マカロン
- カテゴリ:自作小説
- 2021/02/15 00:46:04
今から10年前、32歳になっていた僕は、AKBと嵐が全盛期のヒットチャートに、すっかりついていけなくなっていた。唯一覚えているのは、福山雅治の「家族になろうよ」。若手の面倒を見ながら成果を出さないといけない立場になり、アパートと会社を往復するだけの生活を送っていた。
2011年のバレンタインデーは月曜日だった。出社すると、パートさんや若い女子社員がお金を出し合った義理チョコが回ってきた。メリーチョコの箱詰めの中から、ヘーゼルナッツ&アーモンドを一粒とって同僚に渡した。
それと、上司の充希から義理チョコを貰った。充希は、彼女の同期の中でも、出世頭で、会社始まって以来、初めての女性役員候補として期待されていた。バレンタインも抜かりなく、部下やラインの上司に、赤いバラのリボンがついたチョコを配っていた。
義理チョコしかもらえなかったが、気にならなかった。会社に入って10年目で、使える人間と使えない人間のふるいにかけれらる時期だった。充希のように上昇志向は強くなかったが、今は、仕事を頑張らないといけない時期だと思っていた。
それから、1か月が過ぎようとしていた時に、大震災が起こった。さっきまでそこにあった日常を、否応なしに押しつぶしていく巨大な力、家族を失った人達の悲しみ、懸命に捜索を続ける自衛隊や警察、食料品やトイレットペーパーがなくなったスーパー。
被災地に対する思いや、自分も何かをしないと思いながら、会社の震災への対応に追われて、時間が過ぎていった。ゴールデンウィークが過ぎ、仕事に一段落がついた時だった。
「係長、チョコのお返しをしてませんでした。食事でも行きませんか。神保町に美味しいうどん屋があるんですよ。」
「いいわね。」
年上の上司で恋愛対象でもないし、彼女から見てもそうだろう。それに、部下におごられるのも心苦しいだろうと思って、うどん屋にした。ごぼう天うどんが美味しいお店だったが、30分もしないで食べ終わった。うどんを食べている間は、会話もなく、少し物足りなかったので、うどん屋を出て、居酒屋に入った。
2か月振りのお酒がいけなかった。震災後直後は、お酒を飲む気持ちにもなれなかった。二人とも飲みすぎてしまい、タクシーで充希を送りに行ったはずが、そのまま彼女の部屋で一晩を過ごしてしまった。
震災前ならば、一夜限りのことと、二人とも割り切っただろう。しかし、これまでの会社が全てのような生き方に疑問を感じていて、ずるずると付き合うようになり、充希の転勤が決まったときに籍を入れた。そして、彼女は、九州に単身赴任に向かった。
お互いのことは、認め合っているけど、恋愛感情がなく結婚したので、夫婦というよりパートナーという感じだ。お互い仕事を続けていて、子供がいないからかもしれない。それに、お互いのペースも合わない。
毎朝、一緒に会社まで行くが、充希は家を出る時まで、化粧を整えたり髪をとかしていて、地下鉄の時間にギリギリになり、早歩きになる。「急いで、遅刻するわよ。」と急かされる。心の中で、『お前のせいだ』と思うが、口に出したら、喧嘩になるから言わない。
それなのに、旅行先や銀座を歩いているときは、「ちょっと、待ってよ。さきさき、歩かないで」と怒られる。こっちは、周りの人達と同じペースで歩いているのに、どうして、ゆっくり歩こうとするのか不思議でならない。
そんなちぐはぐな夫婦だったが、結婚して10年が過ぎた。お互いに課長になり、夜の付き合いが増えたり、時間が合わなかったりして、平日に夕飯を一緒に食べることは、ほとんどなかった。土日は、外に食べに行ったり、簡単に済ますことがことが多かった。
それが、新型コロナでテレワークの時間が多くなった。今まで、二人とも料理に時間をかけたことがなかった。手際が悪いので、二人で料理を作ることになった。彼女がじゃが芋を剥いて、僕が包丁で切る。洗い物は、じゃんけんで負けた方だ。
負けん気が強い彼女は、料理の本を買ったり、YouTubeを見たりして勉強をしている。彼女は、外で食べるときは、半分くらい残すことが多かったけど、自分で作ったものだと残さず食べている。そのせいか、少し太った。
二人で、近くの川沿いをウォーキングすることにした。周りの景色を見ながら歩いていたら歩調が合う。話しながら歩いているからだろう。「この花、なんて花かしら?」と彼女がつぶやいたら、近くを歩いていたお婆ちゃんが、「クロッカスよ。」と教えてくれた。
「恥ずかしいわ。小学生の頃に、クロッカスの球根で水耕栽培したのに、すっかり忘れていたわ。」
「知らないことがたくさんあるね。」
それから、花や鳥の写真をとって、家に帰ってからネットで調べて、「この青い花は、オオイヌノフグリよね。」とか、「青い鳥って珍しいわね、ルリビタキかしら。」と歩きながら、当てっこをするようになり、時々、マガモの雌だとか、いやカルガモ雌だとか、見解の不一致が生じる時がある。
