Nicotto Town



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ママの柿山栗子を軽トラの助手席に乗せて、島の中央にある大山祗神社に向かった。境内に入ると凛とした空気を感じる。樹齢2600年の大楠がそびえ、室町時代に建てられた本殿の回廊には、伊藤博文や山本五十六が参拝したときの写真が飾られていた。

参拝した後、神社に併設された宝物館に入った。武の神を祀る大山祗神社は名だたる武将にあがめられ、国宝・重要文化財に指定された全国の刀剣や鎧の8割がこの神社の宝物館に収納されている。

弁慶の薙刀や義経の大鎧が展示されているが、ひと際目を引くのが、唯一現存する女性用甲冑と呼ばれる鶴姫の鎧。

「この鎧、ウエストがくびれているわね。」
「立挙部が108cm、胴尻部が75cmと書かれているから、鶴姫は、バスト98cm、ウエスト65cmくらいかな。」

「レモンちゃんにぴったりだわ。鶴姫ってどんな人?」
「戦国時代の人で、島が大内義隆や陶隆房の大軍に攻められて、追い詰められた時に、鶴姫が島の人達を率いて、大内軍を撃退した。だけど、恋人がその戦で討死して、後を追って入水自殺した。まだ、16歳だった。」

「若いのにもったいないわね。」
「辞世の句は、『わが恋は 三島の浦の うつせ貝 むなしくなりて 名をぞわづらう』」

「どんな意味?」
「空っぽの貝になったみたい。あなたの名を想い浮かべるだけで胸が苦しくなるる。」

「若いから、そんな純粋な恋ができるのね。」
「そんな風に言わなくていいんじゃないですか。栗子さんは綺麗ですよ。大楠のところに戻りますか。」

栗子と境内の大楠に戻り、息を止めて、幹の周りを三回、回った。

「どんな意味があったの?」
「息を止めて、三回、回ると恋が成就すると言われているんです。」

「先に言ってくれないとだめじゃん。」
「いいんですよ。僕の願いが叶えば。」

軽トラに乗り込み、大島石の丁場(石切り場)を案内した。大島石は御影石で、国会議事堂や赤坂御所、出雲大社の大鳥居に使われている。男子ならば、丁場は仮面ライダーや戦隊もので怪獣と戦う舞台のようで心躍るが、栗子はあまり関心が無かった。

丁場を見終えて、家に寄った。母が出てきて、栗子をリビングに案内した。栗子が島に遊びに来たいと言ってから、母が、一番、そわそわしていた。今まで、健一が女の子を家に連れてきたことはないと言って、年末の大掃除のような状態が毎日続いた。

「そろそろ、高速バスの時間だから、栗子さんをバス停まで送っていくわ。」
「えっ、栗子さん、今日は泊っていくんでしょ。夕飯の準備に、隣の村上さんが手伝いに来てくれることになっとるんよ。栗子さん、明日のバスでも大丈夫かな?」

「私は、大丈夫ですけど、お母さんに申し訳ないです。」
「なんも申し訳ないことない。私、栗子さんともっと話したいんで。泊ってってね。」

「あっ、はい。お言葉に甘えさせていただきます。」
「そろそろ、村上さんも来るやろ。夕飯の準備せなあかんね。」

「私も、手伝わさせていただきます。」

栗子は、僕にだけ聞こえるように、泊まる準備をしてきてないんだけどと言って、台所に向かった。父がみかん畑から帰ってきて、「風呂に入るわ」と言ったら、母が、「風呂が汚れるけん温泉に行ってきまい」と言って、父は日帰り温泉に追い出された。

テーブルには、鯛めし、法楽焼、お造り、石花汁、じゃこ天が並んだ。鯛めしは、炊き込みご飯を作る要領で、三枚におろした鯛と一緒に炊き込む。炊きあがると身をほぐして混ぜると出来上がる。

