タケシの武勇伝…(12)
- カテゴリ:自作小説
- 2009/10/09 14:23:58
スクリーンには、最後の打者を三振にしとめてガッツポーズするタケシの姿があった。打者21人をパーフェクトに抑えた瞬間だった。
「北野くん、これ覚えてるよね……スゴかったよ、君は!」
シンさんは、車椅子から身を乗り出しながら食い入るようにスクリーンを見ていた。あきらかに興奮しているのが分かった。
だが、タケシは見ていなかった。それどころか、不愉快さいっぱいの面持ちでシンさんの背中を睨みつけていた。
映像はものの数分で終わり、すぐに部屋の中が明るくなった……
「シンさん、悪いけど俺帰るわ!」
タケシは、手にしたプリントの束を差し出しながら不愉快な口調で言った。
「別に悪気があって見せたわけじゃないんだ…でも気を悪くしたなら謝るよ。ごめんね…」
タケシの態度の変化に気づいたシンさんは、両手を振りながらこう言った。
「シンさん、俺プリント渡しに来ただけだから…」
シンさんのひざにプリントを置いたタケシは、クルリと背を向けてさっさと出て行こうとした。
「北野くん、待って!君はもう一度投げたいって思わないかい?」
シンさんの言葉に足を止めたタケシは、半ばキレかかった気持ちでシンさんの前に左手を突き出した。
「シンさん、分かるかい。俺の中指はもう動かないんだぜ……シンさんが病人じゃなかったらブン殴ってるよ!」
タケシはこう言って、突き出した左手をギュっと握って見せた。曲がらない中指のせいで力の入らない左手はプルプル震えていた。
左手を見たシンさんはもう一度身を乗り出すと、今度は力を込めて話し始めた。
「知ってるよ手のことは!でも、僕は君の手を治したいんだ。君の姿をもう一度見たいんだよ!」
シンさんの青白い頬に、うっすらと紅みが差していた。
※※つづく※※
切ない/∖∙。。