ミモレ丈(最終章)
- カテゴリ:自作小説
- 2020/04/18 16:30:50
幸太郎は、荻窪から二駅先の新高円寺で地下鉄を降り、家に向かって歩いていた。普段、駅のあたりは午前0時を過ぎても人通りが多いのに、人影はまばらだった。
寿司屋で、ミモレ丈の彼は、カンパチ、ヒラメと鯛を頼むと、後は、かっぱ巻きを食べて「御馳走さま」と言った。幸太郎は、がっつり食べるのだろうと思っていたので、拍子抜けした。
幸太郎は、かっぱ巻きしか食べなかったので、二人で3千円もしなかった。勘定を終え、別れようとすると、彼は、ご馳走になったお礼にと、また、マスクをくれた。彼は、いい奴なのかもしれない。名前くらい聞いた方が良かったと思い、みかけで判断した自分を、ちっぽけに感じた。
シュークリームを食べて、気分を取り直そうと、向かいのファミマに入った。ファミマでは、毎日、買い物をしていて、幸太郎は常連だった。
レジの前のスイーツコーナーを見ると、シュークリームが一個しか残ってなかった。ラッキーと思って手にとろうとすると、駆け寄ってきた上下スエット姿の若い女性に、「いやっ」と言われて、シュークリームをひったくられた。
幸太郎は、ドラッグストアのマスクの争奪戦かもこんな感じかと思ったが、沢尻エリカ似の整った顔立ちの彼女は、「人のものを横取りしないで」と言うと、幸太郎を睨みつけ、レジに向かった。
幸太郎は、呆然としながら、仕方なく、プチシューにするか焼チーズタルトにするか考えていたが、今夜は、かっぱ巻きしか食べていないのでミルクフランスを買うことにして、レジに向かった。
バイトのレジの高橋君は、火曜と金曜日のシフトに入っていて顔なじみだったが、これまで、機械的な言葉のやりとりしかしたことはなかった。その高橋君から、「お客さん、すいませんでした。」と言われた。
「何が?」
「さっきの、俺の姉なんですよ。彼氏を友達に盗られたみたいで、今、荒れているんですよ。」
「そうなんだ。いいよ、明日、シュークリームを買えばいいから。珈琲も一つ。」
「ありがとうございました。」
翌日、会社に行き、テレワークでできない仕事を片付け、丸の内線に乗った。土曜日の地下鉄は、ほとんど乗客がなくガラガラだった。地下鉄が四谷駅に着くと、ミニスカート姿の沢尻エリカが乗り込んできた。
彼女は、ツカツカと歩くと、座席はたくさん空いていたが、幸太郎の隣に座った。
「昨日は、みっともない真似をして、すいませんでした。」
そう言うと、席を立ち、離れた席に座り直した。
新高円寺の駅に着き、改札を出て、地上への階段を登っているとエリカ様が前を歩いていた。ミニスカートからスラリと伸びた足を見ていたら、彼女が急に振り返った。幸太郎は、まずいと思って、「よければ、お昼をご一緒にしませんか。」と声をかけてごまかした。
彼女は怪訝そうな顔をしたけど、時計を見て昼頃なのを確かめると、「いいですよ」と言った。
二人は、新高円寺駅からルック商店街に入り直ぐの所にある焼肉チェーン店の牛繁に入った。アルコール消毒をした手をおしぼりで拭きながら、幸太郎はエリカ様に話しかけた。
「お名前は、高橋さんですよね?僕は、鈴木と言います。何にしますか?」
「なんでもいいですよ。」
幸太郎は、店員に、生と2000円の牛繁コースを二人分頼んだ。幸太郎は、ハラミから焼き始めた。
「今日みたいに暖かいと、軽やかな恰好が似合いますね。」
