【第5話】青空の行方~ゆくえ~
- カテゴリ:小説/詩
- 2021/08/16 23:14:57
「あー…けっこう時間かかったなぁ…」
「そうだね。でも都心から離れてるからいい感じの景色じゃない?」
バスから降りた拓海と沙也加。2時間ばかりのバスの旅を終え、林間合宿の避暑地、麗ヶ原に辿り着いたのは午前10時半だった。
合宿なので学校指定のジャージ姿。天使坂高校のジャージは学年ごとに指定色があり、彼らの学年は濃紺に白地のストライプが2本、サイドに入っているものだ。
ぞろぞろとバスから降りてくる生徒たち、それぞれがこれからの2泊3日ある合宿に、大きな期待とほんのちょっぴりの不安を抱いているようだ。
「あの… 西藤クン?」
背後から声を掛けられ振り向いた拓海。あっという表情を浮かべた視線の先には、にっこりと笑う天塚楓がいた。
「天塚さん…ど、どうしたんですか?」
「ねぇねぇ 拓海なんでそんなに緊張してんのよ?」
意地悪そうに沙也加が口をはさむが、拓海はそんなイジリに反応する余裕もない様子だった。
「昨日はありがとうね。買い出しに行けなくてさ」
楓はぺこりと頭を下げる。
「いや…いいんですよっ ボクだけじゃなく、一平も結衣も一緒だったから全然平気ですっ!」
「富岳クンにも、宝生さんにもお礼はしたから大丈夫だよ。で…今夜のご飯は何でしょう?」
拓海は、あまりにもポピュラーすぎてひねりがないメニューなので…『カレーです』とは、さすがに言いにくそうだった。
「まぁいいじゃない!天塚さん、その時までのお楽しみってことで!」
助け舟を出したのは沙也加ではない。
楓の後ろにいた、結衣だった。
「ねぇ 拓海っ」
にっこり笑っては拓海に振り返り、若干意味深な目線を投げかける。
「ねぇねぇ いつの間に宝生さんに『拓海』って名前で呼ばれるようになったのよ?」
合宿場所なで行く途中、拓海たちの班はコンビニに寄って(本当はだめなんだけどね、はぐれるのは…)飲み物を選んでいた。
沙也加が拓海の傍に来て、ちょっと怒ったように訊ねてくる。
「ああ… 昨日買い出しに行ったときに、なんやかやあってな…」
でもそのなんやかやっていう部分は、何となく言い出しかねる様子を目ざとく悟った沙也加は、
「何なのよっ その、何やかやってっ!」
「そ…それは… まあいいじゃねーか」
「よ く な い っっっ!!」
ペットボトルのお茶を買った二人が、小声で言い争いながらコンビニの外に出ようとした時だった。
外で待っていた楓、少し離れた場所で、結衣と一平が何やら世間話をしている。
ん?
気付けば、道の向こう側からでっかい犬が疾風のように楓の方に走り寄ってきたのが見えた。
なんだあの犬…?
そう思う間もなく、楓が手にしていたスニッカーズに、犬が飛びついたんだ。
「きゃっ!」
拓海と沙也加は慌てて店の外に出た。
「…」
その犬は、拓海の乏しい知識でも、警察犬とかで使われているシェパードだと分かって。でかい図体に、荒い気性も察知できた。
「天塚さんっ!危ないよっ」
拓海は声を掛けるのが精いっぱい。
犬は、楓が手にしたスニッカーズを先端から1/3くらいだけちぎり取った。
そして着地した場所から身体を反転させて、舌を突き出して荒い呼吸をしながら、更に楓を狙う体勢を整えている。
沙也加はもちろん、拓海もなす術がない。
その瞬間、犬は楓に向かい、再度飛びかかってきた。
危ないっ
そう思った瞬間、
ビシッ!という激しい音がした。
同時に、その犬の情けないキャンキャンっていう鳴き声がして。そしてタタタタって走り去る足音が聞こえた。
「…え… どう どうなったの…?」
沙也加がおそるおそる、楓の立っていた辺りに顔を向けていくと、そこには…
近くに転がっていたであろう1メートルくらいの木の枝を手に、打ち据えた後の剣士の姿勢で呼吸整える由宮涼がいたんだ。
「大丈夫…?天塚さん…?」
駆け寄った一平は、彼女の周囲に散らばったスニッカーズの破片をちらっと見て、結衣に声を掛ける。
「危ないから逃げてっ!」
でもその時にはもう危機は去っていたようで。
拓海も沙也加も、そしてそれ以外の誰も知らなかったのは、あれだけ目立たなかった由宮が、実は剣道の達人だったってことかな。
「大丈夫だった? 天塚さん…」
由宮は普段の気配を消すような素振りを見せず、構えた姿勢のまま顔だけ彼女に向けてそう小さく叫んでいた。
「ん…でも怪我がなくてよかった…」
楓の周囲に集まってくる一平、結衣、そして拓海と沙也加。
「誰だよあんな獰猛な犬を…リードも着けずに…」
沙也加が、ショックでふらつく楓を抱きかかえる。
「ほんとだよね… 由宮がいなかったら大変なことになってたからな… ありがと、由宮…」
拓海と一平はほっとしたように、膝に手をつく。
危機一髪ってとこかな。
でもその次の瞬間だった。
思いもかけない展開が…待っていたんだ。
「私の犬に暴力奮って、怪我させたのはどなた?」
一同が振り返ると、そこには上品ないでたちの、避暑地マダムと思しき中年女性がいて。
頭から僅かに出血している、くだんのシェパードの傷口を指さしながら憤怒の表情で此方に駆け寄ってきた。
(続く
一難去ってまた一難、どうなるのか、気になりますね。
どうなるのかな?^^
続きも楽しみにしてます♪(๑ᴖ◡ᴖ๑)♪
今度は長編?楽しみ~♪
これから人物描写が入ってくるので、ちょっと長い物語になりそうです…w
負けるな!林間合宿の若人よ~~~~^^
コメントありがとう!
由村クンは密かなキャラで設定してます(笑)
いいねいいね^^
マダム~!リードつけてよね、、