ネタばれ読書日記『火の鳥 大地編』
- カテゴリ:小説/詩
- 2021/07/23 21:44:04
原案;手塚治虫/作;桜庭一樹
★3
手塚治虫の草稿を元にしたのは火の鳥調査隊で、マリアと三田村要造の告白から桜庭一樹の本領発揮になります。昭和の冒険小説のような最初の展開になんだかな、と思っても、あらすじを読んで『こういう話なんだ』と告白から読んでみても面白いと思います。
*手塚漫画スターシステム
大の映画ファン手塚治虫は漫画を描く時、自分を映画監督、キャラクターを役者ととらえた。そのため複数の作品に同じキャラクターが様々な役を演じ活躍している。ただし、晩年にはシステムを使いづらくなったことを告白している。スターシステムを自由に使いこなしたのは昭和30年代くらいまでじゃないかと思う。
火の鳥において猿田博士が案内役(レギュラー)、大地編の手塚治虫配役が間久部緑郎(ロック)、正人でどちらも未来編に登場している。
で、『火の鳥 大地編』で一番余計なものが冒頭登場人物紹介である。
無理矢理オールスター企画にしなくてもいいのに、BJが工学博士でも違和感なのに牛鍋屋に転職とか、一言でいえばペテン師のハムエッグが好々爺にしか見えないマフィアボスとか違和感ありまくり。
桜庭一樹を久しぶりに読んでみて小説かとは概して嘘つきなのだが、桜庭一樹はダントツに嘘が上手いのではないかと思った。登場人物に硝子、夕顔、讃美歌とありえない名前を付け、タイムマシンは「エレキテル太郎」に「鋼鉄鳥人形」である。それでも語り口の見事さについ、読んでしまうのだ。
【あらすじ】
1938年(昭和13年)上海、野心家の陸軍少佐間久部緑郎に楼蘭への『火の鳥調査隊』の任務が下る。資金源は妻・麗奈の父で財閥総裁の三田村要造。出世のチャンスと結成した調査隊隊員は緑郎の弟:正人(共産党スパイ)、正人の友人のルイ(満州人で香港マフィアのスパイ)、清国王女の川島芳子、案内人に謎の美女マリアと波乱必須のメンバーだった。そこに猿田博士が加わり緑郎に火の鳥のエネルギーの兵器利用の可能性を警告する。
楼蘭の廃墟にたどり着き何もないことに一行は失望する。マリアは一行に毒を盛ろうとして拘束される。猿田博士が所持していた自白剤を投与されるとマリアは自分が400年以上前に生きた楼蘭の王女だと話し始める。
425年前中国の明軍によって滅ぼされた楼蘭でマリアは生き残り、『神の鳥』によりその首を与えられ、最後の一日をやり直す機会を与えられる。満足したら鳥の首を火にくべる約束だったが、マリアは首を戻さず、楼蘭は最後の一日を繰り返すようになった。ある時盗人が火の鳥の首を盗むと楼蘭は砂の中に消え、マリアは1904年(明治37年)の世界に放り出された。しかし数年後、時間は巻き戻され、マリアは楼蘭に戻っていた。そして再び盗人が楼蘭を訪れる。マリアは火の鳥の首を盗み、歴史を巻き戻し、改変している存在がいることに気付く。そして、6度目の世界でマリアは自ら楼蘭を砂に戻し、火の鳥の首を隠す。そして盗人の一人である間久部緑郎に接触したのだ。
尋問中の一行に三田村要造が追いつき、火の鳥の首の隠し場所を自白させるように迫る。彼こそは鳳凰機関を名乗り、歴史を改変させた真犯人だった。義父に不審を抱いた緑郎は要造に自白剤を打つ。その結果、恐るべき運命が告白される。
火の鳥のエネルギーにより時間を巻き戻す装置が発明され、16回も歴史は改変されていたのだ。最初盗人に殺害されていた分の記憶をマリアは持っていなかった。
ここで時間を超える2つの条件が明らかになる。
①時間を巻き戻す方法があると知っていること。(装置がどういうものか知る必要、装置を作動させる場にいなくてもよい。反対に装置を作動させてもその理由を知らなければ時間を越えることは出来ない)
②時間を巻き戻す瞬間に生存していること。
そして、歴史改変の最初の動機だった愛妻を失い。盟友の山本五十六、石原莞爾も暗殺によって失った要造は疲れはて鳳凰機関を緑郎に譲ろうとしていたのだ。
三田村要造は川島芳子によって殺害される。歴史の改変に反対するマリア、猿田博士、正人は逃亡した。マリアは緑郎の追っ手により南京で死亡。
猿田博士と歴史を改変しないことを誓った正人だったが日本の悲惨な敗戦を知り猿田博士が試しに作っていた装置を使い時間を巻き戻してしまう。
17回目の世界、敗戦までの経緯を知り陸軍で大きな力を手にいれる緑郎。猿田博士と正人は夫を恐れる麗奈に鳳凰機関の秘密を明かし、緑郎殺害を手伝わせる。正人もその場で自殺。川島芳子と組んでいたルイも流れ弾で死亡。
麗奈と猿田博士が18回目の巻き戻しを実行する。
そして18回目の世界で『未来を予知する鳳凰機関』の秘密を握る人物として麗奈はあらゆる組織から狙われ、逃げ回る。昭和20年8月5日、麗奈は火の鳥の首を持って大阪から列車に乗り、広島に向かった。
昭和23年、川島芳子はスパイとして中国国民軍によって処刑される。震えながら自分に銃を突きつけた青年がルイであることに気が付いた芳子はルイを励まし、銃身を握ると自ら引き金を引いた。
火の鳥の記憶を失った緑郎は戦場で自分をかばって死んだ正人のことを思い、大阪で行方不明の妻麗奈を探している。
1980年(昭和55年)ただ一人、火の鳥の記憶を持って生き残った猿田博士は発掘されたばかりのミイラ『楼蘭の美女』(マリア)と対面し、人生とは記憶だ。と涙を流すのだった。