*^-^)
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2019/07/29 11:52
まだ優柔不断でかわいらしい、思春期の男の子ですね。
きっと、この性格は続くんでしょうねぇ。
決断力ってのも必要だよって、自分に言い聞かせてます!?

優しすぎるからなのかもね。。。
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2019/07/29 01:06
沖人さんの実体験に基づくお話なのかしら(*´艸`)フフ
二兎を追うものは一兎も得ず。。。なわけですね^^;
まぁ、たまにはモテモテな主人公( 結果的には彼氏になれなかったけどw )もいいじゃないですかw
いつもはコテンパンにフラれちゃうことが多いので、中学生らしい甘酸っぱい思い出の夏休みになりましたねww
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2019/07/29 00:10

女子とスイカを一緒にするとは・・・
さすが中学男子w

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2019/07/28 23:18
可愛い子に誘われると
断れないものなんですね。
沙織ちゃんの事が好きなのに
可愛い子にも揺れるから~^^




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