薔薇の香り
- カテゴリ:自作小説
- 2019/10/23 23:24:37
新高円寺の駅に向かう途中、住宅街の中を歩いていると甘い香りが漂ってきた。見上げると、金木犀の小さなオレンジ色の花が、身を寄せ合って窮屈そうに咲いていた。太一には、満員電車に乗っているサラリーマンのように思えた。
会社に着くなり、チームリーダーの高橋に呼び止められた。明日までに、化粧品会社から依頼された香水のプロモーション用コンセプトペーパーを作成するように言われ、新製品の試作品が渡された。
太一は、高橋に「間に合いませんよ。」と言ったが、「仕方ないだろ。」と取り付く島もなかった。太一の会社は大手広告代理店の社内ベンチャーだった。社内ベンチャーと言えば、聞こえがいいが、100%親会社出資の下請け子会社だった。
親会社は、高給のままワークライフバランス改革を進め、そのしわ寄せが下請けにやってくる。今朝のような無理な依頼が増えてきた。
製品の売り出しは、広告と広報に分けられる。華やかで実入りもいい広告は親会社が担当し、太一の会社に依頼されたのは、そのおまけとして扱われるネットの広報戦略だった。
太一は、目をつむりながら考えていた。薔薇の香りを漂わせながら、由紀恵が隣の席に座った。由紀恵は、派遣社員で太一のアシスタントをしている。企画を考えるのに必要なデータや情報をネットから集めてもらっていた。
派遣社員は、契約で決められた仕事だけをすればいいが、クライアントと打合せをしていると、由紀恵はタイミングを見てお茶を出してくれたり、太一が頭を抱えていると、休憩をしたらと珈琲を出してくれたりする。
由紀恵がいるから、割に合わない会社に勤めることができていた。
「頭を抱えて、また、急ぎの仕事が入ったの?」
「明日の朝までに、新製品の香水のドラフトを作れだって。高橋さん人使い荒いわ。」
「今夜は徹夜ね。それで、キーワードは決まったの?」
「考え中。由紀恵さんの薔薇の香りは香水なの?」
「ハンドクリームの香り。パンピューリのオーガニッククリーム。日本人は余り香水を使っていないと思うわ。」
「由紀恵さん、化粧品の売上高や香水のシェアを調べてくれない。」
由紀恵は、ネットを検索して、使えそうな資料をプリントアウトして渡してくれた。日本は世界の化粧品市場の15%を占めていた。フレグランスはこの4年間で2割も売り上げを伸ばし急成長していた。しかし、化粧品販売額の中でフレグランスの占める割合は1%強で、フランスの1/10に過ぎない。
「香水を売るのは、アフリカで靴を売るジョークと一緒だね。」
「どういうこと?」
「イギリス人の靴屋とアメリカ人の靴屋がアフリカを訪れたら、みんな裸足だった。イギリス人は、これじゃ誰も買ってくれないと思ったけど、アメリカ人は、いくらでも売れるぞと陽気になったという話。」
「そうね。広告屋はポジティブにならないとだめね。だけど、欧米人は香りも含めて個性を大事にするけど、日本人は無臭を好むんじゃないかしら。」
「香りってなんのためにあるのかな。今朝も金木犀の甘い香りがしてたけど、虫を呼ぶためかな。由紀恵さん、香や匂いについて、資料を検索してみてくれない。」
由紀恵は、フェロモンに関する論文をいくつかプリントアウトした。それを読むと、フェロモンの効果は絶大だった。ゴキブリは、1/10000000000000000gのフェロモンを感じることができる。感じた瞬間に雄は雌が恋しくてたまらなくなる。
人間と違って、植物も虫も動物は限られたシーズンに繁殖をしなければいけない。草木が生い茂る中や広大な砂漠の中で雄と雌が出会わないといけない。
太一は、自分も薔薇の香りがすると、由紀恵を感じて悶々としていると思った。しかし、男を惹きつけるというキャッチは、今の女性に受けいれられるとは思えなかった。
他の資料には、香りによるリラックス効果について書かれていた。男性は疲れていたら、寝るか飲むかしかしないけど、女性は、アロマに関心を持っている。
「由紀恵さん、疲れているとき、どうしているの?」
「う~ん、ストレスを感じた時は、おしゃべりが一番だけど、甘い物を食べたり、爆食いをしちゃたりするときもあるわ。」
「女性って、疲れているのかな?」
「働く女性も増えてきたし、家庭でもストレスを感じることが多いんじゃないかしら。女性は、出かける前に、ヘアースタイルが決まらないだけで、イライラしちゃうから。」
女性だけでなく、日本人は疲れやすいのかもしれない。自分の個性や価値観を重視する欧米人と違って、日本人は他の人からどう見られているのかを重視する。自分に似合う服を探して、コンセプトショップに行くより、ブランド物を身につけて安心する。
ファッションだけでなく、日本人は、空気を読んでしまう。台風が近づくと、スーパーが空っぽになるくらい買いだめをして、テレビは台風の情報ばかり流しはじめる。行列にきちんと並ぶ礼儀正しさの裏には、他の人の視線を意識するからだ。疲れるはずだ。
由紀恵が、珈琲を淹れてくれた。
「コンセプトはまとまった?」
「『頑張った自分へのご褒美』にしようと思う。自分へのご褒美消費する人は、ストレスを感じている人だと思うんだ。ストレスを感じているけど、明日も頑張ろうと思って、プチ贅沢をするんだと思う。スイーツを食べるより、アロマで癒される方がいいしね。」
