【無題】 第4回
- カテゴリ:自作小説
- 2022/01/09 20:33:23
建物の先が無かった、入り口側からみて奥手側に向かう壁が途中から途切れていた。
建物の大きさからみたら全体の3分の1ぐらいがごっそり消えている。
常識で考えたら何かしらの原因で建物が崩れたら、そこに瓦礫があるはずだ。
だけどそこには瓦礫などなく、そればかりか地面すら無くなっている。
途切れた地面の淵に立った僕はその全貌を目の当たりにしてただ固まっていた。
球。
一言で表現するならそれは綺麗な球だった。
地面が綺麗に半球状に抉り取られている、ぱっと見でその直径は40mくらい。
その球形の上半分の空間に、切り取られた建物が含まれている。
つまりは建物と地面まるごと球状に消失していたのだ。
「ねえラス……、ラス……これ、何なの」
消え入りそうな震える声でシシルが問いかけながら僕の手を握ってきた。
そのシシルの手は声と同じく震えていて、いつもの力強さは微塵も感じられない、僕の手をやっと掴んだという感じだ。
安心させるためにその手を優しく、そして少し強く握り返す。
驚愕と不安が入り混じっているのだろう、混乱する頭は思考がついていかず、そしてたちの悪いことに本能だけが事態の結末を悟りガンガンと警鐘を鳴らしてる。
その本能が悟る事実は1秒ごとに明確な恐怖へと変わっていく。
「おじさんとおばさんは……」
「シシル、大丈夫だ、僕がついてるから」
「でも」
「大丈夫だ!」
大丈夫だなんてわけがあるか。
語気を強めてでもシシルの言葉を遮らないとダメな気がした。
だって、僕はその先の言葉を聞きたくなかったからだ。
「ラス……」
握られた手を通してシシルの不安がダイレクトに伝わってくる。
この訳のわからない状況を目の前にしてシシルが最悪の結末を想像している。
きっとそれは僕の考えている内容と同じものだろう。
立ち尽くしたままでも視線はしっかりと、穴の底や切り取られた建物の断面など、ありとあらゆる場所を映し出していく。
もうこれ以上情報は欲しくないと理性が働く反面、この事態に対する解を求める衝動もまた存在する。
球の中心位置は建物のあった空間の中だとわかる。
わかりたくないけどその中心部はやはり、父さんと母さんがいつも仕事をしていた研究室の場所そのものだ。
その座標を中心に半径20mの空間が消失している。
つまりはそう言うことなのだろう。
数秒なのか、数分なのかわからないけど、このグルグル回る思考をなんとか正常に戻したいと思いながら固まっていると、後ろから声をかけられた。
「二人とも、気は確かか?」
優しく響く大人の声に振り向くと、ここまで案内してくれたさっきの魔導技師だった。
「あ、えっと」
名前を呼ぼうとして言葉が止まってしまった。
そういえば僕はこの人の名前を知らなかった。
昔会った時にすら名前を聞いていない。
「あの、そういえば僕、あなたの名前聞いてませんでした」
「あー、教えてなかったっけ? ごめんごめん、ニールスだ」
「ニールスさん、ですか」
「君の両親のトレイズとミーネとは同期でね、ここで魔導技師やってる」
「それは知ってます」
「だよね。
それでだ、ライアス、君は魔導技師を目指しているんだったよね」
「はい」
「君の目にこの事象はどう映る」
「どうって……」
「客観的に見てもこの意味不明な現状が、ただの事故でないことぐらいはわかるだろう。
この消失した空間内に君の両親がいたのは事実だ。
さっき警官とこの施設全員の安否を確認したけど、トレイズとミーネだけがどこにも居ない」
「やっぱりそうですか」
「今まで魔導技師として何年も技術開発の実験を行ってきたけど、こんな現象は初めてだ。
もう一度聞くよ、君はどう考える」
「どうって、そんな残酷なこと聞かないで下さい、結果はもう」
「ライアス!
君は魔導技師を目指して両親の一体何を見てきたんだ?
よく見ろ、そして考えろ」
「ニールスさんは父さんの研究内容を」
「知らないよ。
研究内容ってのはね、成功して発表するまで周りの誰にも言わないのがルールなんだ。
完成前に他の職員に中身が盗まれる、なんてことが昔はよくあってね。
だから今は開発中の技術が盗用されないように個人個人で管理してる」
「そうですか……。
でもニールスさん、この状況を見ただけだとどう考えても」
状況証拠だけならイヤというほど揃っている。
僕の両親が無事だなんてとても思えない。
考えたくない最悪の結末しか思い浮かばない。
しかし僕の停止した思考に再度ニールスさんが問いかける。
「どう考えても絶望しかない、そう思っているのだろ?
それで魔導技師を目指しているというのなら君は二流にしかなれないよ」
「二流ですか」
「ああ、二流止まりだ。
一流の魔導技師ってのはね、無から有を創り出すんだ。
与えられた知識と積み重ねた技術、その限られた条件だけで誰も想像のしない技術を創り出す。
それが一流の魔導技師の仕事だ。
そこには決め付けも限界もない、全ての可能性が無限大なんだ。
今の君のように与えられた情報だけで決め付け、思考を放棄し、可能性の全てを否定しているようじゃ両親には追いつけないぞ」
よく見ろ、そして考えろ。
考えろ、考えろ、考えろ、考えろ……。
「あ」
「なにか思い付いたか?」
「いえ、何もわかりません」
「そうか、わからないか、それも一つの答えだ」
「はい、でもわからないからといって、絶望するにはまだ早いということはわかりました」
「それは良かった、俺が言いたかったのは全ての可能性を考えろってことだ。
その結果によってはこれは事故にもなるし、何かの実験の結果の一側面でしかないことも有り得る。
こんなことを言うのも酷だけど、希望も絶望もまだ判断するには早いけどどちらに転んでもしっかりと受け止める心の準備だけはしておけよ」
「はい」
「ねえ、さっきから何二人して難しいこと言ってるの。
私全然わかんないんだけど、おじさんとおばさんはどうなったの?」
「シシル、安心してとはまだいえないけど、これから色々と確かめる事ができた。
今から僕の家に行くよ」
「確かめるって……」
「色々だよ色々。
ニールスさん、何かわかったらまたここに来ます」
「ああ、魔導技師としての力を借りたい時はいつでも来るといい。
俺にできることなら何でも協力させてもらうよ」
「はい、その時はお願いします」
踵を返し僕は家へと向かった。
もしくは、時を駆け過去や未来に飛んだのかな?
あ、それか見えないだけで、実はそこに存在してるとか。。
どう展開していくのかなぁ。。。楽しみです('◇')ゞ~♬