あれか、これか (後編)
- カテゴリ:自作小説
- 2022/02/24 00:36:56
机の上に置かれた参考書は、1時間前と同じページが開かれたままだった。翔太は、コーラを飲みながら、スマホの画面を見た。そして、何度目かのため息をついた。
試験の結果を知るために、昔は大学の掲示板に貼り出された受験番号を見たり、郵便が届くのを待ったりしていたが、今は、スマホで特設サイトにアクセスするだけで確認できる。
スマホの画面には、二コタ大学の合格通知が映っていた。東京にある二コタ大学は、箱根駅伝と並ぶWebMoney Awardに出場し、何度も優勝したことがある有名私立大だ。大学の敷地内に教会もあれば神社もある、ミッション系とも神道系ともつかない多様性を教育理念とする大学だった。
合格しても東京の私立大学に通うことは、経済的に難しい。親には、試験に慣れるために受けるだけだと伝えていた。しかし、合格通知を見ていると、渋谷、原宿、高円寺の華やかな都会の風景が頭にうかんだ。
週末には、地元の国立大学の試験があるのに、もやもやして、受験勉強が全く手につかず、翔太は、ベットに寝転がり、枕もとに備え付けられている小物入れの引き出しを開けた。チョコレートには、メッセージカードが添えられていて『受験勉強頑張って!里奈』と書かれていた。
メッセージカードを見ている翔太の目元は緩み口が開き、受験生の緊張感を全く感じることはできず、頭の中は、チョコレートを一粒食べるか、大事にとっておこうか、二項択一の思考を繰り返し、正規分布の間を行ったり来たりしていた。
里奈からバレンタインにチョコレートは、小学2年の時以来だから、10年ぶりだった。同じ商店街の幼馴染で、小さい頃は一緒に遊ぶことが多かったが、漫画やドラマと違って、今では、家が近いだけのただの同級生になっていた。
中学に入り、あだ名がうどん屋になった時があった。
今は、うどん屋にプライドを持っている。香川にうどんがなかったら、「かがわけん」と聞いた人の99%が「かながわけん?」と聞き返すくらい知名度がなかっただろう。
羽前と聞いて、山形だと分かる人は少ない。越中、越前と聞いてあの辺りくらいまでは分かるけど、どっちがどっちかははっきりとしない。豊前、豊後だと、ちんぷんかんぷんだ。讃岐と聞くと、直ぐに、うどんと反応が返ってくるだろう。
うどんがなければ、お昼ごはんに困るサラリーマンも多いはずだ。讃岐うどんが、日本経済を支えていると言っても過言はない。しかし、中学生の時は、うどん屋と呼ばれるたびに嫌な気分になり、自分に自信が持てなくなっていた。
その頃、里奈は美しく成長し、男子の憧れの存在だったが、級友と話しているときに、調子に乗って、小さい頃、里奈と一緒にお風呂に入ったことがあると言ってしまった。それからだ、里奈が口をきいてくれなくなったのは。
その里奈が、チョコレートをくれた。50万周期の時を超えて、文化の記憶が蘇ったように(脚注1)、身近な存在を思い出してくれたのだろう。チョコレートを食べていないのに、甘い気分になり身体がぽかぽかしてきた。
里奈は、東京の女子大に進学する。二コタ大学に行けば、里奈と一緒にいることができる。渋谷のセンター街や高円寺の純情商店街を里奈と手をつないで歩くことを想像すると、じっとしていられなくなった。
両親に、二コタ大学に行きたいと言うべきか、言わざるべきか。もし、言ったら、親を悲しませることになるのは分かっている。子供に、お金が無いから我慢しろというのは、親にとってはとても悲しいことだろう。
翔太の親なら、二コタ大学に行きたいなら行けと言いそうだが、親が苦労するのが分かっているのに、我がままを言っていいのかと翔太は思った。翔太の心は、美しい正規分布から、ローレンツアトラクター(脚注2)のように千々に乱れた。
悩んでも答えが出ないし、進学の事を親にも相談できない。翔太はスマホを取り出し、親友の武志にLINEかけた。
「おれ、おれ、翔太や。勉強しょった?」
「もう寝よかと思っとったところや。どしたんや?」
「え~との~、それでの~」
「なんや、どしたんや?」
「二コタ大学、受かったんや。」
「ほんまか。良かったでない。」
「それでの、行こうかどうか迷いよんや。」
「なんよんな。ええ大学やし、東京に行けるんで。」
「そやけどの~、大学出ても、うどん屋継ごうかと思とるし。」
「大学出てから継いだら、ええだけやろ。それに、俺も東京の大学受けるし、翔太が東京におった方がええわ。」
「お前、ええやつやの。」
「里奈も東京やろ。俺たち田舎者やけん、都会や怖いでない。高層ビルが見たことないやろ。みんなで遊ぼうぜ。」
「おもっしょそうやの。」
「そうそう、里奈からチョコもろたやろ。国立の試験が終わったら、一緒にお返し買いに行くか?」
「武志ももろたんか?」
「なんよんな。里奈が、推薦で先に合格して、皆が勉強しているのに申し訳ないって夏美に話したら、喫茶店を手伝ったバイト代で、クラス全員にチョコ配ることになったらしいで。」
「あっ、スマホの電源が切れそうや。またな。」
「おう、ほなな。」
翔太は、充電78%のスマホをベッドの上に投げ出し、チョコを一つ口に放り込むと、残り一週間、国立の受験勉強を頑張ろうと、椅子に座ると参考書のページをめくりはじめた。
脚注1
超時空要塞マクロスより。50万年に遺伝子操作により、戦闘だけを目的に作られた種族。リン・ミンメイの歌を聞き、遺伝子が呼び覚まされ、文化の記憶が蘇った。
https://www.youtube.com/watch?v=uTRK8Ux2eXk
脚注2