法楽焼は土鍋のような素焼きの焙烙の中に、小石と松の葉を敷き詰め、鯛を中心に海老、貝を入れて、塩だけで味付けし焼いた水軍料理。

石花汁は、大島石の石切り職人たちの昼食で、豚汁のような汁におからが入っている。おからを入れると花のように広がることから、石花汁と呼ばれている。

父も帰ってきて、夕飯が始まった。
「私、宇和島の生まれなんですけど、大三島とは鯛めしが違うんですね。」
「そうやね。宇和島は、ご飯の上に、鯛の刺身、醤油ダレと玉子の黄身をかけて、ネギ、胡麻、海苔を散らすんやね。最後は、お茶漬けにしてね。宇和島も美味しいけど、炊き込みも美味しいでしょ。」

「はい、宇和島は船の上で食べた海賊飯らしいですから、こちらの方が上品ですね。
「ご飯に、上品も何もないで。美味しかったら一緒。栗子さんは、お仕事辞めたんな。」

「はい、疲れてしまって。女一人で生きていこうと思って頑張ってたんですが、せっかく育てた子が、松山や広島の店に移っていったり、お客さんも、それを寂しがらずに、新しい若い子が入ったら喜んでしまって。砂で山を築いているみたいな感じなんです。商売だと割り切れればいいんですが、むなしくなって。違う生き方をしてみようと思ったんです。」
「そうやね。うちの旦那みたいに、おっぱいが大きかったらそれでいいという男ばっかりやし。」

「いえいえ、お父さんは、お友達とお酒を飲んでいただけですよ。」
「かばわなくてええんや。私には、農協の会合やいうて嘘ばっかりついてたんや。健一は、嘘の一つでもついて、遊びに行けばいいけど、毎日、パソコンの画面を見ながら、水やりやニコ店周りばっかりで、何をしよるか分からん。」

父と僕は、ご馳走さまと言って、リビングを後にして、縁側でビールを飲みながら煙草を吸った。しばらく、母と栗子さんの会話が続いていた。父と二人で、五右衛門風呂を沸かした。

母屋にガス窯の風呂があるが、父の道楽で、建て替える前に使っていた五右衛門風呂を庭に作り直していた。

母が栗子に、お風呂を勧めた。新しいパジャマや下着、歯ブラシは母が容易していた。栗子さんが、お風呂に行ってしばらく経つと、父が、「湯加減、聞きにいくわ。」と言ったら、母が、「あんたは、ここにおりまい。健一、聞いてきんまい。」と言った。

竈から、栗子に、湯加減を聞いた。
「ちょうどいいわよ。すごく月が綺麗ね。海の灯りは船ね。素敵な御風呂ね。」
風呂の周りの三面は板に囲われているが、海側は腰の高さ位しか壁がない。海側は斜面になっていて、気にする必要がなかった。僕は、冷えないように、少しだけ、薪を足しておくと言って、お風呂を後にした。

お風呂をあがった栗子が、「身体の芯から温まりました。」と言った。
父が自慢そうに、「そうやろ。五右衛門風呂は残り火で温められるから、湯が冷めんのや。湯船が大きかったり、かけ流しだったりする温泉と一緒で湯冷めせんから、身体の芯まで温まるんや。」と応えた。

母が、客間に栗子を連れて行った。すると父が耳元でつぶやいた。「健一、あれもっとんか。なかったら、父ちゃん、しまなみ海道の高速に乗って今治のコンビニまで買いに行ってくるぞ。」