「いいんじゃないかしら。義理チョコは300円くらいだけど、自分へのご褒美チョコは2000円以上よ。お財布の紐も緩みそう。頑張ってね。お先に失礼するわね。」
「お疲れさま。」
派遣の由紀恵は定時で帰った。太一は、夕飯をカップ焼きそばで済ませ、『頑張った自分へのご褒美』と『癒しの香』をキーコンセプトに、対象世代、ネット戦略、イメージ戦略をまとめていった。
資料が出来上がると、朝の6時を回っていた。煙草と汗の匂いで、フェロモンどころじゃないなと、一度、シャワーを浴びに帰ることにした。
いつもと同じ時間に、新高円寺から地下鉄に乗ると、チームリーダーの高橋がつり革につかまっていた。
「高橋さん、丸の内線でしたっけ。千代田線でなかったですか。」
「昨日、飲んでいたら、終電を逃して、そのまま友達の部屋に泊ったんだ。資料はできたのか。」
「なんとか間に合いました。今日は、早く、上がらせてくださいよ。貫徹です。」
「分かった。」
高橋から、微かに薔薇の匂いがしてきた。いつも嗅いでいるパンピューリのローズカシミアハンドクリームの香り。太一は、街角の金木犀の香りを思い出しながら、この会社も潮時だなと思った。
焼ねぎを首に巻いているところを見てみたいです。ヤフーの画像検索をすると、ネクタイみたいに巻いていました。会社に行くと、薬飲むか病院に行った方がいいよと、優しくされますね。
焼きネギ首に巻くと、体ぽかぽかあったまるんですよね。
ネギまいて出社?! それはちょっと勘弁です。
ネギ臭くて、帰れと言われそうです。それが狙い?
あずさも走るようになりましたね。週末の旅が楽しくなるように、風邪を治しましょう。我が家に伝わる風邪の治し方は、首に焼いたねぎを巻くことです。明日は、その姿で出勤してください。
ぜひとも明るい話をお願いします!
中央線の特急今日から復旧、
週末の行動範囲がまた広がりました。
紅葉そろそろはじまるかな、早く風邪治さなくちゃ。
アイスキュロス、ソポクレス、エウリピデスのような悲劇詩人を目指しているので、ハッピーエンドは難しいな。嘘です。災害も続いているし、明るくなる楽しい話の方がいいですね。Cherryさんを励ますためにも、面白い話を考えてみましょう。
そして最後は寂しい結末ですか。
ハッピーエンドを連発してください。
和食は、臭いを嫌いますね。味付けも香りも少なめで、素材の美味しさを楽しむことを目指しています。匂いだけでなく、肌の色も食べ物の影響を受けることがあるみたいです。これからは、炬燵にみかんですが、みかんを食べ過ぎると、肌が黄色くなる。黄色い成分が脂肪に吸着されやすいからだそうです。しかし、直ぐに元に戻るので、気にすることはないとのことです。
何かの本で読んだことがあります。
文化の違いもさることながら、食生活の違いが体臭を強さに
如実に現れるのだとか。
欧米化が進んだ日本人の大衆は昔日の人たちよりは
匂うようになったのでしょうね。
それでも海外製の香水が重宝されるのは、やはり「匂い」に関しては
日本人は割りと無頓着なのかも知れませんね。
昭和29年の牛乳石鹸の新聞広告は、「光源氏もお気に入りの牛乳石鹸」というキャッチコピーだったような記憶があります。おそるべき牛乳石鹸の歴史です。葵の君や夕顔からも石鹸の香りが漂っていたのでしょう。漫画の中で、リンス変えたのという台詞を見たような気がしますが、そんな微妙な香りに気づく男はいないような気がします。一度、シャンプーやコンディショナーを変えて、旦那さんで試していただけないでしょうか。
香水の匂い付くのは、満員電車のせいかなと誤魔化せるかもしれませんが、ハンドクリームの匂いが移り香になるには、然るべきことをしなければいけません。高橋君は寝坊をしたので、朝シャンをする時間がなかったか、アイドルと握手をした手を洗わないように、由紀恵さんの香りを留めたかったのでしょう。プチ贅沢は、賞味期限の切れた生うどんの6玉一気食いをしました。ご褒美が罰ゲームか分からなくなりました。
環謝さん
毎回読んでいただけると、商店街の福引の一等賞くらいの確率で、ハッピーエンドの話も読めるかもしれません。しかし、読者がハッピーエンドを望んでいるかどうかは疑問が残ります。寅さんは、いつも振られていても人気者です。
スズランさん
由紀恵さんの資料を読んでみると、日本人で体臭のある人は1割くらい。圧倒的に白人、黒人と比べると少ないです。中国の方は、2%とさらに少なかったです。草花も、日本の花は匂いが弱いです。湿度も高く、雨の日も多いので、虫を呼び寄せるために、香りを使うのが有効でないと書かれていました。体臭も好きな人の匂いは、いい匂いに感じると思います。旦那さんをくんくんと嗅いでみてください。
一斉に大勢の外国女性が走って集まるというのを思い出しました(笑)
外国人は香水はフェロモンの代わりなんだなあとしみじみ・・・
昔から風呂にあまり入らないので香水で胡麻化すとか(笑)
日本はファブリーズが売れるよね。
ストレス発散香水良いかも。
オチww
薔薇の香り、素敵ですね^^
でも、まさかそんなオチに使われてしまうなんて…
高橋さんと由紀恵さんは付き合ってるの??
