テレワークが始まって、2週間以上が過ぎた。週に一度、出社をするが、月曜日になったり火曜日になったりする。土日も自粛ででかけることが出来ず、すっかり、曜日の感覚が無くなってきた。

自宅にいてくつろげると思っていたが、頻繁にメールチェックをしなければいけなかったり、電話が急にかかってきたりして、中途半端な気分だった。

昼休み時間、独身寮の向かいにあるコンビニに、お弁当を買いに行くのが息抜きだった。玄関から外にでるだけで、ちょっとした気分転換になった。

2週間前の水曜日のことだった。いつものように、コンビニに向かおうとすると、独身寮の周りに、ティッシュや野菜くずが散らかっていた。水曜日は、生ごみの回収の日なので、カラスが悪戯をしたのだろう。

普段は、ゴミを出すと、そのまま出社をしていたし、散らかっても管理人が片付けていたので、これまで気がつきかなかったのだろう。管理人も、自宅勤務になり、週に一度しか寮に来なくなっていた。

ゴミが気になったので、管理人室の横にある倉庫から、箒と塵取を出して、掃除をすることにした。散らかったゴミを集めていると、同じ寮に住んでいる経理課の千葉佐那さんも、箒とビニール袋を持ってきた。

「武市君も、掃除をしようと思ったの。この辺、カラスが多いね。」
「閉じこもっていても退屈だし、散らかったままだと気になるしね。」

千葉佐那さんは、3年前に一緒に入社した同期だ。容姿端麗だけど、仕事もテキパキしていて質実剛健。社会人として、ひよっこの同期の男子の間では、彼女は、手が届かない存在というのが共通認識になっている。

「武市君が掃除をしようとするなんて、ちょっと意外。クールというか、周りのことなんて関心がないって印象だったわ。」
「余裕がないだけよ。まだ、仕事をこなせていないし。もう、新人が下についた千葉さんと違うもん。」

「そんなことないわ。私も、アップアップよ。」
「そんな風に見えないけど。」

掃除は、直ぐに終わった。お疲れさまと言って、千葉さんと別れた。

手を洗って、お昼ごはんを食べた。昨日と同じ、コンビニの海苔弁当だけど、今日は、とても美味しく感じた。テレワークが始まってから、人と話すことがなくなっていて、彼女とのちょっとした会話が嬉しかった。

カラスは、いつもゴミを巻き散らかしていたはずだが、散らかっていないときもあった。きっと、千葉さんが掃除をしたのだろう。ゴミが残っているときは、掃除をしたが、彼女と会うことはなかった。

今朝、チャイムが鳴り出てみると、千葉さんが立っていた。

「おはよう、千葉さん、どうしたの。」
「ゴミの収集が終わったけど、ビニール袋が残っていたの。今日は、プラゴミの日だったけど、燃えるゴミだったから、収集しなかったんだと思うの。」

「ごめん、それ俺。今日は、金曜日だね。木曜日と間違った。でも、俺のだってよく分かったね。」
「うん、袋から透けて、ダイレクトメールの宛先が見えていたから。ちゃんと、シュレッダーにかけて捨てないと危ないわよ。」

彼女からビニール袋を受けとり、玄関の扉を閉じた。僕は、ドアに額をつけ、そして、動けなくなった。薄いビニール袋からは、セーラーマーキュリーやセーラージュピターのフィギュアが透けて見えていた。

ひょっとしたら、彼女が自分の部屋に遊びに来てくれる時があるかもしれない。その時に、戸棚に並べたフィギュアを見られたら不味いと思って、昨日、思い切って捨てた。

最初は、ゴミの日を間違ってしまった後悔が大きかったが、こんなことなら、フィギュアを棄てるんじゃなかったという後悔が大きくなってきた。そして、千葉さんより、マーキュリーの方が大事な存在だということに気が付いた。ごめん、マーキュリー、もう捨てないから。