初期値の違いにより、カオス的な振る舞いをする非線形常微分方程式の一つ
https://www.youtube.com/watch?v=S6R9fz6zACg
作者注
今週土曜日のブラタモリの舞台は香川県高松市。二コタは我慢して、NHKを見ましょう。
もう少し、夢をみさせてもらっても良かったと思います。せめて、ホワイトデーまで見させてくれたら、何をお返ししようかと、楽しい悩みを抱えることができたでしょう。棚からぼた餅で、お返ししたら、恋も実ったかもしれません。
大きな誤解をしとる。高円寺には、マックもケンタもある。ミスドはないけど、ドーナツのフロレスタ高円寺がある。スタバもコメダも無いけどドトールがある。ほこ天はないけど、盆踊りがある。渋谷、原宿と同じと言っても過言ではない。
大丈夫です。今回は、防衛大臣の出番はないでしょう。アメリカもNatoもウクライナを見捨てることにしましたので、政府専用機、もしくはC2輸送機を飛ばして、法人脱出を図ることくらいでしょう。働きながら勉強したり、学校に通いたくない子もいるので、選択肢が多い方がいいですね。私は、人里離れた山の中や無人島で暮らしたいので、ドワンゴに通います。
渋谷、原宿と並べてしまうのは いかがなものでしょう
地方の皆様から誤解のないようにお願いします ζ(^▽^;)∫アハハ
N高とS高 - N高等学校
学校法人角川ドワンゴ学園 N高等学校・S高等学校(通信制高校 広域・単位制)は、ネットと通信制高校の制度を活用した“ネットの高校”です。
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胡散臭い高校と思ってたんですが ニッポン放送アナウンサー吉田 尚記(よしだ ひさのり)の子供が入学したと話すのをラジオで聞いて「これはもしかして・・・可能性のある高校かな?」と思ったんですが、どうかな?
子供の数が激減しているので、大学の数をがっつり減らして、入学金も授業料も国公立も私立もタダ、ただし、国公立は無償に近い奨学金(半額返し)がついてくるくらいの、若者重視の政策にしないと、未来がなさそうに思います。
親に迷惑がかかるし、下に弟がいるしね。
最後のチョコを食べて国立大の勉強を頑張るところが、うけたよ。
みんなにやっていたとは。
トホホだね。
それは、NTT高校やNHK高校とソフトバンク高校でしょうか。さすが、放送法や電波通信事業法で守られているだけあって、寡占状態にするのが得意です。菅元総理に頑張ってもらって、もう少し携帯料金を下げてもらいたかったです。事業者系のコンサルタントの資料は日本は、米国や韓国より安いと主張し、総理の息のかかった総務省の資料では、世界最高水準、ロンドンやパリの2倍から3倍の料金です。情報リテラシー能力を磨いて、ウクライナ情勢の分析をしなければいけません。
たまちゃん
ゲームコーナーの開発が進まないのです。デベロッパーが資金難に陥ったのでしょうか。新たなニコ店イベントに裂く労力を、是非、ゲームコーナーの再建に費やして欲しいもです。私の希望では、戦車ゲームを取り入れてくれたら、一日2時間くらい二コタに向かう時間が増えます。これだけ時間がかかるのは、課金型ゲームにする野望を二コタ事務局が持っているのではないかと想像しています。
難しい専門用語は思い切りスルーさせていただきましたがw
ニコタ大学はすごいですよね。
山もあるし海もある。ヒツジ学園という系列校もあれば、
ショッピングにゲームを楽しめるエリアもあって。
渋谷、原宿、高円寺にわざわざ行かなくても、青春を謳歌できますよ。
(生徒数日本1とCMやってます)
高校のお話も宜しくね♪
学級委員~小学校や中学校でも引き受けてたんですね、高校もあったかしら?
もぅ忘れてしまった・・・(-.-)
娘の送るチョコケーキ・・・私が作りました(-.-)
ブラタモリ・・・戦争激化で飛ばされないことを祈ってます。
何かあっても東日本大震災後の時の様に画面L字型で字幕が入るだけかな?
尾道は、カメラ女子の聖地になっているらしいです。カメラをぶら下げて散歩ですね。尾道の商店街には、ピュアチョコを輸入してオリジナルチョコを販売しているCoco久遠、山の中で手作りチョコを作っているウシオチョコラトルのように美味しそうなチョコもあります。バレンタインを忘れてはいけません。
思った通りということは、作者の思考を読むことが出来る愛読者ということでしょう。決して、作者が安易だったのではありません。スズランさんの推察力が優れていたのです。
ってなりました。多様性もありますよね~(o_ _)ノ彡
有名大学に受かっていたら、美女関係なく悩みそうなのに、
堅実な主人公で好感が持てました。
最後のオチは思った通りでしたよ笑。
玉藻城あたりをふらふらしたと思うので、栗林公園、紫雲山、フェリー乗り場あたりでしょうか。以前、うどん編があったので、今回は、うどんは出てこないでしょう。私の予想では、サヌカイトと五色台が出てくると思う。屋島も怪しい。私立と国公立の違いは、親の負担です。
うちの中学生は、私立と国公立の違いは何なんだと調べているようです。
手に職や資格があった方が強いですね。看護師、教師やコックさんは、どこに行っても暮らしていけると思います。コックさんは、オーナーだと、幾つになっても、身体が動く限り、働けそうです。お爺ちゃん、お婆ちゃんが作ってくれるうどんは、キラリと光るものでなくても、毎日食べても飽きない素朴な味な気がします。
と自分に言いたい
手に職があったほうがよかった
今の私は稼げない中年女性 悲しい