「昨日は、すっぴん、スエット姿だったから。」
「部屋着でスエットは普通じゃないですか。」
実践女子大65人の室内着調査では、最も多いのがスエット(17人)、次はジャージ(15人)、パジャマ(10人)と室内では、ラフな格好で過ごす学生が多い。下着姿(5人)、ネグリジェ(3人)と、一度会ってみたい人達もいる。
ハラミもカルビも焼けたが、彼女は少しだけ食べると、ミニスカートの裾をいじって、手持無沙汰そうにしていた。
フランスではセクシーな服装が好まれ、胸元をアピールするが、足を出すのは、はしたないとされる。両方出すのが好きなアメリカ人と友達になりたいものだ。
焼肉店には、数組の客しかいなくて、寂しい感じが漂っていた。幸太郎は、食事は、賑やかな方が美味しく感じると思った。
「地下鉄も街も、人が少なくて、ガラガラですね。」
「人が多いのは、スーパーと公園くらいじゃない。」
日本の公園は、ちびっ子達で賑やかだが、中国の公園は、老人とダイエットのために体操をしている人しかいない。中国の子供は、幼い頃から勉強漬けで、いい大学を出て、いい会社に入ることが至上命題になっている。日本に生まれて良かった。
二人とも食事が進まず、網の上で、肉が焦げ始めている。
「引きこもりも、長くなると疲れてきますね。」
「私、けっこう、引きこもるの好き。人に合わせるの疲れちゃうし。」
晩年、引きこもるのが理想だと隠遁生活を送ったのが、フランス思想界の巨人、「社会契約論」や「エミール」を書いたジャン=ジャック・ルソーだ。誰でも歌える童謡「むーすんで、ひーらーいーて」の原曲を作曲したのもルソー。彼は、露出狂の性癖があり、開いていたのはコートであった。
「用事を思い出したから、先に、帰るね。ご馳走さまでした。」
彼女は、席を立つとトイレに向かった。
トイレの方から、彼女の電話の声がこぼれてきた。途切れ途切れながら、お昼ごはんを奢ってくれるからいいかと思ったけど、牛繁だってせこくない。社会人だったら叙々苑くらいにしてよって感じ。全然、美味しくないし、それに、チェック柄のシャツとヨレヨレのチノパンで両方ともオーバーサイズなの。おっさんファッションでダサすぎと話していた。
彼女が、お店から出ていくと、幸太郎のテーブルにデザートの杏仁豆腐が二つ運ばれてきた。肉の焦げる煙で、幸太郎の目に涙が浮かんだ。
すると向かいの席に、人が座った気配がした。幸太郎が眼鏡をはずして、おしぼりで目を拭くと、ミモレ丈の彼が座っていた。
「こんなにお肉を残しちゃって、もったいない。昨日もカッパ巻しか食べてなかったわね。デザート、余っているなら、いただいていいかしら。」
「どうぞ、二つとも食べていいです。」
「男は、中身よ。外見で判断するなんて、彼女は、まだまだ、甘ちゃんね。頑張ってね。ご馳走さま。もう、いらないかもしれないけど、マスクをあげるから、泣かないのよ。」
幸太郎は、ミモレ丈の彼の後ろ姿を見送りながら、禁断の世界に一歩足を踏み入れつつあるのを感じた。
それは、聞き間違いじゃないでしょうか。綺麗なお姉さんは、genzoさんに向かって呟いたんじゃないでしょうか。すかさず、「それほどでも、うふふ」と言わなきゃダメです。
エレベーターに乗り合わせた綺麗なお姉さんがイケメンのボーイさんが乗り合わせた時に
「可愛い♥好み♥」と低い声で喋った時、一瞬ビクッとした思い出が蘇りました( ̄▽ ̄;)!!!