彼女は、朝からメレンゲを作っていた。キッチンから甘い香りがしてきて、ピンクやグリーン、茶色の色とりどりのマカロンが焼きあがった。彼女から手作りのチョコ?を貰うのは初めてだった。
「マカロンって、ばらばらだと、ただの歯ごたえがないクッキーよね。ガナッシュで、ふたつをくっつけると、途端に可愛らしくなって、それに美味しくなるのよね。私たちも、そんな風になりたいわね。」
「そうだね。充希さんも、最近、マカロンのように丸くなってきたよ。」
「そういうデリカシーがないところが、だめなのよ。マカロンあげないわ。義理チョコに、会社に持っていくことにする。」
「バレンタイン終わるし、明日も、テレワークでしょ。」
これからも、自分達にはどうすることもできない大変なことが起こるかもしれない。彼女と一緒なら、乗り越えられるだろう。
納得しました。手作りチョコも手作りケーキも貰えなかったのは、コロナのせいだったのですね。はやく、ワクチンを普及させないといけません。国に寄って海外出張は、始まっていると思うけど、二週間の隔離が痛いですね。短期だと前後で一ヶ月ホテル暮らしです。ニコ店、毎日、300軒は回れます。
こないだ太巻き寿司配ったんですけど、手洗い・マスク・・・そりゃ気を使って作りました。
タバコ気づいてなかったけど高くなってるんですねぇ10箱4800円!
誰かに→もう海外旅行前に「非課税たばこ」買って~なんて頼めないしねぇ←いつ海外出張解禁かしら?
マカロンは、カラフルで見た目が可愛いですね。しかし、高過ぎます。一個250円とかけうどんと同じ値段です。ぺこぺこの男子高生、どっちがいいと聞くと、うどんと答えるでしょう。おばちゃんに聞くと、両方と答えるでしょう。
小説なのに、リアのような・・・
マカロン作ったことがないけど、美味しそう。
久しぶりに素敵な物語読ませて頂きました。
有り難うございます。
おやつは、デザート。まずは、主食をマスターしないといけない。基本があっての応用である。うどんのコシを出せるように身体を鍛えないといけない。土日は、ジョギング10kmである。
私は沖人さん家の成人した子供になりたいのです!
英才教育はすっ飛ばして 甘々に甘やかしてくれていいですから~+゜(*´∀`*)。+
手作りおやつで楽しい老後を過ごしたいのです~ ママ~
子供には、英才教育を施すでしょう。まずは、朝起きて、伊吹島で、カタクチイワシ漁に出動。獲りたてで、イリコづくり。そして、小豆島に向かわせ醤油を作らせ、畑で小麦讃岐の夢2000を栽培。伯方島で塩づくりです。出来上がったうどんを、美味しく、いただかせていただきます。
一人で何でもできちゃって(*´▽`*)
沖人さん家の子供になりた~い
そして一口サイズのマカロンタワーを作ってくださいw
お願いします♪ママ~^^
14日でなくても、金曜日で大丈夫です。土日のおやつになってぴったりです。せっかく、手づくりケーキでお返しをしようと思っていたのに、会社の女性陣はなってません。
ただ「バレンタインデーが平日(出勤日)」でないと会社での「義理チョコ」無理ですねぇ~~~
私には分からないところが多いですが、一に自重、二に我慢、三四がなくて、五に忍耐でしょうか。あっ、オレンジ先生は、ラブラブでした。
喧嘩になるから言わない。
この部分に吹きだしてしまいました^^
うどんを打つと、寝かせる時間が大事ですね。バラバラだった生地が、水分が行き渡り、落ち着いて滑らかになります。パンも一緒ですね。発酵させる時間が必要です。しかし、時間が経ちすぎると、過発酵してピザ生地にしかならなくなります。ピザも美味しいから、長年連れ添うのは、いいですね。
あずさちゃん
繰り上がりも繰り下がりもない計算です。今回の登場人物の年齢設定は、課長だと勤続20年くらいが標準。大卒だと42歳。また、10年前に充希さんが係長で、主人公ヒラだとすると、それくらいの年齢設定じゃないといけないと、適当に書いているように見えて、綿密な設定がなされているのです。
間違えようがないなー
震災が出会いのきっかけになってるので、
癒されました。
特に良かったのが、転勤が決まった時に籍を入れた。です(〃▽〃)
時間をかけて夫婦になっているのも素敵ですよね♪
自分ちょこや友チョコは、バレンタインの精神にそぐいません。バレンタインの由来は、聖バレンタインが、モテない男達を憐れんで、あんころ餅を配ったことに始まるのではないでしょうか。慈悲の心が必要です。
つん
テレワークで、体調が崩れる理由が分かりません。掃除も洗濯も捗るし、ビーフシチューも作れます。この前は、パンも焼いてしまいました。ニコタも時々、しています。テレワーク大好きです。
と、聞くようになって ちょっと世の中が心配になってましたが、
ちゃんと夫婦や家族の絆を深められてる時間にもなってるんだなぁ~って
安心できるお話で良かったです^^
結構リアリティーがありましたねwさては、沖人さんの実体験かな?
