Nicotto Town



うっふ~ん

四国の高松から、東に5000kmほど海沿いに進んだところに、香老(かろう)という名の小さな漁村がある。漁村の前に広がる湾は、岬と小島に囲まれているため、瀬戸内の中でも一年を通して穏やかで、玉藻浦と呼ばれている。


香老の集落は、商店や漁船を修理する鉄工所などを除くと、多くが養殖で生計をたてていた。ハマチ、牡蠣、海苔の養殖が盛んで、高校2年になる健二の父もハマチの養殖する漁師だった。

父は、夜明け前に船を出し、市場に出すハマチをとってくる。夕方に、ハマチに餌をやりにいくが、昼間は、家の中で、酒を飲みながらダラダラと過ごしている。その間、母は浜に出て、網の手入れや籠を洗ったり、せわしなく働いている。漁師達は、海に出るのが男の仕事で、それ以外は何もしなくていいと思っていた。

母は、健二に漁師を継いで欲しそうだったが、ハマチの世話があるので、家族で旅行をしたこともなかったし、どうしても夕飯は魚料理になることが多かった。健二は、漁師も父親のことも嫌いで、将来はサラリーマンになろうと思っていた。

夏休み入り、父と二人で家の中にいる時間が増えたが、オリンピックを見ながら酒を飲んでいる父を見るのが嫌だった。

「健二、どっか行くんか。父ちゃんが中学の頃には、みんなで、浜に捨てられとるエロ本を探しに行ったもんや。健二も探しに行くんだったら、漁協の裏あたりがええぞ。」
「誰が、そんなもん拾いに行くんや。今どき、捨てられてないわ。」

「本屋にエロ本を買いに行くんか。それやったら、小遣いやるけん、父ちゃんの分も買ってきてくれ。」
「海を見に行くだけじゃ。」

健二は、自転車に乗り海沿いを走った。小一時間ほど走り、岬の裏手にまわると、砂浜を守るために海に飛び出している突堤の先端まで行き、自転車を止めた。テトラポットや護岸で固められた海岸が多いなかで、ここは、砂浜が広がっている。

父から盗んだ煙草に火をつけて、海を見た。鏡のように穏やかな海面に、瀬戸の島々が浮かび、その間を船が行きかっていた。健二は、この風景が好きだった。おかの方をみると、斜面の中ほどに、バブルの頃に開発された別荘地がある。

中学生の頃、健二は星を見るために、この場所によく来ていた。岬で、街の明かりが遮られ、星がよく見えた。美香子と初めて会ったのも星を見ている時だった。

美香子は、健二より一つ年上だった。夏休みになると、東京から別荘に来ていた。健二がお金持ちなんだねと言ったら、そうじゃないと言った。社宅に住んでいるが美香子が喘息気味なので、両親が無理をして田舎に別荘を買ったと恐縮したように話していた。

美香子が中学3年になると、別荘に来ることはなく、それっきりなったが、色白で華奢な体つきの美香子に淡い恋心を抱いていた。健二は、煙草を吸い終わると、久しぶりに星を見ようと思った。

父が、ハマチの餌やりから帰り、夕飯になった。夕飯を食べ終わると、押し入れの中を探して天体望遠鏡を出した。スポーツバックに入れて、出かけようとすると父に呼びかけられた。

「健二、こんな暗くなってから、どこに行くんや。昌子ちゃんのとこに、夜這いに行くんか。手ぶらで行くなよ。女の子は甘いもんが好きやけん、コンビニによっていけ。それと、あそこの親父、真面目やけん見つからんように気をつけよ。」
「星を見に行くだけじゃ。」

自転車に乗り、突堤の先端に行った。しばらく星を見ていた。おとめ座のスピカが西の空で輝いていた。おとめ座は、豊穣の女神デメーテルの姿をかたどったもの。デメーテルの娘のペルセポネーがハーデスに連れ去れ、デメーテルが激怒し、地上に作物が実らなくなった。

困ったゼウスは、冥界からペルセポネーを連れ返したが、冥界の食べ物であるザクロを食べたペルセポネーは地上に戻ることができない。ゼウスとハーデスが話し合い、4個ザクロを食べたので、4か月だけペルセポネーは冥界で過ごすことにした。その間は、デメーテルが悲しみ、作物が実らない冬になった。

ペルセポネーが大食いでなくて良かったと思いながら、星を見ていると、道路の方から懐中電灯の灯りが近づいてきた。美香子と初めて会った時と同じだった。胸がどきどきしてきた。あの時、美香子はお母さんと一緒だったと。海に涼みにきたと言っていた。今日も、涼みたくなる暑い夏の日だった。

