金木犀の香り
- カテゴリ:自作小説
- 2021/10/06 23:15:10
緊急事態宣言が明けても、テレワークが続いた。社員のワクチン接種が完了するまで、これまでと同じ対応を続けるのが会社の方針だった。飲み物をとりにキッチンに行くと、母が料理を作っていた。お昼の片付けが終わってから、母は、料理を作り続けている。冷蔵庫からリボンシトロンを取り出し、キッチンのテーブルにグラスを置くと、母が邪魔そうな顔をした。
「ちらし寿司に、から揚げに、ポテトサラダ。あんたの好きな料理ばかり作ったわよ。10月だっていうのに暑いわね。から揚げ揚げていたら、汗かいちゃったわ。あんたが、酢の物やなますが好きだったら良かったわ。」
「誰も頼んでないのに勝手に作って、そんなこと言われてもしらん。」
「母さんが作らないと、誰が、作ってくれるのよ。母さんだって、あんたが彼女と誕生日を過ごしてくれたら、料理を作らなくて済むのよ。30歳の息子の誕生日を二人で祝うのって、微妙な感じだわ。それに、緊急事態宣言が明けたのに、テレワークで、毎日、3食、あなたの料理を作らないといけないなんて、温泉にでも連れて行ってもらわないと割が合わないわね。母さん、一度、酸ヶ湯温泉に行ってみたいのよ。」
「車で、何時間かかると思ってんの。」
8年前に、父が交通事故で亡くなってから、母と二人暮らしだった。父が亡くなったのは、実家を出て、東京にある大学に通っていた時で、品川に本社のある会社に内定をもらっていた。母は、いい会社に勤められるのだから、そのまま東京で就職しろといったが、内定を断り地元の会社に就職した。
就職してからしばらくの間は、大学の同級生と会うと仕事でも遊びでも、取り残されたような感じがしていたが、卒業して数年経つと同級生と会う機会もなくなり、仕事も面白くなってきて、地元に戻って良かったと思うようになった。
「仕事、終わったんでしょ。ちらし寿司、作り過ぎたから、橘さんちに、お裾分けを届けてきて。ほら、この前、シャインマスカット貰ったじゃない。あんた、美味しいって、母さんの分も食べちゃったでしょ。知ってる?橘さんちの秋子ちゃん、嫁ぎ先から戻ってきたんだって。結婚して1年くらいかしら。秋子ちゃん、気立てが良かったから、旦那さんが悪かったのね。洋子さんも、秋子ちゃんが戻ってきてくれて良かったって言っているわ。あんた、秋子ちゃんと仲良かったでしょ。ずいぶん会って・・・」
「持っていけばいいんでしょ。」
タッパに入ったちらし寿司を風呂敷に包んで、300mほど離れた橘さんちに持っていった。橘さんの家の庭から、金木犀の香りが漂ってきた。金木犀の香りを嗅いだ瞬間に、昔、秋子ちゃんと金木犀の花を集めて瓶に入れて、二人で香りを嗅いだ時、瓶に入れるより、花が枝についたままの方がいいねと話していた場景が蘇った。
香りを嗅いだ瞬間に、それにまつわる記憶が呼び覚まされる『プルースト効果』。マルセル・プルーストが大著『失われた時を求めて』の中で、主人公がマドレーヌを紅茶に浸し、香りを嗅いだ瞬間に幼少期の記憶が蘇ったことを描写したことにちなんでいる。
母は、秋子ちゃんのお母さんの洋子さんと仲が良かった。それで、小学校の低学年までは、一緒に遊ぶことが多かった。高学年になると、二人で遊ぶことが照れくさくなって、通学の途中に会うくらいしかなくなってしまった。
インターホンを押すと、玄関の扉が開き、秋子ちゃんが出てきた。秋子ちゃんに会うのは、父のお通夜依頼だった。大人の女性になり、目を合わせることができない。
「久しぶり。母さんがちらし寿司を作ったので、お裾分けだって。シャインマスカット美味しかったって、叔母さんに伝えといて。」
「ありがとう。お母さんを呼んでこようか?」
「いいよ、じゃあね。」
「そうそう、春夫君、今日、誕生日じゃない。おめでとう。」
