仮面舞踏会 (後編)
- カテゴリ:自作小説
- 2022/03/31 00:11:52
※ ぶちゅう編もあるので、注意をしましょう
《昨日は、ありがとうございました。とても楽しかったです。茶道教室に入るとおっしゃってくれて、とても嬉しかったわ。入会案内のアドレスを貼っておきます。》
文雄はシャツをめくり、ちち毛を見たが、記憶が蘇らなかった。しかし、美穂に何を言われても、うんうんと頷いていたような気がする。お茶に興味はなかったが、お茶教室に入れば、毎週、美穂と会うことができる。文雄は、入会案内のアドレスとタップした。
入力を続けていくと、お茶道具の購入に移った。月謝1万円では、生徒が100人いても100万にしかならない。暇つぶしにはいいが、ビジネスモデルとしては成り立たない。茶道具の取扱も必要なのだろう。茶筅、茶杓、棗、茶巾、お盆、建水、袱紗、懐紙のセットで3万円。高いのか安いの分からないが、購入した。
画面が変わり、いくつかの茶碗が並んでいる。黒っぽい美濃焼が10万円、グレーにベージュが混じったような志野焼が100万円、曜変天目茶碗が3億6千万円。限度額が3億6千万円を超えているカードを持っている人がいるのだろうか。
志野焼の茶碗は、均整がとれているようで、少し歪ませてある。清楚な美しさの中に、男を惹きつける別の一面を持つ美穂のような茶碗だ。最初は、真ん中を選ぶのが無難なのだろう。志野茶碗をカートに入れて、ぽちっと購入ボタンを押した。
千利休は、「茶の湯とは、ただ湯を沸かし、茶をたてて、飲むばかりなることを知るべし」と言ったが、利休がこの茶碗は格別の物と言うと、その辺に転がっている茶碗が一国に匹敵する価値を持った。価値があるという共感が、ただの土くれを焼いたものに万金の値をもたらす。
戦国の梟雄松永久秀が愛でた茶釜、古天明平蜘蛛。信長の手に渡したくないがために、信楽山城で、久秀は平蜘蛛とともに爆死した。利休を誅したのち、秀吉は古田織部に、武家の茶の湯を展開せよと命じた。織部は利休の静謐さと対照的な動的な美を確立させた。美濃を代表する織部焼きとして今にも伝わる。
文雄の心の中に、茶道の精神がむくむくと芽生えてきた。早く、志野茶碗を手にしたかった。肌合いを飽きるほど眺め、そっと手に取り、指を滑らせ肌触りを確かめる。手の平で包み込み、唇をつけ吸う。吸う。吸う。そして、指先でぬぐう。お茶の心はおもてなし~。こらえきれず、美穂にLineを送った。
《入会しました。茶道具も揃えたから、手取り足取り教えてね!(^^)!》
美穂から、Lineが返ってきた。
《文雄さん、行動が早い。出来る男は違うわね。そうそう、義援金のアドレスも貼っとくから。》
文雄はシャツをめくりちち毛を眺めてみた。おぼろに記憶が蘇った。ワインを飲んでいる時、また、千羽鶴の話になって、酔払っていたので、千羽鶴を送るより、義援金を送った方が、ウクライナの人は喜ぶよねと、ついつい本音が出てしまった。そうしたら、美穂は、千羽鶴を送っているだけじゃないの。義援金も送っているのよ、少しだけ不機嫌そうな顔をしていた。気分を直してもらおうと、俺も寄付するよと言ったような覚えがある。
義援金のサイトを開いてみると、1万、10万円、100万円とアイコンが出ていて、その下に何口が数字をスクロールするようになっている。いったいいくら寄付をすればいいんだろう。ユニクロは12億円、資生堂は2億円を寄付していた気がする。会社の規模からは、30円くらいでいいが、10円のアイコンがない。
真ん中の10万円にしたいけど、ウクライナ国民のためというより、美穂のためという感じがしてきた。10万円だと、私をそんなに安い女だと思っているのと思われたくなくない。美穂の太ももの感触を思い出した。もう一度、触れたい。それに、困っているウクライナの人のためだ。100万円を1口、ぽちっとおした。
《義援金も振り込んだよ。美穂さん、今度、食べたいものある?》
《ありがとう。文雄さんが話していた、吉祥寺のいぶきに行っていたいわ。うどんを食べたくなっちゃった。》
かけうどんが360円。なんて、いい女なんだろう。てっきり、鮨や天ぷらと言われると思っていた。
《夕飯に、うどんは物足りないかもしれないけど、今夜はどう?》
《大丈夫よ》
《7時に吉祥寺駅西口のコメダで待ち合わせでいい?》
《はい。ちょっと遅れるかもしれないけど、待っててね。》
文雄は、今夜は酔わないようにしようと思った。コメダで珈琲を飲んで、いぶきでうどん。10分もあれば食べ終わるから、井之頭公園のベンチに座って、おしゃべりをしても、まだまだ、夜の時間は残っている。文雄は、Tシャツをめくると、ちち毛をつまみ、プチっと抜いた。
