慣用句
- カテゴリ:自作小説
- 2019/09/12 22:30:17
バンドを組んでいて、いくら小遣いがあっても足りなかった。ライブのためのスペースを借りるために、バイト代が飛んでいった。活動費を稼ぐために、週に2日、夜10時から朝7時までコンビニでバイトをした。
大学が夏休みに入ったとき、同じシフトに入っていた学生が、旅行にでかけると言ってバイトを辞めた。それ以来、ベトナムから留学に来ているフォンちゃんと一緒にシフトに入ることが多くなった。
フォンちゃんは、日本に来て半年しか経っていないけど、片言だけど会話も十分だし、コンビニの仕事も直ぐに覚えるくらい、勉強熱心な努力家だ。
フォンちゃんには、一つだけ苦手なことがあった。煙草の名前が覚えられなかった。お客さんが、「メビウス・スーパーライト・ボックス」と言うと、フォンちゃんは、「コレデスカ?」とお客さんと何度もやりとりをすることがあった。
僕は、手が空いているときは、代わりに煙草を取ってあげた。手が離せないときは、125番と煙草の棚の番号をフォンちゃんに教えてあげた。
バイトが明けた時、フォンちゃんに、ルームメイトが旅行にでかけているので、ご飯を食べにこないかと誘われた。もちろん、喜んで行くと答えた。
フォンちゃんのアパートは、リビングと寝室の二間で、寝室には二段ベットが置かれていた。家具は少ないけど、辞書や本がたくさん置かれていた。リビングに座って、キッチンで卵を炒めていたフォンちゃんに話しかけた。
「フォンちゃんのフォンってどういう意味があるの?」
「日本語の『香』という意味デス。ベトナムでは多いデス。」
「可愛らしい名前だね。何を作っているの?」
「パインセオとヌムクオン。日本だと生春巻きデス。」
立ち上がって、キッチンを覗き込むと、生春巻きは出来上がっていて、パインセオも具をクレープのような生地で包むところだった。
「出来上がりました。」とフォンちゃんは、テーブルにお皿を並べはじめた。僕は、グラスを借りると買ってきたワインを注いだ。
「了さんには、いつもお世話になってます。ありがとございます。」
彼女は、「モッハイバーヨー」と言って、彼女のグラスを僕のグラスに軽く当てるるとワインを口に含んだ。
「了さんは、店長さんと仲がいいですね。」
「店長も昔、バンドをしていたから、話や肌が合うんだよね。」
「・・・了さんは、大学で友達は多いのデスカ?」
「バンド仲間は多いけど、留学生の代表をしているフォンちゃんほど、顔は広くないよ。」
「・・・いつも、困った時に、助けてくれてありがとございます。」
「フォンちゃんのためだったら、いつでも一肌脱ぐよ。」
「・・・ベトナム料理はどうですか?」
「とっても美味しい。女の子の部屋に入るのが初めてで、ご飯が喉を通らないんじゃないかと思ったけど、美味しいからパクパク食べられる。胸をなでおろした。」
フォンちゃんは、箸をテーブルに置くと、ハンカチを眼に当てはじめた。僕は、どうしたのと聞いた。
「了さんのこと誤解をしてました。真面目で優しい人だと思っていました・・・、それなのに、店長と肌を触れ合わせる関係だし、私のことを顔がでかいと言うし、服を脱いで、胸を撫でたいだなんて、不潔です。直ぐに、出て行ってください。」
説明をすれば、分かってもらえると思うけど、彼女は泣いていて、声をかけられない。彼女は、大きな誤解をしているけど、後半は間違ってない。
僕は、テーブルの上の生春巻きを一つ摘まむと、フォンちゃんの部屋から、後ろ髪をひかれる思いで、肩を落として出て行った。
仕方がありません。大学生が女子の部屋をたずねたら、パインセオも生春巻きも味は、ちっともわからずに、頭の中はフォンちゃんのことでいっぱいです。しかし、会話は盛り上げないといけないと、頑張りすぎて空回りしたのでしょう。痛恨の失敗です。
ゆりかちゃん
店長は大丈夫です。奥さんや彼女に、キスの一つでもすれば誤解は解けます。しかし、了君の誤解を解くのは難しいです。ひとたび、そうだと印象を持たれると、それを払しょくするのは困難です。自分も、二コタの皆さんには、一日三食、うどんを食べていると思われているに違いありません。ペペロンチーノもカキフライも大好きです。グラタンを作ろうとマカロニを数か月前に買いましたが、ホワイトソースを作るのが面倒で、放置したままです。榎本武揚のテーブルにどんなマカロニ料理が出されたか気になります。
私も高校生の時、コンビニでアルバイトしてて、
タバコの銘柄が覚えられなくて大変でした。
了さんみたいな優しい先輩はいなかった~>_<
その後、誤解は解けるのですか?
