地球の歌 (前編)
- カテゴリ:自作小説
- 2021/01/31 16:08:55
ソロキャンプ部の部長をしている。れっきとした大学公認の部活で、創部から50年以上の歴史をもつ。アニメゆるきゃんやヒロシで、雨後のタケノコように現れたその辺のサークルと一緒にしないでほしい。
スマホもSNSもない頃、男女の出会いは限られていた。昭和の時代は、盆踊りでナンパするか、恋文を送りつけるしか、恋のきっかけがなかった。運動音痴や楽器を弾けない、いけていない学生の間で、男女が出会える場所として、キャンプ部は隆盛を誇った。
しかし、キャンプよりナンパが主目的になってしまい、キャンプ場で大はしゃぎしたりや風紀が乱れたりして、大学に度々苦情が寄せられようになった。平成に変わった頃、公認取り消しの騒ぎが起こり、本来のキャンプの目的である自然に親しむ、事前の中で自分を見つめる本来の姿に戻ります。もう、ナンパみたいなことしませんと、キャンプ部からソロキャンプ部に名称を改め、大学側に平謝りし、存続を認めてもらった。
平成の間は、ソロキャンプ部にとって暗黒の時代であり、失われた30年だった。廃部寸前の部員数で、入部するのもボッチ思考の学生ばかりだ。ソロキャンプなのに、部活が必要なのかという自己矛盾を事態に陥った。
貧乏学生にとって、キャンプ道具を揃えるのは大変だ。部活なら、先輩から代々、引き継いだ道具を使えるし、狭いアパートだと、テントやターフの置き場所にも困る。部活だと、大学の倉庫を使えるし、いくばくかの支援金も貰うことができる。
令和に入ると、女子が入部するようになった。アニメの影響は絶大だ。それに、お洒落なアウトドアウエアも増えてきた。三密回避にももってこいだ。どうせ、ソロなら、家に引きこもるより、自然の中で引きこもる方がいい。
1年生部員の女子3人に、キャンプに連れて行ってほしいと頼まれた。よくあることだ。女子だけでキャンプ場で一夜を明かすのは不安だし、重いキャンプ道具を運ぶのは大変だ。ていのいい警備員兼アッシーだ。
冬季も営業している「ほったらかしキャンプ場」に行くことにした。キャンプサイトから富士山を眺めることができるし、夜明け前から入ることができる露天風呂もある。大学で集合して、オヤジに借りたレガシーで中央道を山梨に向かった。
笛吹川フルーツ公園から坂道をうねうね登っていくと、ほったらかし温泉に出る。そこから、さらに奥に進んでいくと、キャンプ場のセンターハウスがある。宿泊料金(一人1500円)とサイト利用料金(3500円)を払い、一番奥で見晴らしがよくて、テントをいくつか張ることのできるほったらかしサイトに向かう。
車から降りると寒い。午後2時だけど、標高が高くて2度しかない。まずは、テントの設営だ。女子たちから少し離れた場所にテントを張る。キャンパスローチェアとテーブルを出して設営完了。
ガスカートリッジにマイクロストーブを取り付けて、お湯を沸かす。その間に、豆を挽いておく。カップに直接ドリッパーをのせて、コポコポとゆっくりとお湯を注ぐ。珈琲の香りは珈琲の香りと表現するしかないが、この匂いを嗅ぐと、リラックスできる。
チェアに座って、煙草に火をつける。珈琲と煙草、そして、山々の稜線の向こうには、雪を被った富士山が見える。至福の時間だ。ちらりと女子達の方を見ると、こちらを睨んでいる。困っている一年生部員を手伝う気がないのかと、視線から批難を感じる。
お門違いも甚だしい。女子がちやほやされた昭和のキャンプ部とは違うのだ。キャンプの意義は、「何かを成し遂げ、解決する場面、苦しいことや大変なことに自らチャレンジして成功する場面の教育効果(日本キャンプ協会)」だ。
しかし、ヨレヨレのテントを放置しておくことはできない。なでし子と千明にポールを持っているように言って、ペグを打ち直しロープを張り直す。フライシートもピンとなった。葵にハンマーを渡して、自分のテントに戻った。
チェアに座って本を開いた。SFが好きだが、女子達がいるので、格好をつけてヤスパースを持ってきた。難しすぎて、頭に入らないので、散歩に行くことにした。まだ、日が傾くのが早く、日差しを浴びたススキの枯れ草が黄金色に輝いている。高台に立ち見下ろすと、甲府盆地を縫うように笛吹川が流れている。山々に囲まれた辺境から大大名になった信玄は偉大だと思いながら、キャンプサイトに戻ってきた。
