Nicotto Town



パッとしない日々 書籍編

いつもの本屋に立ち寄り、ずいぶんと久しぶりに小説を買ってみました。


貝に続く場所にて

芥川賞の受賞作品です。
装丁もまあまあ私の好みで、試しに買ってみるかと、いつもの店員に本を手渡しました。漫画か、鉄道やプラモデルやマイナーな音楽の雑誌しかその店では買わない私が、小説など買うとは思ってもいなかったのかもしれません。ですが、いつも通りの様子でレジを打っていますね。まあそれはそうか。

帰宅して、さっそくページを開き、1ページ目を半分ほど読んだところで、本を閉じました。思い直して、途中途中のページを拾い読みをしてみましたが、ここで私の通読意欲は完全に断たれてしまいました。

私の好きな作家に、片岡義男という人がいます。1980年代にずいぶんと流行り、映画になった作品もありますね。彼の小説は、なんというかトレンディでお洒落なアイテムとして扱われていた感もありますし、また好き嫌いもはっきり分かれそうなものでした。というよりも、彼の小説を、小説として純粋に好きだと思う人など、それほどいなかったのではないでしょうか。

片岡さんの小説には、登場人物の心理描写もなければ、風景の文学的な置き換えもなければ、物語を象徴的にする比喩表現もない。
端的に言って、彼の小説は小説ではありません。それは、なんの文学的装飾もない言葉で綴られる、まさに事物の輪郭を削りだすだけの情景の描写であり、時間経過の説明であり、会話の書き起こしでしかありません。言ってしまえば、言語によって撮影された映画です。

しかし、そのすがすがしいまでに何も語らない文章に、私はむしろ心地よさを感じていました。何を語るでもなく、ただ漠然とした、どこか居心地の悪い、自分のよくわからない焦りに触れられ、微妙な重さのある空気を四方から押し付けられたような、例えるならば夏の人であふれる海水浴場で感じる焦燥感のような、そういうアメリカンニューシネマを見終わった後の怠さを全く裏返しにしたかのような、冷たすぎない水にすっと手を差し込んだ時の、緩やかに広がる静寂感。それが、私にとっての片岡義男の小説です。

わたしは、片岡義男の小説が大好きでした。

だから、私は文学作品を目指した文学作品が嫌いなのです。満艦飾のフルーツパフェのような、舌に残る人工的な甘ったるさと、くどくどしい具材の積層。そういう文字面から文学であることを過剰に押し付けてくる、絡みつくような比喩、無意味な情景の抽象化、感情のねっとりとした垂れ流し。

内容以前に、そういう表現が本から匂ってくると、私は本を閉じてしまいます。本に罪はありません。それを書き起こした作者の人柄が、見えてしまう気がするのです。

ということで、試しにくどくどしい物の書き方をしてみましたが、いかがでしたでしょうかww
いや久しぶりに1ページ目で読めなくなる本に出会いました。

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2021/11/27 13:58
初めて読む作家さんの本は、かなり警戒して数ページ読んでから「体に合うか合わないか」を判断してから買うようにしています。
ありますよね、身体に合うか合わないかって。

あとね、自分の母親が夢中になっている本はだいたい身体に合わない。

今年、片岡さんの半生が新聞に連載されているのを読んでいました。
なるほどな~、だからあのような作品たちが生まれたんだなって納得させられる生い立ちですよね。
アバター
2021/11/27 13:31
ちょっとしたニュアンスの違いだけでも受け取られ方は変わるし、好き嫌いは良しあしではないので、そんなに警戒せずに読んでみたらよいかと思います。あくまでも私はダメ、っていうだけです。なんだかんだで芥川賞です。内容的には、きっと面白いのだと思います。
いや、わかりますよ、こっちもそれなりに本は読んできたし、元々は映像屋です。表現するということのふり幅を受け止めるくらいの脳みそは持っているつもりですが、ただただ表現の在り様が、私には合わないのです。それだけのこと。

片岡義男さん自身は東京生まれの東京育ちですが、おじいさんがハワイへの移民で、お父さんは日系二世。家庭では基本的に父親は英語、母親は日本語という環境だし、子どもの頃から父親の部屋にあった安いペーパーバックスを読んでいるような生活だったので、当人としてはある意味で複雑な日本語表現に苦手意識もあったのかもしれません。中途半端にバイリンガルになってしまった人にありがちなことかもしれません。その辺の生い立ちも含めて、いかにもな片岡節の文体が出来上がったのでしょうね。
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2021/11/27 10:15
「貝に続く場所にて」、そのうち読もうと思っている作品です。
本屋にいって数ページ読んでから買うかどうか見極めないとだめですね^^;

片岡義男さんのものはいいね。すっきりと洗練されているし、
空とか空気感とか外気の温度とかを感じさせてくれる。
好きな短編があって、今でもその作品の情景が浮かびます。
久しぶりに片岡義男さんの短編集かなにか読んでみたくなりました。



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