「えっ、ありがとう。じゃあね。」
びっくりして、急いで玄関から外に出た。外に出ると、また、金木犀の香りに包まれた。小学生の頃のお誕生会を思い出した。その時も、母はちらし寿司を作っていた。サンドイッチやピザの方がいいのにと思っていた。秋子ちゃんからのプレゼントは、ノートや鉛筆みたいに文房具のことが多かった。
夕飯を食べている間、母は、ずっとしゃべり続けていた。頭の中は、秋子ちゃんが、誕生日のことを覚えてくれていたことが気になり、適当に相槌を打っていた。
母が、酸ヶ湯温泉に行くときに、洋子さんと秋子さんも誘おうかしらと言った時に、口に含んでいた茶を噴き出した。汚いわねと言われて、布巾でテーブルを拭いた。夕飯の片付けが終わると、さっそく、母は洋子さんに電話をかけていた。
2週間後、母と駅に向かって歩いていた。すると、ふっと金木犀の香りが漂ってきた。臭覚と直結している大脳新皮質が反射的に秋子ちゃんの姿を呼び覚ます。酸ヶ湯は混浴大浴場が有名で、反射でなく妄想が秋子ちゃんのあられもない姿を描き出す。
すると、洋子さんが歩いてきた。隣にいるのは、秋子ちゃんじゃなくて、秋子ちゃんのお父さんの茂三さんだ。
「そうそう、あんたに言ってなかったわね。秋子ちゃん、よりが戻って、旦那さんのところに戻ったんだって。予約していたからキャンセル料かかるでしょ。それで、茂三さん、ゴルフを止めて来てくれたのよ。いい旦那さんね。」
踵を返したくなったが、駅はすぐそこだ。なんで商店街の中で金木犀の香りがするのかと思ったら、ドラッグストアの店頭に、トイレの芳香剤の試供品が置かれていた。母と混浴...これから、金木犀の香りを嗅ぐたびに、悪夢が蘇りそうだ。
母親と混浴するのは、幼稚園までだと思います。女子の方が、背中を流すというミッションがあるので、お父さんと一緒にお風呂に入るのが長いと思います。
落ちが良かったよ。
キンモクセイのかおりが、トイレの芳香剤なんてね。
お母さんとの混浴かぁ。良い息子だね。
秋子ちゃんはよりを戻したんだね。
仲の良い家族だね。
家賃も食費もかからないし、きっと、家事はお母さんがしてくれるし、車はお父さんのを使えばいいし、友達もいます。給料をアニメのヒロインのフィギュアに全投入できます。理想の生活ですね。
但し出会いはついつい遅れがちになる方多いですよね(;^ω^)
お母様の機転で上手く続くのかな?と思ったけど、
その辺はやはり沖人さんだから、トラウマレベルで落ち着きましたね笑。
私は金木犀の香りがしたらやっと秋が来たって気持ちになります。
塩ゆでしただけだと思います。いえ、我が家のドアや扉は、全て空きっぱなしの状態です。一人で暮らしているので、明けたり閉めたりするのが面倒なので、フルオープンです。古い建物なので、襖が多用されていて、全部の部屋がつながり、評定でも開きたくなります。
デフレの脱却は、日本だけが30年以上デフレに苦しんでいるので、この30年間、日本だけが取り続けたことだけを考えればことを考えれば原因が分かるような気がします。中央銀行はインフレの番人ですが、日銀が、それ以外のことに手をだしてしまったことが、ことを難しくしているような気がしますが、それが何かと聞かれても困ります。それと、あほみたいに規制緩和をしてしまったことでしょう。格差が広がり、地方では、車がないと生活できなくなってしまいました。新総理が所信表明でそれが悪いと言ったので、期待しましょう。
トイレは、四六時中ドアを開けっぱなしにしていて、芳香剤は使ってない
↑
もしかして、地震かなにか不測の事態でドアが開かなくなって閉じ込められたら・・・心配があってのことかな?
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こないだ「デフレ脱却」どうしたらよいか?