女子達は、料理の準備をはじめていた。わいわい言いながら、楽しそうだ。こちらも負けては、いられない。チリコンカンを作ることにした。西部劇に出てきそうで、キャンプの雰囲気にぴったりだ。
チリコンカンは、豆、ひき肉、玉ねぎ、トマトとチリパウダーが必須。後は、お好みの具材やスパイスを入れて煮込むと出来上がる。簡単に出来るように、玉ねぎは、みじん切りにしたものを持ってきた。
まずは、オリーブオイルで、にんにくとベーコンを炒める。香りが出てきたら、ひき肉を加える。肉の色が変わったら、たまねぎのみじん切りを加えて、しんなりするまで炒める。
赤ワインとトマトの水煮缶、豆の缶詰(キドニービーンズや大豆)、ミックスベジタブルを入れて15分ほど煮る。トマトケチャップにチリパウダーを加えてひと煮たちすると出来上がり。
女子達は、ダッチオーブンでシチューを作っていた。煮込み料理は、ガスをたくさん使うのでお勧めしないが、この寒さだと、体が温まるシチューの方がずっといい。チリコンカンの完敗だ。
パンとチーズ、チリコンカンと残り物の赤ワインで夕飯にした。食べ終わり、食器を洗うと、女子のテントの近くに焚火台を置いて、薪に火をつけた。
「寝る前に、燃え残った薪を、ブリキ缶に入れておいて。明日は、お昼前に出発するから、それまでに、片付けを終わらしておくように。」
そう伝えて、チェアに戻ると、ぼっと星空を眺めていた。
冬の大三角形を一角をなすシリウス。ギリシア語で、焼きこがすものを意味し、星座を形作る星の中で、全天でもっとも明るい。おおいぬ座の鼻のあたりに位置する。
狙ったものを必ず仕留める犬。狩人は妻からその犬をもらった。狩人は、きつねをめがけて犬を放つ。しかし、そのきつねは、絶対に捕まらない運命を持つをきつね。その矛盾に気付いたゼウスは、犬ときつねを石に変えた。犬は天に昇り、おおいぬ座になった。
改善を図るたびに、動きが悪くなるニコ店。ソロキャンプに来たのに、焚火の周りで話し続ける女子達。とかく、この世は矛盾に満ちている。
寒くなってきた。ホットワインにして、身体を温める。腕時計で気温を見ると、-3度。しばれる。焚火を片付ける音がしてきた。女子達も、テントに入るようだ。もう少し、星空を見てから寝ることにしよう。
続く
ほんわかとした感じで、ゆるきゃんは面白いですね。You-Tubeも女性のソロキャンプの動画が沢山UPされています。キャンプ料理の紹介が多いです。子供が卒業したら、のんびり旦那さんとキャンプにでかければ、料理も作ってもらえるでしょう。
ニコ動のソロキャンを流行る前からたまに見ていましたが、
アニメになって、こんなに流行るとは思いませんでした笑。
我が家では、キャンプは子供が小さい頃まででした('◇')ゞ
ホームセンターも規制が入ってからの方が密なんですよね~┐(´д`)┌ヤレヤレ
遠くから見守ってあげるのが、母の慈しみだ。さもなくば、なでしこちゃんにナンパされるかもしれない。ちなみに、なでしこは、ゆるきゃんの主人公です。
次男の希望はソロキャンですwww
去年、バンパーを直さないと車検が通らなかったのだ。次男に、今、ゆるきゃん2が放送されているので、よく見て、ママにキャンプに連れて行ってもらうように伝えて下さい。
うちの子供たちも、ちょっと時期は違えど、ゆるキャンというキャンプのアニメを観ていたw
そのせいで、次男がこの寒いのにキャンプしたいと言い出した(*´艸`)
↓バンパーは新品??
やっと修理する気になったのかな(●´艸`)プププーッ
札幌で買った中古車です。ただし、バンパーは新品です。
たまちゃん
オリオン座は、北極星を中心にくるくる回っているから、たまちゃんの家もくるくる回っているのかも。きつねは、うどんになったのでしょう。
wineさん
しっかり自分でキャンプが出来るようになったら、もう誘われないでしょう。悲しき部長です。「北の国から’92巣立ち」と一緒で寂しいものです。
一年生女子部員は、自分たちでしっかりキャンプできるようになってから、キャンプへ行くよう躾けて下さいませね。あ、後編がありましたね。今から読みますね。
というか、我が家の位置関係とか周囲の建物の問題で、
オリオン座付近の星しか見えません。
会社付近だと明るさと高いビルの問題で星なんて全然見えないし。
犬は星座になったけど、きつねちゃんは~?