僕は、父に「あほか」と言うと、風呂に向かった。

続く

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2019/11/15 02:09
Cherryさん
数回、今治に行ったことがありますが、今治城行ったことがないです。それどころか、松山城にも行ってません。はやーく、100名城と続100名城をコンプリートして村上水軍を制覇してください。連休は、大洲、宇和島あたりかな。
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2019/11/14 23:33
こんばんは。
今治城は行きましたよ。
村上水軍が作りまくったお城、あらまぁいっぱい。
知らないお城だらけです。
100名城と続100名城コンプしたら考えます。
5月連休、四国また行きます♪ 安い切符がまた出ること期待して。
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2019/11/14 20:12
りんごさん
お母さんは、女っ気のない健一に焦っているのでしょう。最近は、二次元にしか関心がないんじゃないかと、疑心暗鬼になっています。ステプのシャリーンという音を聞くたびに、お母さんは不安になり、にやにやしながら、伝言をかき込んでいる姿を見ると、誰かに相談した方がいいのかしらと思っているでしょう。

たまちゃん
香川も頑張ってますね。ぜひ、その熱意を感じて、四国に旅立ってください。ピンポーン。昔、日テレが年末に二夜連続時代劇を制作していましたが、1900年代の後半に、後藤久美子主演で「瀬戸のジャンヌダルク、鶴姫」が放送されました。JR東海のコマーシャルで後藤久美子を好きになったはずなのに、なぜか、そのドラマを覚えていません。

Cherryさん
Cherryさんのことがだから、松山城とともに、藤堂高虎の海城、今治城も訪れたのでしょう。広大な堀には、海の魚が泳いでいます。古代、中世からの城もありますが、村上水軍が城を造りまくってます。甘崎城跡、能島城跡、武志城跡、中渡城跡、来島城跡、国分山城跡、怪島城址、青木城跡、青影城跡、長崎城跡、美可城跡、岡島城跡、余崎城跡、俵崎城跡、鳴滝城跡、百島茶臼山城跡。是非、大三島で10泊くらいしてください。

ろくさん
最後のお父さんの二行に皆さんの反応がなかったら、表現が悪くて意味が通じなかったのか、品がないからスルーされたのかと、きっと、悩んでいたでしょう。さすがロクさん、阿吽の呼吸のボケとツッコミです。その調子で、ツッコミ役をお願いします。
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2019/11/14 19:12
れんげさん
創作小説の中で使いたくなるくらいの名言です。子守だと思ったら、旦那さんがいつまで経っても、可愛く思えるかもしれませんね。

スズランさん
温かいのは、今だけかもしれません。優しいズズランさんも、旦那さんがキャバクラで一万円を使ってきてきたら、ツノを出して怒るでしょう。

ゆりかちゃん
宇和島の鯛飯は伊予水軍の船上のご飯。法楽焼きは村上水軍の宴会料理です。ゆりかちゃんには、是非、大三島の隣にある能島を桜の季節に訪れてもらいたいです。水軍太鼓を聴きながら、焙烙火矢と鉄甲船の船戦に思いを馳せてのお花見は格別だと思います。

つん
なんともったいない。香川に行って、栗林公園を見ずに帰るようなものです。札幌に行って、スープカレーを食べずに帰るのと一緒です。再履修で、もう一度、今治から大三島経由で尾道行きを命じます。自転車で。

環謝さん
そう、感謝するのです。健一が栗子さんのことをどう思っているのかは謎ですが、ニコタオタが危険です。女性は、毎日、ドレスや着ぐるみで着飾っていると誤解しているかもしれません。
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2019/11/14 01:33
いいペースでいい感じにすすみそうな恋愛に微笑ましく読み進めてからのラストww
新聞紙で作ったハリセンでパーン!ですよ!お父さんw
続き楽しみにしてまーす
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2019/11/14 00:10
読者サービス待ってました♪
ママさん、お母さんがつかまえてくれそうですね。
お父さんの最後のセリフは不要です。まったく沖人さんたら・・・