灯りがどんどん近づいてくる。光の輪の後ろから徐々に人影が見えはじめた。お巡りさんだった。
「なんしょんな。」
「星を見てました。」

「別荘地の人から、覗きをしょうる不審者がおるゆうて通報があったけん、ちょっと交番まできまい。」
「えっ、覗きやしとらんのに。」

健二の自転車の後ろに続いて、お巡りさんが自転車をこぎながら交番に向かった。交番で、健二は、名前や何をしていたか聞かれ、スマホの写真も確認させられ、保護者を呼ぶと、警官が家に電話をかけた。父がやってきた。

「うちの子が、なんしたゆうんな。覗きやするわけないやろ。わしとちごて、健二は、ようモテるんや。おっぱいの大きい昌子ちゃんゆう恋人もおるのに、覗きやするかいな。」
「お父さん、落ち着いてください。」

「落ち着けるか。何が、お父さんや。お前に、お父さんと言われる筋合いはないわ。それに、別荘や覗いてどうするんや。昔は若い人もおったかもしれんけど、今や、定年退職したジジイとババアしかおらんやろ。そこに、看護大の女子寮があるのに、覗くならそっちやろが。警官やのに、そんなのも分からんのか。」
「誰も、覗いたと言ってないでしょ。最初は、覗いたという通報があったけど、それは誤解やと分かったんです。でも、健二君が煙草を持ってたんです。それは、注意をせないかんけん、お父さんに来てもろたんです。」

「お父さんと言われる筋合いは、ない言うとるやろ。高校生になったら、煙草の一本くらい吸うのは当たり前や。お前やって、俺と一緒に、高校の時、煙草吸いよったやろ。警官なったからいうて、偉そうにするな。それをダブルスタンダード言うんや。県警本部に、小学校の時、洋子ちゃんのスカートめくりしたり、洋子ちゃんの縦笛をこっそり吹いてたのをばらすぞ。」
「大人気ないことやめてくださいよ。逮捕したわけではないし、調書も覗きは、天体観測の誤解だったとしか書きませんよ。だけど、煙草は、やめた方がいいですよ。」

「そうじゃ。その望遠鏡で、覗きやできるか。母ちゃんに、健二に望遠鏡買うてやるいうて、5万円もろて1万円もせんバッタもんを買うてきたやつじゃ。健二、もう帰るぞ。」

交番を出た。自転車を押しながら、父と一緒に歩いた。父は、漁師を継がんでもええんや。大学に行きたかったら行けばいいし、東京に出たかったら出てもええ。自分の好きなようにすればいいと言った。健二は、父にありがとうと言った。

父は、黒い紙袋を取り出して、健二渡した。
「今日のことは、母ちゃんんは黙っといてやる。それも、母ちゃんに見つからんようにせえよ。それ見て、もう、覗きやするなよ。」

袋の中を見ると『Gカップ女子大生!!真昼間から、うっふ~ん』というタイトルのDVDが入っていた。健二は、やっぱり、父のことは尊敬できないと思った。

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2022/09/18 10:06
ゆりさん
うっふーんです
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2021/08/08 14:33
涼華さん
たいていは、書き終わってから、タイトルをつけています。従って、タイトルを見ても何の話だか、全く分からないことが多いです。しかも、ワンパターンが多いので、書いた本人も、どんな話か忘れることも多いです。
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2021/08/08 13:59
途中から、笑いが止まらなくなりました

健二のお父さんは、友達のお父さんなら
面白くてOKだけど、自分の親だと思ったら
マジ勘弁!タイプですね~ (*≧m≦*)

ところで沖人さんは、タイトルを先に決めて
小説を作るほうですか? (;゚;ж;゚;)ブッ
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2021/08/07 19:09
るるもさん
どこにでもいるおっさんじゃないでしょうか。損得、理屈抜き。直感で正しいと思うことをやる。お金持ちにはなれませんが、幸せに生きていけると思います。
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2021/08/07 17:29
健二君のお父さんは理解があって、大きな器なのか
そうでないのか、謎のお父さんですね^^;
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2021/08/07 16:27
美奈子先輩
受取人は母ですので、母より、早く死なないといけません。当時の頭の良かった人達は、なぜ、共産主義にはまっていくのでしょうか。今もそうかもしれませんが、そんなものに傾倒するより、アニメにはまった方が楽しいと思います。
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2021/08/07 16:11
へぇ~~~で、沖人さんの死亡保険は今は「母上」が受け取る→ご両親亡き後は「甥、姪」かな?

