沖人さんの日記 | ニコッとタウン

沖人

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にゃんにゃんにゃん（前編）

カテゴリ：自作小説
2020/11/28 21:52:33

パトロールが終わり、交番で出前のラーメンを食べていると、柿崎のお婆ちゃんと商店街の会長がやってきた。

「大事件よ。お見合い相手の梅川さんちの幸子さんね、アニメオタクでも会ってみたいんだって。良かったわね。お見合い、いつにする？明日はどう？」

「柿崎さん、その話は後にしてくれませんか。商店街に現れたギャングの方が先です。ラーメンを食べながらでいいので、聞いてくれますか？」

会長さんの話では、コロナで飲食店の経営が厳しくなり、お客さんに来てもらおうと、中央線沿線の商店街が連携して、損得を度外視したメガ盛りのキャンペーンを始めた。

話題になり、客足も戻ってきたが、大盛メニューの制覇を目指す一団がやってくるようになった。他の客の迷惑を考えず、You-TubeにUpするためか、大声でしゃべりながら食べたり、録画したり、マナーが悪くて困っているとのことだった。

このままでは、小池知事に「東京都感染防止宣言登録店舗」の称号をはく奪されないか心配だという声があがり、店主の人達から警察に言ってくれないかと頼まれたとのことだった。

「それなら、メガ盛りを止めたら、いいんじゃないですか？」

「メガ盛りを楽しみにしているお客さんもいるんです。嫌がらせを受けてやめるなんて、暴力団に意地悪されて、みかじめ料を払うようなもんじゃないですか。警察がそんな弱気でいいんですか。署長に言いますよ。」

「分かりました。分かりましたから、注意するように言いますよ。」

「いえ、注意しなくてもいいです。大食い団の団長とは、話がついてます。大食いの対決をして、お巡りさんが勝てば、高円寺からは引き上げるそうです。」

「負けたら、どうなるんですか？」

「お巡りさんのマーキュリーのフィギアを差し出すことになります。」

「どうして、そんなことになっているんですか？」

「高円寺名物のアイシングクッキーにする予定だったのですが、柿崎さんに、お見合いの邪魔になるから、負けたらフィギアをあげちゃってと言われたのです。」

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「僕に、いいことは、何もないじゃないですか。」

「お巡りさんが勝負に勝ったら、貴子ちゃんのお父さんに頼んで、井の頭公園のスワンボートに一緒に乗ることができるようにお願いするつもりです。会長権限を発動します。」

「分かりました。街を守るのは警察官の務めです。」

対決の場所は、「高円寺さぬきや」。店内は、三密回避はどこにいったのか、体格のいい人達や商店街の人でごった返していた。隣のテーブルには、見るからにたくさん食べそうな若者が座っている。がたいが良くて、第１機動隊に入って欲しいくらいだ。

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会長から挨拶とルールの説明があった。香川の郷土料理を早く食べきった方が勝ちというシンプルなルールだ。大食いでなく、早食い対決。これなら、勝てる可能性がある。警察学校や新人の寮生活の頃は、警官に必要なスキルとして早食いを徹底されていた。

「応援の皆さん。コロナ対策で声を出した応援は禁止です。勝負を静かに見守ってください。それでは、最初のメニューは、『押し寿司』です。それでは、いよいよ対決の開始だ。進行は、高円寺純情商店街会長の根占が務めさせていただきます。早食い対決開始～」

ドンドンと太鼓が叩かれ、テーブルに押し寿司が３個出された。大きい。一個が手の平くらいの大きさだ。型で抜いたすし飯に、酢で〆た鰆をのせて、錦糸卵と木の芽を飾るのが定番。酢飯の中には、甘辛く煮た椎茸が入っていることが多い。

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「団長が３個目の押し寿司を食べ終わりそうだ。早い早い。お巡りさんは、ようやく２個目を食べ終わったところだ。団長のところに、次の料理『骨付き鶏』が運ばれてきました。こののまま、あっけなく勝負がついてしまうのか～」

骨付き鶏は、うどんだけでは、飽きられてしまうと危惧した県庁の後押しで、いつも間にか郷土料理になった、どこにでもあるチキンレッグだ。親鳥とひな鳥があり、親鳥はゴムのように固くて難儀する。その分、噛めば噛むほど美味しさが増してくる。ひな鳥は、柔らくて食べやすい。

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ちらりと見ると、団長は親鳥を食べているが、自分のところには、ひな鳥が運ばれてきた。ちらっと会長を見ると、ウィンクが返ってきた。しかし、団長は、親鳥のハンディキャップを物ともとせず、もう、骨しか残っていなかかった。

「団長、圧倒的な早さだ。お巡りさんが、骨付き鶏を食べはじめたばかりなのに、３品目のたらいうどんに入った。たらいには、釜揚げうどんが５玉入っています。薬味もたっぷり、味変しながら味わって～」

骨付き鶏を食べ終わり、団長をちらりと見ると、思ったより進んでいない。どうやら、猫舌のようだ。可愛らしい。団長の薬味はネギと七味。釜揚げうどんの薬味は、小葱、生姜、胡麻の三点セットが基本だ。小葱で臭覚、生姜で味覚、胡麻で歯ざわりの触覚、白く輝くうどんで視覚をすする音で聴覚を刺激し、五感でうどんを味あわなければいけない。

あちちち～。釜揚げは熱くて、すするのが大変だ。しかし、香川のサラリーマンは、１時間のお昼休みに、うどん屋に行き、食べて、会社に戻らないといけない。待っている他の客に迷惑をかけないように、ちゃっと食べてちゃっと出る訓練を受けている。猫舌なんて言っていられないのだ。

「お巡りさんが、追い上げていきます。ずずずずーと凄い勢いで、うどんをすすっています。おっと、飛沫が飛び散っています。観戦者のみなさん、ソーシャルディスタンスをとってください。」

それまで料理ばかり見ていたが、げっぷが出た時に顔が上がった。すると、貴子ちゃんがガッツポーズをして応援をしてくれているのが目に入った。スワンボートのために、頑張ると視線で返した。

「団長とお巡りさんが、同時にたらいうどんを食べ終わった～どっちが勝つのか分からなくなってきた～いよいよ後半戦に突入です。読者の人も、飽きずに続きを読んでください。」