Nicotto Town



『線路は続くよ』

# 冬来たりなば


「どうしても?」

「うん。この街は寒すぎるよ。僕には、暮らせない」

「でも、もう少ししたら春になるわ」

「気付いたんだ。春が暖かいとは限らないよ」

「そう・・・なんだ・・・あっ」


汽車が駅に着き、ドアが開く

冷たい空気が、車内に流れ込む

雨のホームには、人影もまばら

せめて雪ならば、少しは景色もちがうのだろうか


「あの、すみません」

慌ただしい足音とともに、ひとりの少女が車内に駆け込んでくる」

「はい。この汽車にお乗りですか?」

車内販売員が応対する

「いえ、そうではなくて・・・。ほっかほかのあんまんと、ぽっかぽかになる甘酒は売ってないでしょうか」

「はい、ございますよ」

「良かった。それを二つずつ下さい」

嬉しそうに少女が言う


二つの袋を抱えて、少女は小走りで、ホームの隅のベンチへ向かう

ベンチには、旅支度の少年がひとり、座っている

少女は見送りだろうか

少女が袋の一つを手渡し、少年の横に寄りそう


「わたしもね、気付いたよ。冬だって、寒いばかりとは限らないって」


やがて発車のベルが鳴り、汽車は駅を出る

次はどんな季節が待っているのだろう


つづく





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