なんですって!
「伊藤律の記事を見たって!」
フン!
私はさぁ「とっくに死んだと思われてた伊藤律を中国大陸で・・・出てきた」
フン!   ↑
    この記事、若いから知らないでしょう~~私覚えてるもん!その時初めて「伊藤律」知ったもん!


【文化大革命終了後の1979年、中国は喬石の決断で伊藤の釈放を決定し、12月に伊藤は病院に移された。翌1980年3月に退院後、6月には妻へ手紙を送った。7月31日に時事通信が伊藤の健在を伝え、・・・】
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2021/08/07 06:10
アリスさん
事件に気がついておりませんでした。不審者として、逮捕されないで、よかったです。
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2021/08/06 22:43
沖人さん、小田急線で、四人刺した人が、杉並区のファミマの前で逮捕されていたよ。大丈夫だった?電車で刃物を振り回したみたいよ。
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2021/08/06 21:57
美奈子先輩
私は、あほみたいに生命保険をかけています。早く、死なないといけません。
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2021/08/06 21:21
「名前変更ありがとうございます」探しやすい♪♪

生命保険ですか!?
500万円程、葬儀費用等に通帳に入れとけばいいんじゃないかな?
掛け捨て保険なら安いかな?

生命保険って何千万円も入ってる?掛け金お高そう(-.-)

専業主婦の長女、子供がいないので死後は甥や姪に遺産が渡る筈
「残したものが少ないと→フン!と←馬鹿にされそう」
・・・などと、心配しておりますが・・・死んだ後などどうでもよい(-.-)
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2021/08/06 20:45
沖人さんへ
すごいね。
病院に30年で一回とは。
会社の中に歯医者さんまであるんだね。
従業員が多いのだね。
体が丈夫だね。
クーラーなしで死なないでね。
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2021/08/05 22:19
美奈子先輩
会社の中に診療所があって、給料天引きなので、財布も持たずにいけるのですが、風邪は寝て汗を流せば治るので、お世話になることがないのです。会社の中の歯医者は、半年に一回、クリーニングでお世話になっているのです。生命保険も無駄にかかっています。
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2021/08/05 22:07
お互いが、だいぶ親しくなりましたね♪
「mさん」じゃ、私の名前を探しにくいので「美奈子先輩」にかえてくれると嬉しいです<(_ _)>

えっ!医者にはいかないタイプですか!給料から毎月2万円とか3万円・・・健康保険料金引かれてるんじゃ?
息子の会社は病院もあって、そこなら2割負担・・・ですが、情報筒抜けで「いや」だそうで利用せず(-.-)
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2021/08/04 23:32
mさん
10年は病院に行ってないというか、最近30年間で病院は1度しか行ったことがありません。根性で直すタイプです。コロナ後は、歯のクリーニングだけです。

つん
コロナの影響で、間接キスは映画のシーンに出てこなくなるでしょう。初恋のシーンからディープキスでは、情緒がありません。やはり、縦笛なめなめです。
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2021/08/04 21:57
なんだか 憎めないお父さんですね^^
瀬戸内少年団か白い手か? 昔、夏に観た映画を思い出しましたw
ステキな日曜日小説をありがとうございました^^

・・・追伸・・・
時々でてくる縦笛の件は 相変わらず「マジキモイ」と思うのは 
私だけでしょうか?
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2021/08/04 19:32
~はぁ~ん~~~そういう職域接種ですか!
リモートワークOKな御仁まではまわってこないか(*´Д`)

夏バテしてませんか?私のたった一人の1歳の孫は下痢でお尻かぶれ・・・明日まで治ってなかったら、明日は医者へ・・・と連絡貰いました。ママも初めてだから「かぶれ」が困るようで・・・

新型コロナウイルス感染が言われるようになってから【医者】に行きましたか?私は歯医者の定期健診だけはいったけど・・・あと、ワクチン接種だけかな?
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2021/08/04 02:29
スズランさん
自分が中学の頃は、海にこっそり拾いに行ったことがありますが、日光を浴びて、色が抜けてしまって残念な思いをしました。しかし、真剣になれる宝探しです。こんど、千葉当たりの海岸宝探しに行ってきます。
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2021/08/03 16:02
面白いお父さんですね!
年頃の息子をもつと、苦労しますよね。
主人公よりお父さんの方に感情移入しました笑。