解けないと、関係ないのにあらぬ誤解を受けた店長が、とんだとばっちりですね。
店長に恋人や奥様がいたら、話が巡り巡って、こちらが修羅場になりそうです。
何としても、誤解を解いてあげてください。
大丈夫♪
有名な偉人も、似たような失敗をしてますから^^
幕末に箱館戦争を起こした榎本武揚は、
生粋の江戸っ子で『べらんめえ口調』だったため、
「まからねえか(値引きしてくれないか)」
と言った際に、間違えてマカロニを持ってこられた、というエピソードがあります。
思わず、くすっとなる微笑ましい逸話ですね。
沖人さんの小説も、思わずくすっとなりましたv
了さんも、この話をフォンちゃんに聞かせて、二人も笑顔になってください(*^^*)
きちんと説明すれば分かって貰えるのに、
後半が気になりました(笑)
国々によって、表現が違いますね。虹の色も日本は七色、アメリカは六色、ドイツは五色。太陽の色は、日本は赤、アメリカは黄色だったりします。海外の作品は翻訳する人によって、印象が変わってしまうように思います。言葉が通じなくても、考えていることが分かったり、コミュニケーションは不思議です。
環謝さん
言葉の使い方は、国によって違うと思いますが、女性の部屋に夕食に招かれるということは万国共通の意味があるのでしょう。広辞苑には、招待を受けて、ご飯だけ食べて帰れば、根性なしの失礼な男になると書かれています。了君は悪くないと思います。
リンゴさん
了君の最大の敗因は、相手に立場になるというビジネスマンの基本が出来ていなかったことでしょう。ここは、木下藤吉郎のように、寒い日ならば懐でわらじを温める、石田佐吉のように、喉が渇いている人には最初にはぬるめ、二杯目はちょいあつを出すような気配りが必要だったのです。フォンちゃんに分かりやすく伝えないといけなかったですね。
たまちゃん
最も効果的な作戦は、ベトナム語で愛の手紙を出すことでしょう。急いで、勉強しなければいけません。今なら、グーグルが何とかしてくれでしょう。機械翻訳で、全く違う意味になり、一層、混乱に拍車がかかる可能性がありますが、母国語で伝えようとしてくれた気持ちは通じるかもしれません。是非、可愛い店員さんをナンパしてください。
フォンちゃんにはまだ難しい日本語が並んじゃいましたか。
これはあとでお手紙か何かで意味を教えてあげないといけません。
私がよく行くコンビニも、店員さんが多国籍。
南米出身と思われる女の子がかわいくて大好きです♪
この誤解を解く説明はどう話したらいいのか・・
ひとつひとつ説明するにしてもはて(-.-)?悩みますね
結構重要な問題だったりしますよね。
アメリカの小説の表現で「きゅうりのようにクール」
と言うのがあるようですが、なんとなくニュアンスはつかめても
文字通り読むと何がなんだか?という感じです。
気持ちを伝えるというのは本当に難しいですよね。
「フォンちゃん」の誤解はその後解けたのでしょうか?