もしかしたら、たまたま同じハンドクリームを使っているだけかも。
うちの職場も、共用でハンドクリームを購入していた事があるので、その時は皆同じ香りですよ~。
太一さんもまだまだチャンスはきっとあるはずv
哀愁漂うけど、小説の終わり方としては、とっても面白かったです♪
沖人さんも、頑張った自分への御褒美でプチ贅沢されましたか(*^-^)
柑橘系の香りは元気が出るのですね。男性も元気になるのかな。女性と男性で匂いの感じ方が違います。実験結果では、女性が嫌いな匂いを、男性は何とも思わなかったり、いい匂いだと感じます。ヨサコイダンスで汗の匂いが気になるなと思っても、放っておきましょう。イケメンかハエが寄ってきます。
香り・・・
私も柑橘系の香りが好きですが
疲れている時は
ダメですね・・・。
元気すぎちゃうの~。
部屋に漂っているのは、パッションフルーツじゃなくて、栗の香りのじゃないかな。毎日、買っているマロンのスイーツから、ほのかに香っているはずです。栗と言えば、栗きんとん。栗きんとんは岐阜県中津川が発祥の地です。重陽の節句(9月9日)には、神事が行われ、中津川駅前で栗きんとんの無料配布が行われます。横浜まで一人で行けるようになれば、岐阜もちょろいものです。来年は、栗きんとんを貰いにいきましょう。
Parcoが今年の4月に台湾で「におい展超」という変な企画をしました。展示しているのは、世界的に有名な悶絶する塩漬けニシンの缶詰「シュールストレミング」。いい香りでは、高級香水に欠かせないクジラの病巣「アンバーグリス」。「加齢臭」というのもあったみたいです。れんげさんが、ボディコン姿でディオールの「プアゾン」の香りを漂わせながら、お立ち台で扇子を振っていたとは、若干、イメージが変わりました。
ふふ、そういう関係だったのですね~♥
この前、香りに関してなるほど!と思ったんですが、
私は柑橘系の香りが好きなんですね。そして自覚症状は乏しいながらも胃腸がすごぶる弱いんです。
この何の関係もなさそうな2つの事実、実は関係ありました。
柑橘系の香りって、胃腸にいいんですって。
それで体が欲してるのかもしれませんね。
ちなみに今は、パッションフルーツの香りを部屋に漂わせてます(あれ?
日本造園学会での発表で、香りの強い木20選というのがありました。よく聞く名前では、金木犀、銀木犀、沈丁花、スイカズラなどがあります。この季節は、金木犀、銀木犀ですが、12月に香ってくれるのは、柊だけです。だけど、柊の香りを嗅いだことがない。クリスマスに欠かせないけど、どんな香りだったでしょうか。ちなみに、花言葉は「道標(みちしるべ)」です。迷子になりそうなときは、柊を頭に刺して歩いてください。
沖人さんの日記で流行りものを知るこの頃です。。
バブルの頃は、私も香水ざばざば使ってました^^;
でもある夜、飲み過ぎた先輩に抱きつかれ(女性)、、
『くちゃいよ~、あたしはれんげちゃんのそのままの匂いが好きなんだよ~』
と泣かれてから、止めました(~_~;)、、
香りって、色々な記憶に繋がってますね…♪
良い香りというか、好きな香りは気分アップしてくれます。
癒されますね~
仕方ないのです。フェロモンたっぷりのイケメンに吸い寄せられてしまうのです。ちなみに、人の異性を引き付けるフェロモンは、まだ、発見されていません。フェロモン入り香水とかは、バッタもんです。気を付けてください。どんな香りに包まれているのでしょうか。横浜と言えば、中華。八角、シナモン、陳皮、天草、火鍋のような香りかな。
太一くん 可哀そう・・・残業 お疲れ様でしたw
考えると・・・
私の生活の潤いは やっぱり『香り』です。
大好きな『香り』に包まれる自分の部屋は安心で落ち着けます。
心のオアシスかもなぁ~^^