でも・・・
なぜ?42歳沖人さんは充希さんではなく 自分でマカロン作りに挑戦してるの?
早く春が来るといいですね~^^
なってきているようですね……かく言うわたくしも同じでございます^^;
海外では男性が女性に贈り物、みたいなのが主流?みたいですね。
因みに、随分昔にマカロンの研究(食べ歩きw)を少ししました。
私の好みはローカルなお店の板チョコを挟んだマカロンでした、今では幻の製品かもですが。
今買えるものでは、ピエールエルメが一番好きかもです♪
恵方巻のようにフードロスに取り組んでいるのでしょうか。会社での義理チョコの風習もなくなったし、今は、本命チョコだけの健全なものになったのでしょう。
夫婦は、スイーツに例えるのがあるべき姿ではないでしょうか。邦画の代表作は、夫婦善哉です。さすが、邦画は、和風甘味処です。
明日子さん
残念ながら、独り者なので、ペースを合わせる必要がありません。いつでも駆け出したり、座り込んだりすることができます。
るるもさん
相変わらず、厳しいでござるな。充希さんがマカロンできたよって言ったので、食べようとしたら、どら焼きだったというのはどうでしょうか。
リンゴさん
ホームドラマと言えば、渡る世間は鬼ばかり。耐え忍ぶばかりで、ストレスがたまりそうですね。北の国からが大好きなのですが、ラーメン屋のおばちゃんにムッとしてしまいます。
wineさん
うどん屋さんは、結構、人気なのです。先週、吉祥寺の讃岐うどん屋さんに行ってきましたが、行列ができていました。かけうどん340円とリーズナブルです。
寧々こさん
マカロンは、1個が250円くらいします。小さなのを4個食べただけで1000円です。スイーツ界の大トロと言っていいでしょう。
アリスさん
仕事一筋の出来る女なので、ビシバシ、キビキビなのでしょう。都会の人もいろいろだと思います。時々、変った人がいるのが面白いところです。
たまちゃん
バレンタインだからね。あまーい話にしないといけないのです。たまちゃん、チョコをくれるならNYのセレンディピティ3のFrrrozen Haute Chocolateをお願いします。
りんごちゃん
シャトレーゼのHPを見ようとしたら、メンテナンス中だった。シャトレーゼは郊外にしかないと思ったら、歩いて行ける距離にあった。
マカロン大好きです。
シャトレーゼにあるマカロンアイスをたまに食べます(*´艸`*)
マカロンって、お菓子の中では食べたい順位がそんなに高い方じゃないんですけど、
見た目がたまらなくかわいいですよね。
お店に並んでいるのを見ると、買いたくなってしまいます。
沖人さんの次のお菓子作りはマカロンでしょうか?♪♪♪
九州に赴任して、戻ってきたんだね。
都会の人は、パッパッとしているんだろうね。
かっこいいね。
お正月に妹がお土産にマカロンを持ってきてくれたので
お休み中食べまくった
マカロン、、食べたーーーい
こんな風にパートナーとの幸せな時間を供給する時間だったり
未来が明るく描かれているような、アットホームなドラマが見たいものです♪
夫婦って、色々な時期を乗り越えて、良かったり悪かったり、
それでも寄り添って行かれればいいですね。
何もオチがなかったけれど、良いお話(๑•᎑•๑)♬*゜
実生活では無いんですか?
とっても素敵な奥さんがいるんだな~と思ったんですが( ^ω^)・・・
大変な時代の今、沖人さんの幸せな家庭の一部を覗かせてもらった気分です
現実にしても小説にしても、とっても素敵でした
素敵な小説ですね。
夫婦生活をミルフィーユやバームクーヘンに例えたことはありましたが、
マカロンのようにお互い丸くなれるのは良い関係なのだと思います。