続き楽しみです。
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2019/11/13 22:11
帰りの電車のつり革に、香川県の広告が巻き付けられてました。
鶴姫って、ジャンヌ・ダルクみたいですね。
そんなに若いのに、みんなを率いて先頭で戦うなんて。
昔の人は年齢の割に、みなさんしっかりしとる。
ニコ店周りをしている我々はなんと平和なことか!現代に生まれてよかったー!
と幸せをかみしめました(笑)
そうそう、神田達磨の新橋店も、角地の隅切りなんですよ。
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2019/11/13 22:05
健一がニコ店めぐりに笑いました(*≧∀≦*)
お母さんの強引さが吉とでるのかな、期待してしまいます
テーブルの上のご馳走は贅沢なおもてなし♪
父さん急ぎすぎ~笑
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2019/11/13 19:38
オオーw(*゜o゜*)w
続きがあるーーって思って読んでいたら
最後にまたもや続くがwwww
さすが沖人さん! サービス精神旺盛でステキ♡
でも、ハッピーエンドじゃなかったら書かなくていいですよ??(*´艸`)

なんかまわり(両親)がおぜん立てしているけれど、そも健一は栗子さんのことを
どう思っているのかは表現されていない気がするんだけど、私の読みが浅いのかな@@??
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2019/11/13 18:34
何のサービスか?と思いきや 続き発表していただけたのですね♪

前半の大三島のご案内はワクワクしてしまいましたw
興味津々なところばかりw 数年前にサラリと今治からしまなみ海道を
レンタカーで通り過ぎてしまったことを 後悔しっぱなしです><
郷土料理にも興味津々で ググりながら読んじゃいました(*´ސ`)。。

それにしても 健一さんがまさか 私たちニコタ住民だとはw ちょっと嬉しかったです♪
それと キャバクラのママが栗子さんとは・・・作者様のセンスなんですよねぇ~(;^ω^)
ママと栗子さんのイメージが合致しなくて「レモンちゃん」の名前が出るまで
気が付きませんでした(;´Д`) ごめんなさい

最後に「続く」とあったので また楽しみができましたw 感謝です^^
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2019/11/13 17:46
わぁ^^続編、本当に書いてくれたんですね。
お忙しいのに、夜更かしされて大変だったのでは?
読者サービス精神溢れた素晴らしい作者様ですね。ありがとうございます!

鶴姫といえば、上野高徳夫人のほうを思い浮かべてしまいました。
こちらも「もはやこれまで」と自害を決意した男達を前に、鶴姫が「仇を討たずして、自害などできようか!」と、薙刀を片手に敵中に飛び込み、ついに敵将に一騎打ちを挑むも「女を相手には出来ない」と、敵将までもが逃げだす始末。
そんな鶴姫を目にした男達は、自害するわけにもいかず獅子奮迅!

という、同じ鶴姫の名に恥じぬ勇ましい姫様なのですが…脱線してごめんなさい~^^;
そちらの鶴姫の話も悲しいですが、最後にそんな辞世の句が残せる恋が出来たのは素敵ですねv

水軍料理も五右衛門風呂も味わってみたい!
沖人さんは、文章表現がお上手なので、実際に体験しているように楽しんで読めます♪

健一さんと栗子さんが、うまくいきますように。
沖人さんのことだから、最後にどんでん返しが起こるのかな。
どんな結末でも、続きを楽しみにしてます(*^^*)
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2019/11/13 14:41
栗子・・・秋らしい名前だけど(笑)
女性の名前は果物が多いんですね。
地元のおもてなし料理が美味しそうでした(*´﹃`*) 
ニコ店周り(*≧▽)ノ彡バンバン
温かい家庭が想像できて素敵です。
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2019/11/13 13:24
読者サービス、堪能させていただきました^^
いつだったか読んだ小説…父親の再婚相手である元バーのママと、娘の会話を思い出しました。
『よく、あんな気難しい人と生活する気になりましたね、、^^;』
『お店で何十人もの男性のお愛想とること考えたら、楽勝よ^^
 たった一人の子守するだけで良いんだから…これ内緒ね♪』

純真な男心が報われますように・・・(~_~;)、、




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