数日前の夜、次男が大きな荷物を持って帰ってきた。

普段は「よく言えばクール」な彼が珍しい。

ハアハア息を上げながら「これ、パン焼き器。抽選に当たった」と荷物を渡された。

どうやら大学のお楽しみ会みたいなのがあったらしい。

普段は飲食しながら親睦を深める会らしいが、今年は食べ物飲み物なしの小規模なものにして、その分の予算を抽選会の商品に回したそうで、彼は最新式のパン焼き器を持ち帰ったのだ。

「使うなら、上げるよ」と言われ、ありがたく箱を開ける。

うわ、本当に1斤用のパン焼き機だ。

色はブラック。

10年位前にはうちにもパン焼き機があったが、数年前に壊れた。

その機体より、一回り以上大きい。

パンを焼く釜は以前と同じだが、厚みが増している感じだ。

レシピ本が2冊ついていた。

1冊は以前のパン焼き機にもついていたような、パン釜の形になる自動で作れるレシピ。

もう1冊はこの頃レシピが増えた、最初のコネだけパン焼き機に任せて、成型からは手作りになる、各種パンが作れるレシピだ。

正直言って、以前のパン焼き機のパンは大不評だった。

底に穴のあいた食パンは、生地も荒かったし外側が硬くて、子供には食べにくかったのも原因だろう。

翌日になると余計食べ手が減るし、夜中にうるさいのも嫌がられた。

結局最後の数年は甘酒を作る時の保温とか、菓子パンを作るときの最初のコネに使うくらいで、うちの残念家電になってしまっていた。

だから「ありがとう」と喜んだふりをしながら、もしかしてメルカリに出す方がいいって言いださないかな？　なんて思っていた。

のだが。

レシピ本を出してみんなに見せると、思ったより食いついている。

「あの食パン、好きじゃないんだよなー」とか言っていた長男も旦那も「メロンパンあるじゃん。え、こんなのも作れんの？」と何やら盛り上がっている。

「うち、この材料ある？」と聞かれたレシピを見たら、普段絶対切らさないはずのバターだけなく、その日は何も作らなかったが、翌日は作る気満々だったらしく、買い物をせずに家に帰ったら「バター買ってないの？　俺買ってきていい？」と弟を誘って仲良くスーパーに買い出しに行っていた。

なんであいつら、いつも誰かと出かけたがるんだろうね？

そう、うちはバターがなくても冷凍庫にドライイーストはある家なのである。

栄えある最初のパンは、ちぎりパンだった。

こねられた生地を12等分して、中に好きな具を詰める。

あんこ、ソーセージ、チーズの中のキャラメルがびっくりするほどおいしかった。

次の日は、メロンパンだった。

ちょっと初心者が飛ばしすぎでは？　と思ったが、やりたいようなので材料だけ出して台所を空ける。

ちょっと覗くとクッキー生地をスプーンで混ぜていたので「泡立て器を使え」と言ったりはしたが(パン生地をちぎっていたので「せめて包丁で切れ」とも言ったが)、手は出さずに食べられる粘土遊びをしている男3人に任せておく。

夜作るなら、最後の発酵は涼しいところでゆっくりさせて、明日の朝焼けばいいよ、と言いおいて先に寝たが、朝見ると「初めてなんです」という感じのメロンパンの元がけなげに膨らんでいる。

1個分だけクッキングシートを切り抜いて、自分の分だけ焼かせてもらった。

おいしかった。

３日目の今日は、ツナマヨチーズパン。

パウンド型にツナマヨをくるんだ塊を3つ置き、焼く直前にスライスした玉ねぎとマヨとチーズをかけて焼く、パン屋で見るような本格的なパンだ。

これは正直言うと生焼けだった。

焼く時、天板を使わずオーブンに直置きしていたので、うまく火が回らなかったらしい。

途中から天板に置きなおしたので表面はいい感じに焼けて見えるし、とにかく具が多いのでみんなごまかされて「うまい！」と言っていたが、ひとり三男だけは「作りたてってパンがネットリしているんだな」という妙な賞賛をして、ダンナに「パンがねっとりって何だ！」と突っ込まれていたが、真実は口外しなかった。

せっかくのやる気を損ないたくないので。

多分、作っているうちに気が付く事だろう。

生の小麦粉で腹をこわすやわな奴がいないことを祈る。