美穂を待ちながら、スマホをいじっていた。ネットを見ていたら、一本だけひょろりと伸びている毛は、宝毛と呼ばれて幸運を呼ぶと書かれていた。ばあちゃんは、抜いたら増えるからじゃなくて、抜いたら幸せが逃げると言っていたのかもしれない。
テーブルの置かれた珈琲はすっかり冷めていた。時計は7時30分を過ぎていた。美穂からの連絡が入っていないか、Lineのトークボタンを押したら、美穂がハンドルネームに使っていた『みぽりん』が、見つからない。友達ボタンを押しても見つからない。
戦車ゲームのチームからもみぽりんがいなくなっていた。文雄は、ちち毛を抜くべきであったのか、抜くなら何時が良かったのか、戦車ゲームをしながら考えようとしたが、ただ、戦車を動かすことしかできなかった。小一時間ほど、戦車ゲームに没頭した。
「一期一会」、人との出会いは、一生に一度。お茶の精神の神髄に触れた気がして、文雄はコメダ珈琲をあとにした。
創作小説を書くために調べた浅い浅いにわか知識です。学生の時以来、ひさかたぶりに、お茶を嗜もうかと、市民センターの講座を見に行きましたが、平日の昼間しか開講していませんでした。お茶でなくて、お茶菓子目当てなのがいけなかったのかもしれません。
小説の神様に会いに、放浪の旅に出てきます。
この手の男は、打たれ強いので大丈夫です。次の女性に向かって前進しているでしょう。前に前にです。
かわいそうだわ
文雄が馬鹿なのでは、ありません。男が馬鹿なのです。私も、京都のキャバクラで、ポッキー、千円、フルーツ5千円と巻き上げられました。
この騙されていく過程が わかるような気がしますw
みぽりんは、峰 不二子に似ていますね (*≧m≦*)
月謝1万円 茶道具3万円 茶碗100万円 義援金100万円
私が文雄の母親だったら ( -_-;)/~~~~~~~~~~~~☆ピシッ–ピシッ–ピシッ–
中学生には、人を見たら泥棒と思え、薔薇には棘があると、みっちり叩き込みましょう。後ろの方が大事です。
Lineをやりたがってる中学生に話しておきます。
みぽりんは、まだまだ、本当の悪人になり切れていないと思います。文雄のダメっぷりを見ると、1年位付き合うと、ティファニーのネックレスやポルシェも貰えたと思います。文雄さんは、紅茶党なので、抹茶の出番が少なそうですが、茶碗は、みそ汁を入れたり、ご飯をよそったりして使えそうです。
どの位お金を持っているかを探っていたとなるとずる賢いわね;;
美味しいお茶をたてられますように。。。
400年の伝統芸は、伊達ではありません。文化人類学的に、戦後の御茶文化を推察したところ、女性は良妻賢母としての役割が求められ、都会では主婦として家庭を守ることになった。しかし、家庭の中だけでは、社会とのつながりが関節的になり、それで、お茶を習うことで、家庭とは別の関係性を求めたとのことです。男女共同参画の時代になったことから、お茶文化も風前の灯火です。
mさん
ブックオフで半額で買いました。字が大きいので、すらすら読めるでしょう。前半は、プラトンからの復習なので、すっ飛ばしてもいいかもしれませんが、歴史は連続性なので、我慢しましょう。イノベーションが求められる会社かどうかによると思います。10人で話し合っても、いいアイデアは生まれません。一人のひらめきが大事なのです。
優秀な社員が100人いてもトップがだめだと会社は成り立たないので、社員の100人分くらいの給料でもいいような気がします。
↑
どうなんでしょう?
日本でも、カルロス・ゴーンの様に何かしらごまかして表に現れないように→実はポッポナイナイしてるとか?
「歴史の終わり」・・・ちょっと見たら2800円!分厚そうな本ですね\(◎o◎)/!
「ちち毛」ですか・・・はじめて聞きました。
二女がアトピー性皮膚炎でステロイド塗りまくって・・・そうか!あれは「ちち毛が伸びた」と言えばよかったのね(-.-)(-.-)
文雄さんも悟りを開きましたね。
でもアレクサ君が心配です。
彼が共感を勧めたから、うんうんうなずきまくったわけですものね。
はっ!もしかしたらアレクサ君はみぽりんに操られていたのかしら・・・
みぽりんは、凄腕の詐欺師です。文雄は、恥ずかしくて、警察には行けないはずです。ちち毛の話を聞かされても、警察も困るでしょう。しかし、一夜のチャンスはありました。もったいないことをしてしまいました。
おそるべしアレクサ笑。
これだけ実行力があるのだったら、文雄はチャンスを逃しさえしなければ、
又巡ってくると思いました。
けれど、その乳毛のくだりから予想して、そのチャンスを生かすのはかなり難しいかも?
とも思ったりしました・・・
一期一会、最初から美穂は入会金目当てでは?とも思いましたが、良いオチでした笑。