Nicotto Town


人に優しく。


よかった


最後、ごめんなさいと言ったあと、少年は一段と激しく泣きじゃくり、涙と鼻水でマスターのシャツを濡らした。

背中を撫でながら何度もマスターは、「いいんだよ、謝らなくてもいいんだよ」と繰り返したが、その口調の優しさがいっそう少年を悲しくさせ、涙をあふれさせた。

「で、お金は何に使ったんだい?」

小さな子供に話し掛けるように、マスターは少年の耳元に顔を寄せた。

「お子様……ランチ……デパートの……弟と……一緒……」

「おお、そうか。それはよかった。弟も喜んだだろう? よかった、よかった」

胸もわき腹も下腹も太ももも、マスターの身体は全部が柔らかく温かかった。





ー 『猫を抱いて象と泳ぐ』 小川洋子 ー




 




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