小説『日の名残り』
- カテゴリ:小説/詩
- 2020/11/07 17:01:22
カズオ・イシグロ 著
『日の名残り』を読みました。
本書は興味を惹かれながらも
どうも内容が硬そうな気がして
ずっと未読だったのだけれど
ニコ仲間のとり合絵図さんが
日記で映画版を紹介されていたのを拝読し
読書欲を刺激され購入してみました。
イギリスの由緒ある屋敷の執事が
主人の厚意により
自動車で国内を旅行しつつ
これまでの仕事人生を振り返るという話で。
主人公の独白体による
丁寧かつ緻密な文章で
現在の旅行のエピソードと
過去の回想によるエピソードとが
交互に語られ
読み始めてしばらくは
講演会でおじさまの自慢話を
拝聴しているような気分になりながらも
ひょっとしてこのおじさまは
なにか底知れぬ孤独を
抱えているのではないかしらとも感じました。
やがて第二次大戦勃発前の
不安定な時代の屋敷を舞台に
主人公と
かつて仕えた主人と
同僚の女中頭の
3人の生きざまが
じわじわと浮かび上がってくるのでした。
もしもあのとき
プライドに縛られずに
素直になれていたら
もしもあのとき
現状の安定を失うことを恐れずに
勇気を出して挑戦していたら
今とは別の人生が
愛しい人と
愛しい家族と
悦びを分かち合える人生が
あったのかもしれないと。
けれどこれまで培ってきた経験をもとに
新たな生きがいを見出して
新たな悦びとすることに
年齢は関係ないのだと。
そのような主人公の心情で
胸がいっぱいになりつつ
最後の数ページを
繰り返し読んで思ったのでした。
日の名残り・・
なんて美しく
残酷で
優しい
タイトルなのかしらと。
ステキな邦題と思いました。
全くジャンルの異なる映画ですが『ザ・マジックアワー』を思い起こしました。
美化された物語が、時代やそこに生きた人々への皮肉だったりするところが
評価されているのだと思います。
小説も映画も随分前に鑑賞したので細部は忘れてしまいました。
が、映画だけ観たら、”表”のストーリーしかわからないかも……
時代背景をよくよく考えて読み込むことを求められますね。
『私を離さないで』なんかは特に、
原語でないと”裏”に隠されたメタファーがはっきりとわかりにくかったりもします。
人の想いは時を経ても変わらずそこにあり続けるものだけれど
その人を取り巻く世界は大きく様変わりし
一度失われたものを取り戻すのは難しい。
それはたぶん誰もが多かれ少なかれ経験していることなのでしょうね。
人生は一度きり、誰もが直面する日の名残りを
どう生きるべきか、考えさせられますね。
この『日の名残り』を買ってあります。あ、まだ読んでませんが^^;
何事にも、年齢は関係ないのですね。
思い立った時が始める時なのでしょうね。
年齢を言い訳にせずに、いろいろがんばらなくちゃ!
どうやら映画より本でこの物語に直接触れた方が大いに感動があることを伺い知り得ました。
(映画も短い時間の中で、原作のテイストを再現しようという演出だったですけれど)
やはり内的な情報量が全然違う様子で、読んでみたい気が高まります。
PS. 恐縮です。m(__)m