Nicotto Town



サブレ

名前のつけかたがいけなかった。

サブレ。
食べ物からとってしまった。
響きが、かわいいと思ったからだ。

サブレ…。

鳩サブレから浮かんだ。

名前の主は野鳩だ。
本人にすれば、腹立たしいことだったろう。

かなり前の話だ。
9月に入った昼下がり
庭に鳩が急降下してきた。
バタバタとせわしなく羽を動かすが
空の高みに戻ることはできない。

バッサと庭の塀に激突して
地面に落ちた。
とっさに怪我をしていると思い駆け寄ると
逃げようと羽を引き摺り、苦しそうに動き回る。

簡単につかまった。
小さい鳩だ。
白く柔らかい胸毛のあたりがうっすら赤い。
どうも血のように見える。
両手でそっと鳩を掴んでいるが、
傷がどこにあるのか
羽毛に覆われた体なので、よくわからない。
たとえ、わかったとしても
手に負えない。

お定まりに保護して、
鳥を診れる獣医さんに持ち込んだ。

「ああ、胸かなり奥までやられてるね。たぶん猫だろう。
ちょっと難しいなぁ。(この頃は猫を飼っていませんでした^^;)
鳥でもね、人間に世話されて大丈夫なやつと
そうでないやつがいて、この野バトは特に、嫌うタイプなんだ。
巣立ち直後に狙われたんだろう」

だめもとでやってみましょうと、胸の縫合手術をしてくれ
薬とビタミン剤を処方してもらい、留意点を教えていただいた。

片手で掴みこみ、無理やり口の中にスポイトで薬を飲ませた。
抵抗するが、嘴の中にスポイトの先が入ると
あっさりと喉をごくりといわせる。
隙をみて、私の手を振り切り飛び立つ。
が、1メートルも飛べない。

案外元気だ。

野鳥や、野生の動物は本当に死ぬ間際にならなと
倒れないのだ。
知っているつもりでも
目の前の抵抗する気力に
大丈夫だと、素人判断をしてしまう。

3日目の夜、
サブレは止まり木から落ちていた。

目を固く閉じていた。
触れると体はまだ温かい。

号泣した。

ごめん。ごめん。
どんなに怖かったことだろう。
この三日間どんな想いでサブレは過ごしたのだろう。

わたしの中にあったのは
元気になったサブレを大空へ返す
その美しいイメージに酔っていただけではないか。
欺瞞だ。

どうすれば良かったのか。
自然のまま放置すればよかったのか。

ケースバイケースだろう。

こういう話も今では贅沢になった。

鳥インフルエンザ。

野生の鳥に触れることが危険になる昨今。
まして、死にかけているいたり
死んだ鳥は保険所に連絡しなくてはいけない。

寂しいことだ。

鳩サブレはおいしい。
頂くと嬉しいが、
食べるたびに、名前の主を思い出し
ほんのり苦い。







Copyright © 2024 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.