そのとき、『とーきょーって恐ろしいトコロだなぁ~』って思ったのは間違いなかったです。
リサーチをしたら、エリカ様の好みは、六本木や西麻布のクラブです。綾瀬はるかの好みは、キノコ類と出汁醤油です。綾瀬はるかに鎌田の出汁醤油を勧めたいところです。
凛々さん
広島女子大学の調査でもネグリジェが1名いました。広島は、調査が2月だったせいか、半纏姿の人も多かったです。今どきの女子大生も半纏を使っているんだと思いました。
wineさん
令和の時代です。5Gが始まり、通信速度が飛躍的に向上し、スピード重視の時代です。恋文ではなく、LINEで即断即決。誘う、誘われるは、30文字以内で完結です。
つん
東京は、おはようの代わりに「お茶しない」、こんにちはの代わりに「ナタデココ食べにいかない」、さようならの代わりに「プレリュードで送って行こうか」というところだ。横浜のような田舎町とは違うのだ。
たまちゃん
ミモレ丈が、焼きに肉屋さんにいたのは、3000字の都合からだ。自然な状況設定にするだけで1000字は使ってしまう。字数が多くなると、読んでもらえないという制約に四苦八苦しているのだ。
りんごちゃん
昨日もファミマにシュークリームが1っ個しか残っていなかったのだ。シュークリーム人気が到来している。バイトの兄ちゃんと仲良くなって、一個とっといてとお願いしたいところだ。
Cherryさん
そう、見かけでないのです。食べて美味しければいいんです。しかし、ショートケーキだけは見栄えが大事になるので、ケーキカッターを買おうかなと思っています。
環謝さん
残念ながら、巨乳派なので禁断の世界には踏み込めそうもありません。厚い胸板には、空手チョップをしたくなります。
スズランさん
友人に彼氏を盗られたので、シュークリームが彼氏に見えて、だめーと思ってしまったんじゃないでしょうか。そんなに好きでなくても、盗られそうになると渡したくないものです。
ぽちゃこさん
人は見た目が8割と言われるほど外見重視です。全国平均の一世帯の化粧品購入高は3万4千円。東京は、全国平均より1万円多いです。お洒落さんが多いのですね。
さくらさん
さくらさんは、プロの文筆家さんなんですね。自分は、二コタで遊んでいるだけです。スカートは、諸学校の学芸会で一度はいたことがありますが、スースーしますね。
こっこれ、小説だったのですね…(*^^)v
途中から読んでいた私は、てっきり、幸太郎さんは、沖人さんだと思っていました♪
私は、公募ガイドの公募に、たまにエッセイや童話、作詞などに応募しています(*^-^*)
沖人さんも出されているのかな~♪
ミモレ丈っていうのが凄い…( ̄▽ ̄)
これって、体験上のメイキングだったりして…(*^^)v
とかく見た目から入るのが世の常ですけどね
男女を超えて人は中身が大事ですよね
楽しく読ませて頂きました(#^.^#)
と思って読み進んだら、
時折時事が挟んであって、東京の様子とか分かりやすかったです。
細字もマメ知識になりました笑d(^・^*)
エリカ似は、やはり男性にもてはやされるのが日常という感じでしたね~。
ミモレ丈の彼との今後が気になる最終章!?でした( *´艸`)
「男は、中身よ。」って
女はやっぱ外見なのか ちっ 結局 綾瀬はるかなんじゃん(ノД`)・゜・。
頑張れ、沖人s。。。ぃゃ幸太郎さんw
今日の小説は、小さい文字の解説に笑っちゃいました。
人は見かけじゃないですよね。
よいお友達ができてよかったですね♥
どうぞ、二つとも食べていいですっていう言葉から
幸太郎の弱った心と謙虚さが伝わってくるようでした。
ミモレ丈の彼との再会、どこに縁が転がっているか分からないね。
まさかの最終章!ありがとうございました。
ちょこちょこ入る豆知識に爆笑!
ミモレ丈の彼、魅力的ですね~ってか、なぜこの彼も同じ店にいたのか。
幸太郎を禁断の世界に導くためにストーカー行為をしているのかしら。
これはもう、新しい世界に飛び込まなくちゃ男がすたりますっ!がんばれ幸太郎!
本当に東京ってそんなところでしたっけか?
そてとも・・・都会の人は寂しがりやなのかな?
まぁ~それにしても「緊急事態宣言」のせいなのか?
テレワークのおかげで幸太郎さんみたいに
エネルギーが余ってムラムラ考えてる人が多くなってるのでしょうか?
と、いろんな疑問がわいてきました。
私が昔、入社式後に見た変質者は「ルソー」だったんですねw
なるほど~w(・_・D フムフム
幸太郎君が幸せを掴むことを祈ってます。
自分もあってみたいです。
ミモレ丈の彼も上手いですね。
傷ついたところにこれはやられちゃいます。
幸太郎さんこんな簡単に食事に誘っちゃうの?
もっとリサーチして連れてってほしいなぁ(*‘ω‘ *)
そうか、足を出すのははしたないのか。。。フランス関連の人に会うときは
気を付けよう ホント勉強になるー(*´▽`*)