【第12話】黄昏のソロキャン
- カテゴリ:自作小説
- 2021/07/08 21:51:51
「先輩… 傘、忘れてきちゃったね…」
「あ、うん…そうだな…」
「先輩、晩ご飯まだでしょ?どっかファミレスとか寄っていきます?」
「あ、うん…そうだな…」
「あ、そこの角に、吉野家ありますよ?」
「あ、うん…そうだな…」
壊れたCDのように、同じ言葉ばっかり繰り返してるって意識は本当になかったのさ。
俺はまだ暴風雨吹き荒れる、都心への国道をゆっくりアクティの箱バンを走らせていた。
雨は容赦なくフロントガラスを打ち付けていて、ワイパーが激しく左右に揺れて、一瞬確保する視界をぼんやり捉え(俺は本当にどうやってたのか覚えてないんだけど)それでも適格にハンドルを操作してた。
隣の席では、沙也加がなにやらいろいろ話しかけてくるんだけど、もう彼女の言葉が耳に入ってこなくてさ。
沙也加がなんとなく俺に気を使いながら、それでいてちょっとずつインサイドに入りこんでくる気配をも感じてはいたんだけどね。
雷光が奔る中、俺は神田さんの車の中がはっきり見えたんだよ。
車中には、目を閉じてぺたりと座った神田さん。そしてその、神田さんを抱き竦めている、俺が知らない男。
ぴかぴかと数回、雷が光ってさ。
固まるっての、俺、初めての経験だったよ。
大好きな神田さんが、俺が大好きな神田さんが…
そう、俺の大好きな神田さんは、ほかの誰かに抱かれて、目を閉じて、そこにいたんだよ。
誰なんだその男…?
何で神田さんはそんな男に抱かれてるんだ?
俺のメッセージに反応しないのは、そういうことだったの?
いろいろな思いが、頭の中をぐるぐると巡っていってたんだ。
そうかあ そうだったのかぁ?
前回のキャンプで、なんだか会話がぎこちなくって。途切れたり明後日の方向に進んだり、平常心じゃないって感じがしてたんだけども。
それが、いわゆるこれでしょうか。
なんだか、俺は夢を見ているような、でも心の中が一瞬で引き裂かれたような…どう表現していいのかわからないけども…。
踵を返し、自分の軽ハコバンに走って戻る俺。その時はマジ、意識が飛んでたかもしれない。
俺の後を駆けて付いてくる沙也加を、意識の外で認識しながら、俺はアクティの軽自動車に戻って、無言でエンジンを掛けたんだ。
沙也加は無言で隣に乗り込み、シートベルトを手早く締めて俺の左腕をばんばんって叩いて
「先輩っ!行きましょう! もうっ!何してるんですかっ! 早く!」
「あ…うん…」
「先輩っ ダッシュですよ!もうっ…傘なんてもうどうでもいいじゃないですかっ!」
沙也加の言葉に後押しされるように、俺は車を駐車場から発進させていってさ。
対向車のヘッドライトすら、雨が叩きつけるフロントガラスに滲んでは消えていく。
俺は涙すら出ないんだ…。
「メシ 食うか?…」
沙也加は、俺の言葉に一瞬戸惑った反応をしたみたい。
「はい…先輩、何食べたいですか?」
沙也加は前を向いたまま、そうぽつりと答えて。
「…あ、そうだっ 先輩の部屋の冷蔵庫の中に、冷凍した豚肉がありましたね…。玉ねぎもあったし、私が何か作りますからっ…」
「あ、いやそこのファミレスで…」
「いいえっ!!」
俺はちょっと驚いて沙也加の方を見たんだ。
すると沙也加はちょっとだけ笑って
「やっとこっちを見てくれましたね? あは… やっぱり私が何か作りますよ。大丈夫ですっ 高校の時は調理部だったし、こう見えて料理は得意なんですからっ!」
暴風雨の道を進む俺の軽自動車。
なんでなんだろうね。なんでこんなことになっちゃったんだろうな…
その後、俺たちはお互いに無言になっていったんだ。
車を走らせ、無言の空間が1時間ほど過ぎ去ったあと…
俺のアパートの駐車場に到着した時、サイドシートの沙也加がね、はっと思いついたような顔になってさ。ちょっと照れくさそうに微笑んで…
「と言っても、私…オムライスくらいしか作れませんけどねっ」
(続く
少しずつ明らかになるのかな?
とりあえず、天塚くんが忘れた傘を神田さんが発見して何を思うのか。
調理部って何してたんでしょ?
終わりは近い感じですね、ハッピーな未来がみえるように・・
世間はコロナで暗いからね、お願い