今はネットで工夫すれば、買えるのかな?とか思うけど、
ある漫画では、今でも河川敷で頑張って採集してるのが描かれていたから、
どうなんでしょうね!?
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2021/08/03 00:17
たまちゃん
4万円分のdvdだと、20〜30枚くらいなってしまうと思います。お母さんに、見つかってしまいます。私は、エロ本が10冊ほど見つかり、こっぴどく叱られました。

アリスさん
3000字の制約があるので、あれこれ書けないので、読者の想像力に任せることにしています。

wineさん
まじっすか。スカートめくりは、パンツを見たいのではなく、気になる子にちょっかいを出しているだけです。

mさん
正確にいうと、職域接種をしているのですが、会社のためになる人だけなので、私は打ってくれないのです。

りんごさん
ゴキは、新聞紙を丸めて叩きつぶすです。

リンゴさん
男子たるもの表に出すかどうかで、みんな同じです。健二君が星を見ていたのか、覗いていたのかは謎のままです。
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2021/08/02 22:45
話のわかるお父さん、実はすけべーさんかしら笑
でも息子への愛情は伝わってきますね
父さん話に隠れちゃっているけど健二君は星が好きなんだね
空を見上げたくなるような満天の星空が見たいものです^^
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2021/08/02 22:14
ずっと起きていたらお腹は減るんだぉ~そうだね。ブドウ糖パワーでなんとかなれるかもしれないね。
100円自動販売機を探す時は、見つからなくって。まだ飲めてません。
G繋がりで、お風呂場にGが出てしまったよぉ๐·°(৹˃ᗝ˂৹)°·๐
ぎゃああああって叫んだら、Gも右左バタバタしてて、なんで一緒にバタバタしちゃうんだろうって怖いのに可笑しかったよぉw
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2021/08/02 21:39
職域接種無しですか・・・長女の夫もイ〇ングループだけど「東京」や人数が多いトコはやるでしょうけど、(今の所)やらないみたい。

そうそうちょっとしたスクープ写真、明日の日記にUPしますね←しょーもない事で期待外れかも?
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2021/08/02 21:12
今はスカートめくり、聞かないです。やっちまったら、かなり問題になるようです。
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2021/08/02 21:05
漁師らしいやりとりだね。
あったかいお父さんだね。
片思いの子がでてくるのかな?と期待したけれど、もう会えなさそうだね。
淡い恋心もいいね。
星を見て、過ごすなんて、ロマンチックな主人公だね。
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2021/08/02 15:55
いいお父さんですよ。こういうお父さんが日本を救う(はず)w
ぼったくった望遠鏡代の残りで、もっとすごい豪華DVDを買ってくれるかも。
ただ、高校生にはまだちょっと刺激が強すぎるので、
東京の大学に行くときにでも渡してくれることでしょう。
いいお父さんだな~♪
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2021/08/02 08:09
りんごさん
朝4時は、普通、お腹は減りません。眠気に負ける時間です。ジュースを飲めば大丈夫です。
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2021/08/02 04:30
読みながら状況が目に浮かびました♪
オチもあって面白かったです⤴️⤴️
星の話しも好きでした。
お腹が減ってるからペルセポネーがパスタの名前に見えてきましたw
ザクロも食べたくなりました( *´艸`)
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2021/08/01 23:15
mさん
杉並区の予約が始まっていますが、二コタばかりしていて、予約ページにアクセスしてません。日頃、雑菌との親密にしている自分は、コロナにかかる気がしないので、ゆっくり申し込もうと思っています。ブラック企業の我が社は、職域接種をしてくれません。
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2021/08/01 22:48
ん~ん綺麗にまとまるかと思ったらそうでも無かったゎ

5年後どこかで「ばったり出会う」期待したけどな(-.-)

暑いですよねぇたまりません!昨日ワクチン接種で(今日は測ってないけど)熱出たかも?沖人さんは職域接種かな?
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2021/08/01 22:27
ろくさん
ここで、自分の嗜好を発表するのは、とても恥ずかしいのですが、本当は、巨乳フェチではありません。きゅっとしまった足首に惹かれます。タイトル的には、『今夜もにゅるにゅる。うどんまみれ。』でしょうか。
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2021/08/01 22:18
とっても良いお父さんだと思います私は。母ちゃんに黙っておいてくれたお礼にさらなるエロの本をお父さんにお返しするのです!沖人さんならどんなタイトルのものを選ぶのでしょうか!




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