【第3話】天使坂のソロキャン
- カテゴリ:自作小説
- 2021/04/29 21:50:58
「で…少年、君はキャンプのどんなとこが好きなんだ?」
2品目を手際よく調理しながら、クマさんは俺に話しかけてきた。なんだかさっきまでの印象と違って、ちょっと優し気な雰囲気がしてきていて、やや不思議な感じがしたんだけど。
「あ、ボクはテレビでキャンプの特集やってるのを見て、それで『なんだか面白そうだな~』って思って…。大学進学も決まったんで思い切って始めようと…」
炭火の火力が弱くなってきたんで、クマさんは炭バサミで2~3本挟んでコンロの中に投入していく。
「へぇ でもテレビで見ただけで、ここまで本格的にやろうとしてるとこは立派だ。褒めてやるよ。あ、今炭を追加したから火花が飛ぶかもしんねーし、気をつけろよ」
「あ…はい」
こっちを見るクマさん。最初はでかい体格とそのもじゃもじゃ髭に圧倒されてたんだけど、実はよく見ると、目は小さくてちょっとたれ目気味なのが分かったよ。
なんか意外だな。初対面でずかずか来るとこもあれば、こまやかな心遣いもできるんだって。
「本格的でもないですよ。テントだってホムセンの特売品だし、コンロも焚き火台程度の小さいやつしかないし…」
「でも車があるじゃないか。かなり年季の入ったビンテージものだけど、アクティって軽ハコバンは実はキャンプにお勧めなんだ」
午後の陽射しはまだまだ弱い。
雨上がりで、しっとりと露を含んだ芝生は、クマさんが調味料やら食材を手に取るために足を動かすと、シャクシャクと澄んだ音を立てる。
初春の風が、キャンプ場の奥にある林を抜けてくるんで、ちょっと肌寒くなってきたかも。
その時だった。
「あのう…すみません…」
俺の背後から、誰かが声を掛けてきたんだ。
振り向くと、チェックのシャツにゆったり目のデニムを履き、黒縁のメガネをかけたポニーテールの小柄な女性が立っていて。年齢は20歳くらいだろうかって一瞬で観察&推察できたのは俺にしては上出来だったよ。
「はい?なんでしょう?」
彼女の目線はクマさんの方を向いていたんだけど、クマさんは無視するように返事をしない。仕方ないから俺が代わりに返事をした。
「えっと…すみません。向こうのサイトでキャンプしてるんですけど… 実はマッチを忘れてきちゃってて…火を貸していただけないかと…」
申し訳なさそうに小さな声だったな。
俺はクマさんの方を向き、
「火を貸してほしいそうですよ…?」
しかしクマさんは無言でスキレット覗き込みながらコテを掻き回しているだけなんだ。
何だか無言の時間が続くと、いたたまれないじゃない?
彼女もなんだか次の言葉を発するタイミングを完全に見失って立ち尽くしてるしさ。
「だから、火を貸してあげてくださいよ!」
俺は聞こえなかったのかもしれないと思いつつ、ちょっと大きめの声でクマさんに伝えてみた。
するとクマさんは、うつむいたままサイドテーブルの上に置いてあった火打石とスクレイバーを掴むと無言で俺に手渡してきた。(火吹き棒忘れてるぞ)
その時、クマさんの顔が俺にだけ一瞬見えたんだけど…
あれ?
クマさん…?
顔、真っ赤だよ??
おっさん、女性に話しかけられて、照れてるのかーーーーっ!
(続く
赤い顔になった初心な青年の実話だね^^
第4話を、楽しみにしています。(⋈◍>◡<◍)。✧♡
けーすけさんの体験も入ってるのかな・・?