おばさん4人で討論~~ニッコリ~~100円ショップが悪い
まず100円ショップ利用をやめる→→でも4人ともまず100均のを使ってみて→→高くて良いものを買うか決める
↑
デフレ脱却は・・・4人では・・・結論に至らず
(良いものの価値に見合った金を払う~わかってるんですけど)
今回は、悲しい話ではありません。人生はいかにあるべきか、そして、138億年前のビッグバン以前は、どのような世界だったのかがテーマでした。金木犀は、ヨハネの黙示録におけるラッパを例えたものでしょう。最後の七つ目の封印が解かれたに違いありません。
悲しい話でなくて良かったです♬
小さいサイコロサイズです。柔らかくて食感も残らないし、彩りも白くて寿司飯に被るし、入ってなくてもいいように思いますが、入っています。畑で、余っていたのでしょう。トイレは、四六時中ドアを開けっぱなしにしていて、芳香剤は使ってないのです。
マッチ棒3本ぐらいの大きさですか?さいころ状かしら?
「便所」と金木犀~ナルホドそうかもしれません!
トイレに芳香剤おいてますか?私はスッとするのミント系を置いてます。
生協が一人用おでんのチルドを大々的にアピールする季節になりました。380円なのですが、買うべきかいなか迷いに迷っています。蒟蒻と竹輪、ハンペンはいらないから、ジャガイモと筋肉を追加したいので、自分で作った方がいいかなと思ってます。
ろくさん
我が社の内定式で、お偉いさんが若いうちは、分からないことはどんどん聞けと言ってました。裏を返せば、若くなくなったら、自分で答えを探さないといけないのでしょう。一度自分で何処にあるか探せば、何処に何があるか感覚が掴めると思いますが、最初に聞いちゃったり、答えをみちゃうと、いつまでも成長できない。お店で商品を探すのも、勉強も一緒だと思いました。
親孝行な青年ですので、ご近所さんがいい人を紹介してくれるでしょう。心配は、青年がお母さん思いなので、母と同居してくれる人を条件にするかもしれません。その時は、ハードルがあがる気がします。
リンゴさん
使わないと視覚や聴覚は衰えますが、臭覚は衰えない。大脳新皮質と直結していて、記憶と関係するらしいですが、感覚的には、音楽の方が昔を思い出しやすいですね。
mさん
昔は、便所の近くに金木犀を植えていたので、芳香剤も金木犀の香りになった説があります。実家のチラシ寿司は、穴子、人参、椎茸、里芋、絹さや、錦糸卵が必須の具材だったと思います。
コノハナ・サクヤさん
いえいえ、私は母と混浴をしたことは、ありません。隠していたエロ本が見つかったときに、すごい剣幕で怒られ、そんなに裸を見たかったら母さんのを見せてあげるわと言われたのが悪夢になっています。
最近は金木犀ブームなんですかね?ありとあらゆる商品で金木犀の香り出てます。私はまだ棚替えが終わらず、お願い私に話しかけないでオーラを出しながら頑張ってるんだけど、入店してすぐ「あの商品はどこだね?」訊かれまくる。いいけど!いいけどさ!買い物って自分であちこち見て色々買うもんじゃん!って愚痴。
大丈夫、上書きという技があります。
混浴なら、どこぞの美女とご一緒になり、それがご縁で親しい仲になり・・・
あ、でも沖人さんの主人公はだいたい切ないオチになるから、やっぱりダメか。
金木犀の時期を過ぎれば、おいしいおでんの季節ですから、おでんの香りに望みを託しましょう!
まだまだコロナがおさまらないお時世だけど、そんな中でも普通に生活出来てるんだな~と幸せを感じております
まあ、この先どうなるかは分からないですけどね
匂いで記憶が連動してふと昔を思い出すことはりますが、沖人さんは金木犀の香りでお母さんとの混浴がッ!オ~マイガッ!いや・・でもはたから見ると幸せだぁ~♪
しばらく作ってないけど「ちらし寿司」キュウリやナスの漬物やミョウガを梅干しの汁に漬けたの、赤いシソ→→酢飯に野菜しか入れてないので「お寺寿司」おてらずし~と、呼んでました。
これからはいい思い出が作れますように^^
秋子ちゃんは旦那様と仲良くね。