Nicotto Town


おうむたんの毒舌日記とぼうぼうのぼやき


三姉妹―一子、二子、三子の物語 二話前編

シュークリームを巡る午後 前編

  二子《つぎこ》は、シュークリームが大好きだ。
 どれくらい好きかと問われたら、姉や妹の分をとっておけないほど、大好物なのだ。
 姉や妹を憎いわけではないし怒らせたくもない。しかし、「自分以外が食べるために、自分の目の前に置いてあっては我慢できない」ほど二子は、シュークリームが大好物なのだ。

 「二子の前にシュークリーム置いておくのが、そもそも間違っているんだ」
「食べてしまった物、返せないもの」
 シュークリームでケンカになる原因は二子だし、二子の言葉も決まりきったものだ。

 一子《いちこ》と三子《すえこ》は、果てしなく繰り返すケンカにげっそりしつつ話し合った。
「このケンカ、もう飽きた。なんとかしようよ」
 三子が一子に訴えた。
「なんとかって言っても……」
 一子だって飽きていた、毎度毎度、繰り返す同じケンカに辟易としているのは三子だけではない。
「策はある」
 三子が一子をぐいっと見据えた。
「お姉ちゃんが決意すれば、ね」
「えっ」
 一子はとてつもなく嫌な予感がして、一歩後ずさった。しかし、三子はすでに一子を逃す気はなかった。

 「満足感を一度、与えればいいと思うの」
 三子がその顔に浮かべたのは、一子と二子がこっそり名付けた『悪魔の真顔』であった。一子はヒェッと縮んだ心を落ち着かせようとするが、声が震えるのを抑えきれなかった。
「ま、満足感??」
 質問すれば、とんでもないことに巻き込まれる自覚はあった。だからと言って質問しないで逃れることなど既に出来ないのだ、一子は断崖絶壁に追い込まれた気持ちになりつつ尋ねた。

「二子ちゃんの気が済むまでシュークリーム食べさせる」
「なるほど……。で、そのシュークリームはどこから湧いてくるん?」
「お姉ちゃんが買って用意する」
「!? な、なんで私が買うことになるんだっ!?」
 三子は一子が渋るのは想定済みであった。ハァと大きくため息を吐くと、喋り始めた。

 生まれて来た順番で、月額のお小遣いもお年玉も全てお姉ちゃんが一番貰っている。お姉ちゃんも分かっているよね?
 姉だから多く貰っているというならば。その分を責任を持つことを意味するんじゃね?
 お姉ちゃんは二子ちゃんや私より多額のお小遣いを貰った時点で責任を負っているということになるんだよ。
 責任を負いたくないなら、お小遣いを返納するべきであるし、お姉ちゃんは返納していない。

 「つまり! その責任を果たすタイミングが今だと思うの」
 三子は、ドヤ顔で締めくくった。
 理にかなっているのかどうか、一子にはわからなかったが、三子の言葉を拒否るなど、とんでもないことだけは理解できた。受け入れるしかない、と一子は肩を落とした。
 嫌々ながら受け入れたその意思表示を少し示したくて、一子は三子から顔を逸らして頬を膨らませた。一子の態度を見て、三子は冷静に追加の言葉をかけた。
「お姉ちゃん、もらったお小遣いをため込んでいるだけだよね?」
 一子の肩がビクッと動いた。図星を突かれたからだ。
「使おうが、ため込もうが、私の勝手じゃん」
「有意義に使うことができるから、喜んで」
 三子がピシャリと言い放った。

 近所のケーキ屋さんは、シュークリームのセールが定期的にある。ケチを暴かれた一子は、決行日はセールの日だと、そこだけは死守した。

 シュークリームのセールの日、作戦決行の当日。
 一子は一つ百円ぴったりになったシュークリームを十個、購入した。千円札をケーキ屋さんに渡す時、泣きそうになったがなんとかこらえた。シュークリームが入ったボックスを持ち、帰宅した。

 三子にとっ捕まってテーブル席に着席させられた二子が不機嫌そうに、帰宅した一子を見て言った。
「遊びに行きたいんだけど?」
 三人全員がむすっとして、険悪な空気が部屋の中を覆いつくしていた。一子は二子に答えることなく、シュークリームのボックスをテーブルにポスンと置いた。

 途端に二子が相好を崩した。
「え、シュークリーム??」
 状況を呑み込みかねているが、シュークリームを目の前にした二子は、声が躍った。
「二子ちゃん、嫌になるまで食べてください」
 三子がじっとりと言うと、一子がムッとしながら付け加えた。
「『私』のおごりだからね」
 一子と三子の不機嫌さの真意に、二子が気が付くわけがなく。
「いただきますっ」
 二子はシュークリームを、それはそれは美味しそうに頬張り始めた。

 二子の手が止まらない。すでに七個のシュークリームが二子のお腹に収まった。その七百円分をケチるためにどれだけ、我慢したかを思い出し、一子は涙にくれる想いであった。
 その一子に三子が追い打ちをかけた。
「お姉ちゃん、五個追加しよう。ここで辞めても意味がない」
 三子の言葉に一子は気分的にはすでに崖から落ちていた。反論を口にすることなく、ケーキ屋さんに追いシューのためにトボトボ出かけた。

(後編に続く)

アバター
2021/09/24 10:25
>トシrotさん
前半は、一子が可哀そうに展開なのですが、後半になると…(^^;;;

三千字の制限に引っかかり、前後編に分けました。一ページに収まらないとわかった時
えっとなりました。
小説投稿サイトですと、1ページ三千字の制限はないので、やっぱりブログと投稿サイトは
違うんですね。
アバター
2021/09/23 22:23
ぼうぼうさんの、、、お姉ちゃん、上の子の悲哀を描くリアルなおかしさがたまらんwww



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